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親友の妹はなぜスト子なのか?  作者: 南条仁
第2シリーズ:恋を奏でて、愛を信じる
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第22話:その真実は、あまりにも突然に


「うふふ、シアの人生で一番のモテ期到来かも?」


 本日は文化祭で、朝から思う存分に楽しむ信愛と総司である。

 かなりご機嫌な様子の信愛。

 しかし、総司の方はというと面白くなさそうにふてくされた態度で、


「はん、モテ期ねぇ?」

「あれ? 同じ動画に出てたのに、モテ期が来ないことが不満ですの?」

「違うっての。お前が人気あるのは知ってたけどさぁ」


 文化祭は大盛況で、一般客も含めて大いに賑わっている。

 そして、先日に撮影された学校案内のPRビデオがあちらこちらで放送されている。

 動画を見た一般人が実際の信愛の姿を見てナンパ紛いに声をかけてくる。

 その度に総司が悪い虫を追い払う。

 繰り返された対応に疲れてきた彼は嘆き悲しむのだ。


「ちくしょう。なぜ、俺が信愛の恋人だとあの動画で言わなかった」

「みんな、信愛の事を知らない人ばかりだからフリーだって思ってるんだね。あはは」

「面倒なことを……。お前は余裕だな」

「男の子たちにモテるのは悪い気分じゃないもん」


 元々、ちやほやされるのが大好きな甘えたがり女子である。

 もし、信愛が総司と付き合っていなければ、相当な小悪魔になっていたであろう。

 それが想像に難くないため、笑うに笑えない総司である。


「総ちゃんは私がモテると少しご不満なようです。焼きもち妬いてる?」

「……別に。妬いてませんよ」

「ふふっ。素直じゃないなぁ。そんな総ちゃんが好きだよ」


 信愛に抱きつかれて彼は「どうも」と渇いた笑いを浮かべる。

 一喜一憂させられて、翻弄されてる自分が情けなくもある。

 結局のところ、好きな女の子を独り占めしたい、男の独占欲なのだ。

 

「人気と言えば、恋奏先輩も例の動画で大人気みたいだね」

「あの人はその人気に無自覚でいるからな。ある意味で大物だよ」

「一言でいえばマイペースだもん」

「そこがいいんじゃないか。流されないって大事なことだぞ」

「人生に流されてばかりの総ちゃんは見習うといいの」

「……お前が言うか」


 お前にだけは言われたくない、と総司は信愛の髪をくしゃっとする。

 ふたりで文化祭を回ってると、信愛の携帯電話が鳴った。

 着信名はなし、どうやら見知らぬ番号からのようだった。


「誰から?」

「んー? 知らない番号からです。はいはい、シアですよー」


 信愛が電話に出ると、相手は恋奏からだった。


『こんにちは、信愛ちゃん。恋奏です。いきなり電話をしてごめんね』

「恋奏先輩?」

『マキから電話番号を聞いて連絡したの。今、時間あるかな?』

「総ちゃんと遊んでるだけなので大丈夫だけど、何かご用事?」

『私は今、二年の教室で喫茶店をしてるの。お店に来てもらえない? できれば、ひとりで来てもらえないかな。デートしてる最中に無理を言ってるのは承知してるけど』


 恋奏からのお誘いに「どうしよっか」と信愛は思案する。


「恋奏先輩からお誘いされちゃった。一人で来てって」

「先輩から? だったら、行って来いよ。少しの間だろ」

「その間、総ちゃんはどうするの?」

「ちょうどいいや。俺も友達のバンドを見に行ってくる。また後で合流しようぜ」


 総司にそう促されて「分かった」と信愛も返事をする。

 

