第38話 Wクエスト・天拳
おそらく年内最後の更新になります。
弓を射る訳でもなく、片手に突っ込んでくるって何をする気なのか? その答えはすぐにわかった。
左手の弓をクルリと回し弓弦を私へと向けて振られる腕、流派によって多少違いがあるけども弓術の接近された時用の技だ。
弓弦による斬撃をすんでのところで左に躱す。いや、そう躱すように誘導された。
躱した直後に顔目掛けて飛び出てくる右手に握られた鏃を歯で噛み、お返しとディアボロッソを振るう。
「おっと」
無理な体勢で振るった為、速度の出なかったディアボロッソは空を切った。その隙に相手から距離をとって体勢を立て直す。
「ぷっ」
咥えたままの矢を吐き捨て相手を見据える。
「あ~、完全に避けたと思ったんだけど、まさか弓弦を切られるとは思わなかったよ」
先程の攻撃は外したと思ったんだけど、どうやら相手の武器を破壊できていたみたいだ。
壊れた弓を投げ捨て、虚空をタッチするように腕を振るうと長剣が現れた。
「そうそう、自己紹介の途中だったねぇ、私はトイメイカー、以後よしなに暴虐姫」
「別に自己紹介とかいらないから」
◆
「はぁー」
メルと別れてからずっと俺の事を睨んでくる二人の視線に辟易として、溜め息が思わず吐いて出る。
もう廃都も見えているし、そろそろ機嫌を直して欲しいもんだ。
「ほら、そろそろ廃都に着くんだから、機嫌を直しなよ二人とも」
メル事を理解しているリズがとりなしてくれるが、テッタとスリーピンは納得がいかなさそうだ。
「でも……」
「メル姉一人ジャもしもノ事ガ」
もしも、もしもねぇ。
ねぇわ。あり得ない。
「あそこで襲ってきたのがPKだったら、メルにもしもなんてあり得ない」
mobだったならまだしも、対人戦においてメルが遅れをとるなんて、それこそ母さんや先生達レベルの相手じゃなきゃあり得ない。そんな存在が、そうホイホイ居てたまるか。
まぁ、テッタやスリーピンはわからなくて当然だけども、そう喧しくしないでくれ。
「例え大人数でいようと同じだ。アイツは人が相手なら何人いようと鼻で笑い蹴散らすし」
なんせ、アイツほど人を壊す事に長けた女子高校生を俺は知らないからな。
「それに二人にはキツい事かもしれないが、アイツに合わせるには力量不足だしな」
そこら辺を理解しているからリズは素直にメルを残したんだろう。
「それでモ」
だんだんと戦闘音が聞こえ始めてきた。
そろそろ悠長に話してる余裕はなさそうだ。
「心配なのはわかるけど、アイツなら大丈夫さ。なんせ──」
一拍の間を開けて力強く言う。
「なんせ、アイツは2日とはいえ俺の姉貴なんだぜ?」
絶対に面と向かっては言えない事だけどな。
「俺達に出来るのは、帰ってきたアイツにイベントは楽しかったよって言って笑ってやる事だけさ」
俺達の行く手を阻むようにmobが襲い掛かってくる。
「OMA【炎扇烈火】」
愛剣を鞘から抜打ち、そこから扇状に拡がった炎の斬撃がmobを蹴散らした。
「だからさ。楽しんでいこうぜ」
足を止めることなく振り返り、そう微笑みかけた。
◆
甲高い音を鳴らして金属同士が火花を散らす。
トイメイカーと名乗った目の前の敵と打ち合うこと十数合、私のディアボロッソと打ち合ってまだ剣の形を残している事に驚く。
「まったく、君の戦斧は刃毀れしていないっていうのに、私の剣はボロボロとか、笑えないねぇ」
笑えないのは私の方だ。真っ正面から打ち合えば一撃で叩き折れる程度の代物で十数回も打ち合ったのだ。相手の技量が高い何よりの証拠だ。
「見た感じ鋼の☆5ってところで、ミスリルと打ち合う事に私は笑えないんだけど?」
「あは、見ただけで等級を当てるとは凄いねぇ」
速い踏み込みと共にボロボロの剣が真上から振り下ろされる。それに合わせてディアボロッソを振り上げると、キンっという音と共に剣が真っ二つになった。
相手が武器を失った隙を逃さないように振り上げたディアボロッソを打ち下ろそうとして目を見張る事になる。
「【クイックチェンジ】」
トイメイカーの右手から折れた剣が消え、変わりに槍が握られていた。
すぐさま放たれた刺突を半身を反らして躱し、今度こそ脳天をかち割るつもりで振り下ろす。
「っ危ないなぁ」
刺突した勢いを殺さないように転がり必殺が躱される。
まったく、一般人とは思えない技量といい、インベントリを操作しないで武器を出してみたり、色々と驚かされる。
「あは」
癇に障る嗤い方だ。
「何がおかしい?」
二つの金属塊が軌跡を描き、担い手たる私達はそれを躱し、捌き、いなし、弾く。
さながら輪舞曲でも踊っているかのように互いの位置が入れ替り立ち替わる。
「おかしい? それは違う。私は嬉しいのさ」
「嬉しい?」
「そうだとも、ここまで自分の写し鏡のような存在に出会えるなんて、運命論者ではないが──」
