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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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本気で異世界トリップさせるなら

 今さら言うまでも無いことですが、なろうでは中世ヨーロッパ風の剣と魔法が主流の異世界に、高校生くらいの若者が転移したり転生したりする作品が多いですよね。上位の作品を見ると、異世界ものには根強い人気があるようです。

 さて、異世界ものの中には古武術や体術を若くして極めた高校生が転移してしまうが、習い覚えた古武術を使い無双する……というようなストーリーの作品もあるようです。そこで私は考えました。なろうの人気作品にあやかりつつ、出来るだけリアルな異世界トリップ格闘技ものを書けないだろうか? と。そんなわけで今回は、リアル志向の異世界トリップ格闘技ファンタジー作品の主人公設定に挑戦してみます。なお、私は武器を使うものに関しては、まるきり経験がありません。なので素手で戦うという設定にさせていただきました。この時点で、もはやリアリティーなどミジンコほども無いのですが……強引に先に進みます。


 いきなりですが、現代日本の高校生が異世界で無双する……この時点でリアリティーという観点からは、厳しいと言わざるを得ません。

 まず、日本の高校生のほとんどが殺人の経験がありません(当たり前の話ですが)。これは異世界において致命的ですね。厳しい言い方ですが、日本のような平和で安全な国で育った高校生では、古武術を学ぼうが体術を極めようが、本気の殺意を持って向かってくる者の前では無力です。殺るか殺られるか……そんな状況では、少々の格闘技の経験など何の役にも立ちません。

 現代日本で「普通」に生き、可愛いツンデレの幼なじみや妹タイプの後輩女子たちと青春を謳歌し、その片手間に古武術や体術を習い極めた(?)……そんな高校生が、リアルな殺し合いの心理的プレッシャーに耐えられるとは、私には到底思えません。あちこちに血や肉片がこびりつき、無残な死体の転がる戦場では、満足に歩くことすら出来ないかと思われます。

 こんな偉そうなことを言っていますが、私がもし、戦場で渡部陽一さん(戦場カメラマンです)と戦ったら……私が負ける可能性は高い、と言わざるを得ません。私は銃弾飛び交い死体が転がる戦場で受けるプレッシャーの前に足がすくみ、腰を抜かして動けなくなるかもしれません。一方の渡部さんはその状況には慣れています。私は何も出来ないまま、敗れる可能性が高いのではないかと……蛇足でしたね、すみません。

 とにかくリアル志向でいくなら、日本生まれ日本育ち……は無理があるでしょうね。メキシコやベネズエラのような最悪の治安の場所で成長し、殺し合いをしながら生き抜いてきた……というような設定でないと、中世ヨーロッパ風異世界ではまず生き延びられないでしょう。

 そうなってくると、日本の古武術や体術を習わせるのも矛盾が生じます。では何を使わせればいいか……私ならムエタイ使いという設定にします。以前にも少し触れましたが、ムエタイの歴史は古く、立ち技に関しては最強と言っても過言ではありません。パンチ、キック、ヒジ、ヒザ……一流の選手はそれら全てが凶器のレベルまで鍛え抜かれています。また、殺し合いともなれば……簡単な立ち技で出来るだけ早く仕留める、という戦い方にならざるを得ないでしょう。そういった点を考えれば、ムエタイこそが相応しいのではないかと思います。また、タイの治安は南米の国々に比べればマシかもしれませんが、それでも日本よりは遥かに悪いでしょう。ムエタイ使いという設定なら、その辺りもクリアできます。


 以上の点を踏まえ、主人公の設定は……。

「幼い時に、タイで何らかの事件または事故に巻き込まれて両親と死別。かつてムエタイの名選手だったギャングに拾われ、ムエタイを叩きこまれ成長。そして中学生になると、対立するギャング連中との抗争が始まり……彼は銃弾と刃物の飛び交う血みどろの修羅場を何度も経験しながら、どうにか生き延びてきた。そんな中、皮肉にも彼の習い覚えたムエタイの技術はルールの無い戦いの中で磨かれ、人間凶器と化していく……しかし、偶然にも日本の親戚と再会し、そして親戚とともに日本に帰国することとなった。平和な日本で高校生として生活していたが、ある日突然、中世ヨーロッパ風の異世界にトリップし……」


 うーん、正直なろうウケしなさそうなストーリーですね。戦いのシーンも、リアルにこだわるとなると……かなりえげつないものになるでしょうね。眼球に指を突っ込んだり、投げを食らわした後に喉を踏み潰したりといった戦い方になると思います。少なくとも「何とか流・究極奥義! かんとか拳!」みたいな技は出てこないでしょうね。それに、はっきり言ってしまえば……この主人公も、ミノタウロスのような大型モンスターにバチーンとはたかれたら、一撃であの世に逝くでしょうし。リアル志向だと、異世界での無双は非常に難しいですね。

 ちなみに、どうしても日本生まれ日本育ちの古武術の使い手にこだわるなら……。

「某最強オヤジのようなキチガイに育てられ、本物の殺し合いで用いる古武術を叩きこまれた。顔は既にボコボコに変形している。度重なる父との本気のスパーリングで、耳と鼻は潰れ、前歯はほとんど残っていない。また貫手や蹴りの練習のやり過ぎで手足もタコだらけ。異常なまでにゴツく変形している。さらに親子で、夜な夜なヤクザの事務所や外国人マフィアの根城を素手で襲撃している。高校生にして、人殺しとそれに伴う殺し合いが好きで好きでたまらない血に飢えた殺人狂」

 うーん、これも人気出ないでしょうね。しかも日本のような国だと、異世界トリップする前に逮捕されて終わりという気も……まあ、ライトノベルというジャンルではまず無理なのでしょう。





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