1-25.冒険者ギルド
村というには大きく、都市と呼ぶには小さい。王都のような城壁ではなく、木の板を並べた柵で敷地が囲まれている。柵の高さは大人の男の背よりも高く、板は隙間なく立てられているから中を伺うことはできない。
木製の門の前には門番がふたり。それからもうひとり、入門希望者の身分証明書を改める兵士もいた。
馬車数台分の列が出来ていて、兵士もその仕事に時間をかけるわけにはいかないから、手際よく確認をしていた。
僕の馬車の後ろにも、別のが並んだし。あと徒歩で旅する冒険者らしい者の姿もあった。
小さい町だけど、王都から近いのも事実。そこに用があった人の通りは多いのだろう。
「あたしはこういう者。村長に頼まれてね。この三人を通してほしいの。はい通行料」
「わかりました。ご苦労さまです」
「ありがとうね」
すんなり通行を許された。
「ね?」
「うん。すごいね」
「ふふっ。あの門番、あたしの胸ばかり見てたわ。書類の名前なんか全然見てない」
「へえー」
門から少し離れたところで許可証を、ビリビリと破き、近くの水路に捨てる。
町の雰囲気は、村よりも王都の端の方に似ている気がした。
家々はしっかりした作りで、人通りもそれなりにある。もちろん王都の中心地ほどではないけれど。
道は石畳が敷かれて舗装してあるけれど、王都ほど頻繁な補修は行われていないのか、所々割れてたりへこんでいたりする。
それでも柵の外の土よりは起伏が少ない。
「まずは冒険者登録から始めましょう。この小さな町にも冒険者ギルドの支部があるはず。町の規模に比べて仕事は多いしね」
森に囲まれてるから、採取依頼や害獣駆除の仕事が多いのか。
それに慣れてる人たちだから、大きめの狼を誘導してくれって依頼も引き受けてしまうのだろうな。
ここまで乗せてくれた村人は、彼自身の用事に向かう。お世話になったことを丁寧に礼を行って別れて、ギルドへと向かった。
町の中心部から少し外れたところに、冒険者ギルドヴェッカル支部はあった。たしかに少なくとも王都にあるギルドよりはずっと小さい建物。
昼間ということで、中に人の姿はあまりいない。新規の依頼は朝日と共に張り出されて、いい仕事を取り合うためにみんなその時間に殺到するからだ。
とはいえ、数人の冒険者はいた。寝坊したとか、仕事をする気にはなれなかったけど他に居場所がないとか。あと、飲みに行くのに他の冒険者仲間を探すとかかな。
けど、やっぱりこの時間のギルドに人がいるのは変だよね。
他に働く方法が無いとか、故郷に居場所が無いから流れてきた余所者とか、そんな人たちがなることも多い仕事。故にギルド内の雰囲気は上品とは言いにくい。
そこに女が複数人入ってきたら、どんな反応するかなんて明らかで。
ギルド内の冒険者の視線がこっちに集まり、ヒソヒソと話している。
「この町にあんなエロい女いたか?」
「やべえ。あのでかいおっぱい見ろよ」
「生意気に見せつけやがって。誘ってんのか」
「俺はあの褐色の方がいいな」
「あの格好どう考えても痴女だよな」
話してることがまる聞こえだ。しかも気持ちのいい内容じゃない。
「なんだかわたし、大勢の男性から見られてます?」
「言うほど大勢でもないし、見てるのはあたしとキアよ。あんたは眼中にない」
「えー! なんでですか!?」
「胸かしら」
「うぅっ。悔しいような。ほっとしたような……」
「なあ。アタシの格好、やっぱり変かな?」
「痴女だと言ったじゃないですか。わたしもキアさんみたいな格好をすれば、注目を浴びるでしょうか」
「……ヨナ」
「僕はそのままのティナが好きかな」
「!! ありがとうございますヨナ様! そうですよね! あんな男性に好かれるとか無いですよね! わたしにはヨナ様がいますから! 痴女みたいな格好しても! しょーもない男性しか来ませんから!」
「なんかムカつくのよね」
「ああ。別に男のためにこの格好してるわけでもないし」
「ティナ少し静かに。周りの迷惑になるから」
「はい!!」
「だから」
全方位に無意識に喧嘩を売るティナを鎮める。しょーもない男呼ばわりされた男たちが、明らかに顔をしかめている。
ゾーラは気にせず受付へ歩みを進める。女がひとり座っていた。鉄面皮と呼ぶべきだろうか。近づくこちらや、ヒソヒソ話す冒険者たちにも一切表情を変えない。
「この三人を冒険者登録してほしいの。あたしはいいわ。既に登録してるから」
ローブから、冒険者の登録証を取り出すゾーラ。学術院の以外にも、そんなもの持ってたんだ。
「旅先で資金調達するのに便利なのよ。大した仕事はしてないけどね」
登録証には八等級と記載があった。
「お前が稼げてないって言った冒険者と、同じ等級じゃねえか」
「あたしは片手間で冒険者してるだけだから」
そんな会話をしている間にも、受付のお姉さんは書類を用意した。
普段、荒くれっぽい男たちはを相手に仕事をしてるからだな。多少変な会話をする集団が来ても動じないのだろう。胆力がなきゃ務まらない仕事だ。
書類の項目を埋めていく。
「アタシ、文字書けねぇんだけど」
「僕が代わりに書くから」
名前や年齢や、職業などを記入。僕の場合本名をそのまま書くわけにはいかないから「ヨナ」とだけ記す。別に珍しい名前じゃない。
「職業?」
「ヨナくんとティナは剣士って書いておきなさい。キアは斥候とかでいいでしょ。誰かと即席パーティーを組む時の参考になるとかの情報だから、あなたたちには関係ないわ」
「へえー」
さっさと記入してお姉さんに渡す。登録証を作って持ってきてくれるとのことだ。
あっさりしたものだな。
「よう。姉ちゃんたち。初心者なんだってな?」
「俺らが冒険者ってもんを教えてやるよ。手取り足取り、な」
不意に、ガラの悪そうな二人組の男が声をかけてきた。図体はそんなに大きくないな。どちらも腰に剣を差している。
「うわ来たー! け、けけけけ結構です! わたしたち冒険者のこと! よく知ってますから! ヨナ様相手してはいけません! いざという時はわたしが守りますから!」
ティナが震えて、僕の後ろに隠れながら言う。気持ちは嬉しいけど、近衛兵なら前に出てほしいな。
「あら。ご親切にどうも。けど、この子たちはあたしが世話することになってるから。気持ちだけ受け取っておくわ」
ゾーラが庇うように前に出て、登録証を見せる。が、男は鼻で笑った。
「八等級か! 新入りだなあ。俺らの方が上だから、素直に従ってろよ!」
「冒険者としては俺たちの方が先輩みたいだな!」
自らの登録証を見せる。なるほど七等級だった。登録証の色合いも変わっている。
「どうだよ。冒険者なんてやめて、俺の嫁になれよな。その方がよっぽど合ってるぜ?」
「ガキのお守りなんてやめとけよ。それより俺と遊ぼうぜ?」
しかし今度はゾーラが笑う番だった。
「あら。頑張ったのねぇ。こんなしょぼい町に大した仕事なんて無いでしょうに。農場を荒らすウサギさん何匹捕まえたら七等級に上がれるの?」
「おい女。馬鹿にしてんのか?」
「いいえ。ウサギさん捕まえるのは大事な仕事よ。けど、貧相な格好の男がウサギと追いかけっ子してる様子を考えたら……ふふっ」
褒められながら笑われたことに、男たちは怒り心頭だ。




