たまらん人たち
私もたまに、かつての同級生や同年代の人間などと酒を飲んだりする機会があります。まあ、はっきり言ってむさ苦しい男連中ばかりなのですが……。
そして男が数人集まると、必ずといっていいほど一人はいるのが自慢したがる人です。聞かれてもいないのに武勇伝を大声で語り、そして知識を語る……非常に面倒くさい人です。
これは同級生ではありませんが、仕事先の人たちと飲んでいた時、五十歳越えているのに「俺は昔、空手と拳法をやってたんだ! 喧嘩強いぞ! 赤井、俺とやってみるか!」などと豪語する方に絡まれ、非常に困った記憶があります……こういった人は、皆さんの周りにも一人はいるのではないでしょうか。男というのは、幾つになっても愚かな生き物のようです……私にそれを言う資格はありませんが。
そして、こういう方と話していると……たいがい「俺の若い頃は本当に凄かった。それに比べて、今時の若い奴は根性がねえよ」などと言い出したりします……さらに「本当だよな。俺たちの時代は……」などと言い出す者が現れ、男談義に花が咲くこともあったりします。
ただ、このセリフは他人より自分が優れている部分をアピールしたい、という気持ちの現れみたいなものです。さらに言うなら、昔の思い出を必要以上に美化しているだけですので(全ての人間にありがちな傾向ですが)……全てのおじさんが「今時の若い奴は……」などと言う訳ではありません。なので誤解しないでください。基本的に、自慢したがる人は老若男女どこの層にもいますので。
さて、たまにスポーツ関係のテレビ番組を観ていると……ご意見番と呼ばれるような方が、「こんなことで休むなんて、今の選手は本当に情けない。我々の時代なら、こんなことで休む選手はいなかった……」などと俺たちSUGEEEE! な話を始めることがあります。そして科学的トレーニングをこき下ろすような発言をし、最後に「今の選手は、みんな弱い。俺たちの時代の選手に比べれば大したことない」などというコメントで締めたりします。
正直、私のような何の実績もない人間がこんなことを言ってしまっていいのだろうか、と思いますが……あえて言わせてもらうなら、今のスポーツ選手は昔の選手よりもレベルは上のはずです。なのに、何故こんなことを言い出すのか……それはやはり、先ほどのおじさんたちと同じ状態なのではないかと思います。昔の思い出を美化しているのではないかと……少なくとも、体の不調や違和感を無視し、無理や無茶をするような選手を私は高く評価することは出来ません。
実は格闘技の世界にも、この手の人はいます。
ある空手の選手は若い時、大会に出る直前に知り合った男が押し掛けコーチになったそうです。その空手の選手は……ウエイトトレーニングは体のスピードを阻害するから駄目だと言われ、ひたすらスピードと体のキレを重視するトレーニングばかりやらされたそうです。「俺の言う通りにしていれば、君はチャンピオンになれる」などと言いながら……結果、その選手は優勝候補であったにもかかわらず、早々に敗退してしまったそうです。
これは極端な例ですが、実際の話、意味不明なトレーニングをさせる人が少なからずいるのも確かです。曰く「昔の選手は、皆こうして強くなった」と言って長距離を延々と走らされたり……「走れば上半身も強くなる。我々の時代は、走って肩を強くした」と言っていた人がいましたが、もはや苦笑するしかありませんでしたね。
年を重ねるにつれ、昔の思い出は美化されていきます。それはそれで結構なのですが……格闘技の場合、それは本当に危険だと思いますね。昔の自分と自分のやってきたことを過大評価する。そして、入門したての人たちにそのやり方をそのまま教える。ジムや道場の若い指導員よりも、自分の教えの方が強くなれるんだ……このような人は実際にいます。結局のところは「こんなやり方を知っている俺凄いでしょ」というアピールなのですが……。
もちろん、その思いが悪いわけではありません。教える側の意図がどうであれ、教えられた側の上達に繋がるなら大いに結構です。しかし、明らかに間違った根性論のようなトレーニングをさせたり、近代的なトレーニングを全て否定したり……これはもう、どうしようもないですね。
もし、こうした人に出くわしたら、どう対処すればいいかと言いますと……どうしようもありません。こういう人は得てして頑固であり、自分の意見を曲げないので、話し合っても無駄ではないかと。仕方ないので、なるべく顔を合わせないようにする。あるいは、顔を合わせても「話しかけるな」オーラを出す。そんなやり方で、何とか逃げ切るしかないですね。噂によると、あちこちのジムや道場を転々としながら、奇怪なトレーニング方法を指導している人もいるらしいです。何だか都市伝説みたいな話ですが……。




