第40話 Wクエスト・トイメイカー
今回も違う人の視点です。
勘違いをしていた。
目の前の少女はまだ人間だと。ボクはそう勘違いをしていたのだ。
それがわかったのは、目の前の少女、メロディアが使い物にならなくなった左腕を引き千切ったのを見た時だった。
思わずその場から後退ってしまうほどの光景にボクは嫌でも理解した。
この娘は人間を辞めていたのだと。
考えてもみて欲しい。仮想現実、ゲームの中とはいえ、最低でも半分の痛みがあるなか、邪魔だからと躊躇もせず、ぶら下がった自分の腕を引き千切る。
これのどこに人間味があると言うんだろうか?
ましてや、メロディアは引き千切った際、眉一つ動かさなかった。
ああ、この娘は必要とあればリアルでも同じ事を躊躇いなくやるのだろうと思う。
……そんなものをボクは断じて人間とは呼ばない。
だから、これからボクがするのは化け物退治なのだ。化け物を退治して少女を人間に戻すのだと、そう思っていた。
今、この時までは……
「誓う。我は空、我は鋼、我は絶、我は一振の刃にして、常世全ての不義を討つものなり、我が銘はメロディア。罷り通る。絶招之拾天拳!!」
呼び起こしたのはとんでもない“化け物“だった。
怖気振るうとはこの事だと言わんばかりに冷や汗が止まらない。
ボクが死力の限りを尽くしても、二手、いや三手は足りない。そんな格の違い。
どうすれば、どのような地獄を見れば、中高生ぐらいの少女がこのような化け物になれるのか、なまじ経験があるだけに、想像ができない。
ただわかるのは、目の前の少女、メロディアがボク以上の地獄を経験してきたという事だけ。
そしてボクにはこの娘を救うことができないという事実だけだった。
動きを見る事ができたのは奇跡に近いと思う。
先程までよりも数段速く、無駄がない動きでボクの背後に回る彼女を見失わなかった。
だからといって身体が反応できるわけではなく、彼女の小さな呟きと共にトラックにでも轢かれたかのような衝撃がボクを襲った。
「絶招之漆、絶火」
背後からきた衝撃に、足が地から離れ、肺の酸素が空になる。そして口の中に広がる鉄の味。
「……ち!!」
「絶招之肆、八重桜」
合気系の技だろう。苦し紛れに振るった槍は空を切り、ボクは宙で回転していた。
そのまま、右腕を掴まれると景色が混濁した。
「絶招之玖、輪廻天道地獄」
遅まきに地面に叩き付けられたのだと理解した時には、違う場所に叩き付けられ、繰り返し叩き付けられ続ける。
手ではなく腕を握られている為、振り解く事もできない。
しばらく、続いた衝撃が消えフワッと宙を舞う感覚に次いで強烈な蹴撃が放たれる。
「ごほっ!」
蹴り飛ばされた勢いを殺しながら体勢を整えようとして、目の前に彼女がいるのに気付く。
蹴り飛ばしたボクを追ってきたんだろう。
まったく、容赦がない。彼女の目を見れば、そこには何の感情も写ってなかった。
あまりに無機質、先程までの憎悪を向けていたのが嘘のようだ。
ああ、なるほど天拳とか言う奥義は自己暗示でも掛けるような技か。
ただ目の前の敵を如何に効率よく壊すのか? 如何に効率よく殺すのか? それを邪魔する理性を捨て去るような技なんだろう。
──ふざけるなよ……
「絶招之弐、覇愛屠却血」
ボクの左胸目掛けて抜き手が迫る。それを辛うじて躱す。メロディアの右手が躱わし切れなかったボクの左肩の肉を抉る。
その痛みを無視して、崩した体勢の中反撃をする。
彼女の腹を蹴り飛ばして、マギアを発動。
「OM【フレイムリバー】」
目を眩ます為に威力よりも範囲攻撃を選ぶ。
炎の津波が起こり彼女に迫る。次の手を打とうとして、ボクは地面へと崩れ落ちた。
「絶招之参、極天極花」
今のは遠当て? そんな優しい威力じゃなかった……
ざり、ざりっと一歩、また一歩、死の権化が近付いてくる。
……痛い。痛すぎてどこが痛いのか、既にわからないほど痛い。
不意に思う。何でボクはこんな事をしているんだろうか?