首を狙った横薙ぎを躱し、トイメイカーは口を三日月にして言う。
「運命を感じずにはいられない!!」
勝手な事を言ってくれる。もはや呆れを通り越して、殺意しかわかない。
「誰が? 誰の? 何だって!?」
「あは、認めたくないって顔をしてる」
逐一不愉快な事を囀ずる口だ。
「互いに一般人とは違った技術を持っていて──」
……黙れ。
「他人の目を気にしていて──」
……煩い。
「そして、仄暗い瞳をしている」
…………
「そしてなにより、誰かに依存して生きているところが同じだよ」
「いい加減にその締まりのない口を閉じろ!!」
目の前の存在が私と同じ? ふざけるな。そんな訳があってたまるか。
冷静さを欠いた攻撃は軽く避けられ、今までとは違い距離をとられる。
「あは、そいつは聞けないお願いだぁね」
「殺す」
一秒でも早く目の前の存在を消してしまいたい。そんな衝動に身を任せ踏み込む。
思えばこんなにも他人を嫌悪したのは、あの男以来かもしれない。そして、それがなによりも不快だった。
いつもの私らしくない。
そも、いつもの私ってなに?
他人の前で演技してる私か?
勇気や叔母さん達と触れ合っている時の私?
父さんや母さん、真音が生きていた頃の私?
まぁ、良いや。ごちゃごちゃ考えるのは、敵を殺してからにしよう。ターニャ先生もそう言ってた。
「んん、直接戦闘の技量だと私に分が悪いかなぁ」
そう言って、また距離をとろうとするが、そうはさせない。
「あは、これならどうかな? OM【ダイス神の言う事は絶対】」
私の追撃は間に合わず、トイメイカーのマギアが放たれ、バラエティー番組で見るような大きさの賽子が三つ転がった。
咄嗟に魔力操作のスキルでディアボロッソを魔力を纏わせ賽子を斬ろうとする。
武器を魔力で纏わせるとマギアを斬れたり叩けるようになる。イベント直前にシェスカ達と発見した事だ。
だけども、ディアボロッソは賽子斬るどころか触れる事さえ出来なかった。
賽子が振られ、一が三つ揃う。それを確認した直後、私は大空に身を投げ出された。
これがさっきのマギアの効果!? 強制転移といったところだろう。
森が真下に広がって、少し先に廃都が見える戦闘によるものだろう。時折炎や雷などが派手にあがっていた。
慌てても仕方ないと、スカイダイビングの経験をいかして背中で風を受けるように姿勢を整える。
さて、どうする? このままだと地面に叩きつけられてミンチになるのが確定。
不愉快なアイツを殺すのにどうすればいい?
空を見上げ思考する事数秒、よし射殺しよう。
クルリと回転して下を見るように姿勢を変え、ディアボロッソをインベントリへと戻し、代わりに暴虐弓と矢の代わりである槍を取り出し弓弦に番える。
スキル闘気を使用し目の強化をおこなう。
魔力操作と共にアンロックされたスキル闘気は、アニメや漫画などでは馴染みの深いスキルのようだ。端的にいえば自己強化スキル。
自分の任意の部分、任意の能力を強化できるスキルだ。
ラグナロクの連中に教われた女の子を助け出す時に使用したのもこのスキルである。
強化された視力で眼前に広がる森を一瞥、居た。
暢気に空を見上げて私が落ちてくるのを眺めている。
それを確認してすぐに視力強化を解除する。
このスキルにも欠点がない訳じゃない。色々とできる代わりに、凄まじく燃費が悪い。強化している最中絶え間なくSTをドカ食いするのだ。
ま、居る位置がわかれば後は関係ない。少し外れても吹き飛ばせば無問題だ。
それは弓ではなく榴弾や迫撃砲の間違いだろうという突っ込みは野暮なのでしないで欲しいけど
弓弦を引き絞り、アイツを地獄に落とすアーツを宣言する。
「OA【フォボス】」
弓弦から手を放すと共に空気を破裂させて矢が放たれる。
矢が放たれた瞬間、僅だが重力に逆らう程の反動が襲う。
地面へと着弾すると、盛大な音と共に土煙が上がり、辺りを吹き飛ばした。
それに満足する事なく、二の矢、三の矢と射続ける。
次第に近付く大地、着地準備の為暴虐弓をしまって、使い捨て用の長柄斧を取り出すと回転を始める。
「OA【絶体絶命錐揉み大旋斧】」
サイクロップスジェネラルを消滅させた時に使用したアーツ、威力だけを突き詰めた。非効率な技の鏡だけど、フィニッシュの時にでる強い風圧で落下速度を減速するのが目的だ。
目論見通り、辺りの土煙を吹き飛ばし、私の体が一瞬停滞する。その間に闘気で全身を硬化、足から着地し勢いを殺さないように転がり受け身をとる。
流石に無傷とはいかなかったものの、多少の擦り傷と打ち身のみで、パラシュートなしのスカイダイビングを完遂したわけだけど……
「地上にいなかった間に、随分と様変わりしたなぁ」
主に私のせいなんだけど、森であった場所が軽く平地になっている。
ま、これだけやっても死んでないんだろうけ、ど!!
