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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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続・力と数値

 前回に続き、今回も力と数値について語ります。正直、この力という要素は本当に複雑です。私の拙い文章力で、その複雑さを理解していただけるかどうか不安ですが……ひとまず、やれるところまでやってみます。


 とあるタレントは、腹筋を一日に千回やると言っていました。その方は確かに、年齢を全く感じさせない引き締まった体をしています。またプロレスラーは、ヒンズースクワットを一日に千回から三千回はやるそうです。凄いですよね……ただ、回数をこなすのが目的の種目は、あくまで持久力の養成が主眼となります。そうなってくると、力そのものの伸びは頭打ちになりますね。これは腕立て伏せに関しても同様です。腕立て伏せが百回できたとしても、筋肉の肥大や筋力の向上には効果が薄いのではないか、と私は思います。あくまで、私の個人的主観ですが。

 ちなみに私は腕立て伏せは三十回ほどしかできません。ヒンズースクワットは……インチキなフォームでならば、五百回ほどできます。インチキとは、腕を大きく振って反動を使い、膝はあまり曲げないフォームで行います。いわゆるハーフスクワットでしょうか。足の筋力強化、という観点ではあまり意味はありません。ただ、全身の持久力および心肺機能強化という目的で私はやっています。


 一方、器具を使うウエイトトレーニングにおいては……上半身の筋力を計る種目はベンチプレスです。体格にもよりますが、だいたい百キロを挙げることを目標としている方が多いようです。実際、ベンチプレスで百キロを挙げられれば、力は強いといえるでしょうね。少なくとも、腕立て伏せを百回こなすよりは、筋力向上と筋肉肥大の効果はあると思います。

 ただ、ベンチプレスで百キロが挙げられるからといって、それが格闘技で活かせるかとなると……これまた、無いよりは有った方がいいです。しかし、ベンチプレスで重い重量を挙げられるからといって、それが格闘技での力の強さに繋がるわけでもないのです。ここが、力という要素の難しい部分ですね。

 ここから先は、上手く説明できるかわかりません。感覚的な話になる部分もありますが、腕立て伏せが百回できる、あるいはベンチプレスで百キロが挙げられる……それらはただ単に、腕立て伏せが百回できるようになった、ベンチプレス百キロを挙げられるようになった、というだけです。それが果たして、本来持っている力が強くなったためなのか、あるいはコツのようなものを掴んだためなのか……そこの見極めは難しいですね。

 また、力の出し方には上手い下手があります。全身の力を上手く一点に集中させ、短い間に出し切る……かつてプロレスラーとして数々の伝説を残したアントニオ猪木などは、この力の出し方が非常に上手い人だった、と言われています。オリンピック種目のウエイトリフティングなどは、この力の出し方によって記録が左右される競技です。厳密にいうと、力の強さとは別の要素なのかもしれませんが。


 ここまで色々と書いてきましたが……私の言わんとしていることは、力というものは単純な数値では表せない、ということです。

 握力や背筋力、さらに腕立て伏せの回数やベンチプレスの重量……それらの数値では、本当の力の強さを計ることは出来ません。もちろん低いよりは高い方がいいですが、それらの数値が上がったからといって、それが格闘技における力の強さに繋がるかというと……難しい、と言わざるを得ないですね。

 さらに、選手によって打撃のパワーが強い人もいれば、組み合った時のパワーが強い人もいます。最終的には上手い下手という部分の問題になるのかもしれませんが……少なくとも、RPGやVRMMOのステータスのように筋力=100、という風に単純に数値化できるものでないのは確かです。

 また、格闘技においてウエイトトレーニング否定派の人がいます。ウエイトトレーニングをやって付けた力は格闘技をやる上では役に立たない、という意見の人です。私はウエイトトレーニング肯定派です。しかし、どちらが正しくてどちらが間違っているとは言い切れません。武術の伝統的な鍛練方法にも、効果の高いものがあるという話ですし……これもまた、力という要素の難しさですね。

 というわけで、格闘家は色んなトレーニングをやります。サンドバッグを叩いたり、キックミットを蹴ったりすることで筋肉が付くこともあります。そしてレスリングなどの対人スパーリングで組み合い、押したり引いたりすることで実戦的な力を強化できます。さらにウエイトトレーニングで筋肉そのもののポテンシャルを高め、腕立て伏せなどで持久力を強化し……こうして全ての要素をバランスよく鍛えていくのが理想ではないかと思います。

 ただ、一般の方の体力トレーニングでしたら……そこまで深く考える必要は無いかもしれません。自分に向いているもの、長く続けられるものをやって構わないでしょう。この、長く続けられるという部分はとても大切です。継続しなければ、どんなやり方だろうと意味がありませんので。





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