「オッケーでーす。恋奏先輩、今からそっちに行くよ」

『ありがとう。無理言ってごめん。待ってるわ』

「はいはいー」


 わざわざお誘いされてしまったのだ。

 何か用事があるのだと思い、彼女は二年の恋奏の教室へ向かうのだった。






 恋奏の教室はクラスの出し物の喫茶店でそれなりに賑わっていた。

 その中で、ウェイトレスをする恋奏が手をあげる。


「こっちよ、信愛ちゃん」

「先輩、可愛い服だねぇ。そういうの良く似合ってるよ」

「そう? それならよかった。来てくれてありがとう」


 ウェイトレス姿の彼女はとても素敵で、いつも以上に魅力的に見えた。


――男子人気なのはこの美人ゆえに。くっ、シアも大人っぽさがあれば……。


 可愛い系である信愛にはない美人オーラが悔しい。

 窓際の席へと信愛を案内すると、「予約席」と書かれたプレートを外す。

 わざわざ、信愛が来るまで席を押えてくれていたらしい。


「私たちのお店自慢のホットケーキをプレゼントするわ。先日のお詫びもかねてね」

「お詫び?」

「例の学校案内の動画よ。私が断ったせいで、マキが信愛ちゃんに頼んだでしょ。無理やり押し付けてしまったような、少し罪悪感もあって」

「別にいいのに。シアも楽しかったよ」

「そう言ってもらえるとホッとする。私はあまり目立つことが苦手なの」


 そう言って恋奏は肩をすくめながら苦笑いする。


――目立ちのが苦手なのに、周囲が放っておいてくれないんだよねぇ。


 本来の恋奏の性格は大人しめで、人の中心に立つのはそれほど得意ではない。

 だが、周囲はそんなことおかまいなしで、恋奏に人の輪の真ん中に立つことを望む。


――何ていうか、人気者も大変そうだなぁ。


 今もそうだった。

 男子からの好機の視線を向けられて、手を振りながら愛想笑いを返している。


――あれ、絶対内心は面倒だとか思ってそう。でも、表に出さないのはえらい。


 マイペースな性格は、周囲に流されたくない彼女の意思をどこか感じる。

 人気者は人気者で苦労しているのだ。


「……先輩は大人対応だなぁ。シアには無理」


 基本的に自分の嫌なことはしない。

 他人に合わせず、自分勝手に好き放題の信愛は逆に感心する。


「どうぞ、お待たせしました。ホットケーキよ」

「うわぁ、おいしそう。生クリームたっぷりで、甘そう。いただきます」


 ハチミツとは生クリームにフルーツがのったホットケーキ。

 一口食べると、その味に信愛は笑顔になる。


「美味しいっ。これ、先輩たちが作ってるんだよね?」

「そうよ。うちのクラスの女子で考えたの」

「いいなぁ。シアのクラスは写真展示とかすごく地味なやつだし。部活動も花の種を配るだけ。もっと文化祭に参加したい~」

「信愛ちゃんはホントに無邪気でいいわね」


 ホットケーキを食べる信愛を微笑ましそうに見つめる。


「シアが子供っぽいってこと?」

「純粋って意味。信愛ちゃんみたいな妹がいたら可愛くてよかったのになぁ。私には弟がいるんだけど、ものすごく生意気でさぁ。あれ、ホントにどーにかしたい」

「そんなこと言っちゃダメ。家族がいるのはいいことだと思う」


 何となく信愛が口にした言葉に「え?」と恋奏が驚く。


「シアはママ以外に家族がいないから。弟とかいるだけでも、いいなぁって思うよ」

「……その、聞きにくいけどもお父さんは?」

「ママとは結婚しなかったらしくて、会ったことないもん。ずっと二人の家族なの」


 いつもの口調で淡々と話す信愛に、恋奏はどう言葉をかけるのか悩んでると、


「あ、大丈夫だよ。別に気にしてないし。シアもね、大好きなママがいるだけで十分なの。ただ、ママには早く誰かと結婚してほしいなぁとは思うなぁ」

「信愛ちゃんはお母さんが大好きなのね」

「うん。私の大事な家族だもの」


 那智にとって信愛が大事な家族のように、信愛も那智が大好きなのだ。

 かけがえのない家族の絆は普通の家族よりも強いという自負がある。


「……私の両親は高校時代に知り合って、そのまま卒業後に結婚したらしいわ。母の熱烈なアプローチに負けちゃったんだって」

「へぇ、すごーい。一途な愛の大勝利だね」

「まぁ、お父さんいわく、情熱がありすぎてスト子気味だったみたい。愛も行きすぎたら怖いって。そうだ、うちのお母さんなんだけど、信愛ちゃんを知ってるみたいよ」


 信愛は「そうなの?」と首をかしげる。

 母の那智の知り合いに心当たりはない。

 というか、家にも友人を連れてきた覚えがないのである。


――前にママが「昔の人間関係は清算済み」とか悲しいことを言ってた記憶が……。


 だからこそ、那智の過去を知る人間というのはかなり貴重で会ってみたい。

 

「先日、信愛ちゃんの動画を見たら知り合いの子なんじゃないかって。同級生か誰か付き合いがある相手なのかもしれない」

「んー? そうなのかなぁ。うちのママは高校中退したって話なので交友関係とか全然分からないし。そもそも……え?」


 思案する信愛の前へ急に女性が顔を覗き込ませていた。


「……っ……」


 アップで見慣れぬ女性の顔が近づいて、びっくりして思わず声を上げてしまう。


「ひゃんっ!?」


 とても綺麗な女性だが、いきなりすぎて驚き戸惑うしかない。


――な、なんですの? この人はどなた?


 間近に迫った女性の真っすぐな瞳が信愛を映し出す。

 びくっとした信愛に恋奏は「何してるの!」と相手の女性の体を引っ張る。


「こら、お母さん。いきなり顔を近づけないで」

「お、お母さん?」

「ごめんね、信愛ちゃん。もうっ、失礼な行動をしないでくれない?」


 慌てて引き離す恋奏は不満そうに彼女にそう言った。


「別にいいじゃない。可愛い子猫みたいな女の子だなって思っただけです」

「それにしては凝視すぎ! 失礼すぎるにも程があるわ」

「……実際に見てみなきゃ分からないでしょ。見たら見たで、納得しちゃったけど」

「何がよ、意味不明だし。信愛ちゃん。この変な女の人は私の母です。申し訳ない」


 信愛に対して謝罪する恋奏の横で「変な人って言い方はひどくない?」と拗ねる。


「恋奏の母で、神原和奏というの。貴方は水瀬信愛さんね?」

「は、はい? そうですけど」

「単刀直入に聞くけども、貴方のお母さんは水瀬那智さん?」


 那智の名前を知っている、それだけで信愛はなぜかドキッとさせられる。


「そうです。私のママは水瀬那智ですよ」

「……そっか。それじゃ、キミはやっぱり、“あの人”の子供なんだ」


 あの人、と呼んだ和奏は憂いを帯びた表情を浮かべる。

 もう一度、信愛の顔をマジマジと見つめてくる。


「あ、あの、シアの顔がどうかしました?」

「動画を見た時から感じてたわ。貴方は“あの人”によく似てるなぁって思って……」

「私のママに?」


 すると、彼女は首を横に振り、想像もしていなかった返答をする。


「――いいえ、貴方のお父さんに。“あの人”に、とてもよく似ているわ」


 あまりにも突然に、その言葉は告げられた――。

 


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