飛来した火の球を右に避ける。
「あは、まったくもって、迫撃砲か榴弾、もしくはミサイルでも持っているのかね?」
「……答えるとでも?」
多少の汚れがついてるだけで、特に傷が見えない。まったく非常識な。
「くひ、そりゃそうだね。しかしあの高さからパラシュートなしで落ちて擦り傷ぐらいしかないなんて、なんて非常識な」
遠距離からの攻撃は効果が薄そう。なら、ディアボロッソで直接叩き切ればいいだけ。
「おっと、そうはさせないよ。OM【フレイムリバー】」
駆け出そうとした矢先、炎の津波が巻き起こる。
「【食い散らかせ、ディアボロッソ】!!」
私の声に答えるようにディアボロッソが変型、回転を始める。更に魔力操作で魔力を纏わせる。
「OM【断魔の風斧】」
炎の津波をディアボロッソで切り開き、勢いよく振るった事によって生まれた真空波が刃になってトイメイカーへと飛ぶ。
「っ!!」
真空波は頬に傷をつけただけだったけど、慌てて避けたトイメイカーが体勢を崩した。
絶好のチャンスだった。
「しまっ!!」
殺った。ディアボロッソをトイメイカーへと振り下ろす寸前で、アイツの口が三日月につり上がるのを私は見た。
「なんちゃった。【猿真似】【断魔の風斧】」
次には私は宙を舞っていた。
少しの浮遊感。その後に地面に叩き付けられたであろう衝撃が身体を駆け巡り、次いで左腕から痛烈な痛みが襲い来る。
「あ、あが……」
咄嗟に左腕に闘気を集中して防御したから即死はしなかったけども、痛覚軽減率20%の痛みが思考を鈍らせる。
──痛い、いたい、イタイ、痛い、いたい、いたいイタイ痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ。
それもそうだろう。左腕を見れば、肩口からバッサリと切られて、皮膚と少しばかりの肉で辛うじて繋がっているだけの状態だ。麻酔無しで腕を切られる痛みが痛くない訳がない。
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ。
──ホントウニ?
──イタイ?
──ソンナコトナイ。
──ダッテ、
──ダッテワタシハ。
──ダッテ、ワタシハモットクルシイイタミヲシッテイル。
──ダッテ、ワタシハモットカナシイクルシミヲシッテイル。
立て、生きている限り。
敵がいるなら、排除しろ。
やると決めたなら迷うな。やり通せ。
身体に力を入れて立ち上がる。
ぶらぶらとぶら下がっている左腕が邪魔だ。
左腕を掴み引き千切る。
「そうだ。私はもっと痛い事を知ってる。それに比べたらこんなもの、全然痛くない!!」
自分で自分の腕を引き千切る姿にトイメイカーは気圧されたのか、動く気配がない。
丁度良い。今のうちに減ったSTの回復と止血をする。
しかし、とんだ失態だ。これは現実と違って魔法もあるのだから、あそこから切り返せる何かがある可能性を考慮していなかった。
まったく、ぬるま湯に浸かり過ぎて少し弛んでいたのかもしれない。
だから、本気でやろう。
「ごめん。本気で殺すから……」
「っ!!」
私から距離をとる。またマギアによる攻撃をしてくるつもりだろうか?
でも関係ない。
「誓う。我は空、我は鋼、我は絶」
叔母さんから教わった絶招の中で攻撃用じゃないのが三つある。今から使うのはその中の一つ。
「我は一振の刃にして、常世全ての不義を討つものなり」
口楔による自己暗示、それが最後の絶招。
「我が銘はメロディア。罷り通る。絶招之拾天拳!!」
休みが欲しいです。