らしくない。
そんな言葉が過る。
ああ、らしくない。らしくなさ過ぎる。
ボクは誰かを救う側の人間じゃない。ボクは誰かを陥れる側の人間だ。
正義の味方じゃなくて、悪の幹部とかがボクだ。
でもさ、しょうがないじゃないか……
彼女と出会ってしまったんだから……
笑っているのに、泣いている彼女を見てしまったんだから……
初めて彼女を見た時、理解した。彼女はボクだと──
救われる事のなかったボクなんだと。
ボクは救って貰った。でも彼女は違った。
しばらく彼女を観察して、益々ボクに似ていると思った。一般人とは思えない技術、時折見せる暗い瞳に、烈剣に依存している姿。
見れば見るほど、ボクに似ている。まるで写し鏡だ。
そう思ったらダメだった。見て見ぬふりなんてできなかった。
助けてくれなんて言われていない。完全なる余計なお世話。
ただの独り善がりで自慰みたいなものだと理解していて……
それでもなお、ボクは彼女の前に立ったんだ。
ボクがボクである為に。
ああ、らしくないのなんて百も承知、元より彼女を救うのはボクの役目なんかじゃないのも理解している。
……でも、救えなくても、少しでも寄り添ってあげられればいい。
こうして、ボクに憎悪を向けて、少しでも彼女に変化があればいい。
時間稼ぎでも構わない。最終的に彼女が救われるのなら、その手助けを少しでもできたのなら──
「ボクの、トイメイカーいや、葛城夢唯として、最高の誉れだ」
気力を振り絞って立ち上がった。
そんなボクを見るメロディアの顔に、少し困惑の色が見えたのは気のせいか? はたまたボクの願望だろうか?
どっちでもいいか。今はただ……なすべき事をなすだけだ。
「私は、まだ生きているぞ、暴虐姫」
ボクの挑発に答えるように殺意が襲い掛かってくる。それを躱わして、捌いて、いなして、一合でも多く、一秒でも長く、彼女と踊る。
「っ、」
無機質だった瞳に色が戻る。
「何が」
技名しか告げなかった口が問い掛ける。
「何がそんなに」
能面だった顔に表情が生まれて。
「何がそんなに嬉しいの?」
さぁ、そんなものボクにもわからないさ。
「さぁて、ね!!」
問い掛けながらも手を止める事のない彼女に合わせるように拳を繰り出そうとして、そこがボクの限界だった。
迫りくる拳を前にして、限界を超えた身体が崩れ落ちる。
その拳はボクを確実に殺すだろう。避ける事も受け止める事もボクにはできない。ボクはその拳を受け入れようとして目を閉じる。
だけど、いつまで経っても衝撃がこない事に訝しみ目を開けると、見知った背中がボクの前にあった。
幼い頃から見知った背中、広く大きく、頼りになる背中。
何でここにいるのかわからないけど、いつもボクが危ない時に駆け付けてくれた背中だ。
「……ティー、ダ?」
「……まったく、あれほど人様に迷惑を掛けるなと言ったのに、お前は仕方のない奴だ」
こちらを振り替えることなく、怒り三割、労り七割の声音が響く。
「それが、私の、性分だから……勘弁、して欲しいな?」
「すまないメロディア。コイツの手綱を放した俺の責任だ。言う通りにするからこの場は矛を納めてくれないだろうか?」
この通りだと頭を下げるティーダ。
それを見て、メロディアは一つため息を吐くとこう言った。
「貴方には借りがあるから……」
どんな借りなのかわからないけど、メロディアにはもうやる気がないようだ。
そんな中、廃都の方で炎の奔流が空に真っ直ぐ伸びる。
あれは……【烈剣】か?
似たような技があるからなんとも言えないけど、そんな予感がする。
少しして馴染みのある告知音がなった。どうやらクエストをクリアしたらしい。
ティーダとメロディアもそう思ってウインドウを開いたんだろう。
ウインドウを開いて、そして固まった。
そこにはこう書かれていた。
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クリア条件変更
悪魔デュークの自爆を阻止せよ。
*自爆の阻止に失敗した場合、盛大なペナルティーがありますので、頑張って阻止してください。
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より面白くなるように努力中です。何か意見があったら言ってください。お待ちしてます。
感想があると嬉しくなる今日この頃。




