理想像
ダライアス・ダイナーは、ルッキズムを推奨する気はない。
だが、魂の美しさを肉体から感じ取ることはあると信じているし、それを表現することに誇りを持っている。
大人になれない大人のオタク趣味だ、と笑う者は多い。だが、ダライアスにとってプラスティックモデルは、石膏像を作るのと大差ない。ただアプローチの仕方が違うだけ。出来上がったものが、二次元的な立体物か、三次元を写し取った物かが違うだけ。
ダライアスが女性の素体を作るのも、また同じだ。求めているのは、理想の女神像。あるいは女性型の天使像。この天が墜ちる世界において救世主となるような姿を追い求めて、試行錯誤の日々だった。
ダライアスは、よく豊満な女性をモデリングしている。表現するところは包容力。満たされていると分かってこそ、人はそのひとに救いを求めることができる。それがダライアスの言い分だった。
だが、現実はどうだろう。
ある日、ホビーショップに納品したときのこと。ダライアスは天使に出逢った。金髪碧眼、端正な顔立ち。人間でいうと十四歳くらいに見える彼女は、実に薄い身体をしていた。
正直に言うと、がっかりした。いや、悔しいというのが正確だろうか。天使というからには飛ばねばならぬ。であれば、身体は軽いほうが良いだろう。空気抵抗なども考えると、それこそ薄いほうが――
……夢が、ない。
早速ディスプレイされた豊かな身体つきの理想像と平たい現物を見比べて、ダライアスは肩を落とした。己の理想は願望に過ぎなかったのだと思うと、今までの自分の表現の意義を考えてしまう。
「……そんなにがっかりすることはないだろう」
目の前で天使が口を尖らせた。誤解されているのは分かったが、口は重たく開かなかった。心境を語れば己の卑しさが露見するだけのような気がして。
天使は、ダライアスの作品をなめるように見た。それこそコルセットの着用が一般的だった頃から理想とされてきたメリハリのある身体は、白い簡素なローブに覆われて。清楚な中から覗くすらりとした手脚。長く真っ直ぐな金髪は、風に靡いているかのよう。顔はもちろん美しく、少し頬を赤くして愛らしさも見せて。白い六つの天使の翼は、まさしく天に昇るように力強く。
ううむ、と天使は顎に手を当てて唸る。
「すごいな、私にないものばかりだ」
羨ましい、などと言うものだから、ダライアスは目を丸くした。
天使も人間も、案外受け取るものは同じなのかもしれない。




