幻滅
この世界の状況に、アトラ・マッカレルは憤りを覚える。
天の墜落に直面して、何もしない人間があまりにも溢れているから。
頭の中から湧き上がるイメージを、勢いのままに出力する。泡のように生まれ弾けていく物語を捕まえる。
アトラは、大学生活の傍らでウェブ小説を書いている。ただの趣味でも、プロを目指しているわけでもない。アトラにとって執筆は〝活動〟だった。物語を通して、人々の勇気と使命感を掻き立てようとしている。
世界の終わりを前にして、今の人々はあまりにも無気力だった。どうにか自分たちが生き残る未来を掴もう、という気概が感じられない。このままでは世界は救われない。
だから、アトラは物語を通じて人々に呼びかけている。立ち上がれ、と。
効果はまだまだといったところだが。
それとはまた別に、創作活動というものは、何処かで壁にぶつかるもので。
「あー……分かんねぇ」
ノートパソコンの前で頭を抱える。今アトラが書いているのは、自然災害のパニック物だ。現実と似た状況の世界で、脅威に立ち向かう人々を描くことで、少しでも世の中を勇気付けていけたら、と思っているのだが。
「科学的知見が、なさすぎる!」
何故その事象が起こったか。対抗するにはどうすれば良いのか。話の筋にはそれが必要で、でっち上げるためにも科学的な知識が必要だった。
ネットで検索しても、いまいち分からない。ならば、と本を求めて街に出た道すがら、科学教室のチラシを見つけた。募集対象の年齢は問わないとのこと。
インターネットや本よりも、誰か訊ける人を作るほうが良いかもしれない。そう思い、申し込んでみた。
科学教室の参加者は皆、生き生きとしていた。ニコルという名の講師も、そんな人々を見て楽しそうだった。
アトラはニコルと仲良くなり、様々な疑問をぶつけていった。ニコルは、当人なりの調査と考察を交えて意見を返してくれた。お陰で、小説の糧は増えていく。
だが、それでも、まだ躓く石はある。
「先生だったら、どんな風に世界を救います?」
ある日。またも執筆に行き詰まったアトラの質問に、人当たりの良かったニコルの顔から表情が消えた。何も言わず目を伏せ、それから空を見上げる。
天は墜ちてきているはずなのに、その実態は地上から見上げるだけでは分からない。
「…………私には、世界を救えない」
この人も諦めるのか、とアトラは失望した。
どうして皆、そんな無力を噛み締めるような表情をするのだろう。




