一人は皆のために、皆は一人のために
最近はとんと御無沙汰ですが、昔は私もRPGなんぞをやっておりました。基本的に、ほとんどのRPGがパーティーを組んで冒険します。お互いの短所を補い、長所を上手く活かせる組み合わせのパーティーを作りますよね。逆に、一人で冒険するRPGというのは少ない気がします……もしかして、チートな主人公キャラクターを操り冒険するRPGがあったりするのでしょうか。それはそれで、どんなものか遊んでみたい気はしますが。
言うまでもないことですが、格闘技もまた、一人では出来ません。まずは、格闘の技術を教えてくれる師範やトレーナーといった指導者の存在が必要です。正直、本やネットなどで格闘技の映像を穴の空くほど見たとしても、それは実になりません。いや、見ないよりは見た方がいいのでしょうが……やはり直接の指導に比べると、効果は遥かに落ちます。「百聞は一見に如かず」という言葉がありますが、百回見るよりは……一度ちゃんとした指導を受ける方が遥かに実になります。
また、強くなるためにはスパーリングを初めとする対人練習が必要です。当然ながら、これも一人では出来ません。相手を務めてくれる者が必要です。それも、出来るだけ大勢の人間とやった方がいいでしょう。様々なタイプの人間と練習を積むことにより、色んなパターンに対応できます。
そして格闘技を続け、格闘家としてのレベルが高くなっていくと……道場やジムの練習以外の要素が必要となってきます。フィジカル面の強化のためにウエイトトレーニングをやったり、整体医院に通って体のケアをしたり……これらにもまた、様々な人間が絡んできます。ウエイトトレーニングのトレーナー、整体師など……これらはスパーリングパートナーとは逆に、信頼できる一人の人に任せた方がいいでしょう。
こうしてみると、格闘技を始め、そして続けていくことにより……その人の世界が大きく拡がっていっているわけです。知り合いもどんどん増えていきます。いいことですね。と、ここで終わればいいのですが……実はこの辺りから、厄介なことになるんですよ。
ウエイトトレーニングのトレーナーも整体師も、付き合いが長くなるにつれて色々とアドバイスをくれるようになります。「こういうトレーニングをした方がいい」「ここの筋肉を鍛えた方がいい」「トレーニングが終わったら、こういうことをした方がいい」などなど……これらをいちいち全部守っていては、こちらの身が持ちません。
しかも……以前にも書きましたが、時として二人の人間から真逆のアドバイスをもらうこともあります。さらには、複数の人間からバラバラのアドバイスをもらうことも……例えば、格闘技関係の人間は時に「追い込む」練習をします。非科学的な練習をあえてやらせることもあります。しかし、ウエイトトレーニングなどのトレーナーから見れば「疲労が溜まるから、そんな練習は止めた方がいい」となるわけです。これは本当に厄介な状況ですね……。
ここで「うるせえ、細かいこたあいいんだよ! 俺は俺のやりたいようにやるんだ!」と開き直れる人ならいいのですが、素直な人ほどアドバイスを全部聞いてしまい、挙げ句に板挟みになっていたりするんですよね……基本的に、他人からのアドバイスを受け入れる素直さは必要です。しかし、こういう状況になってしまうと素直さが仇となりますね。
で、こういう状況になってしまったら……結局のところは、自分で取捨選択していくしかないですね。この、自分で取捨選択するというのは本当に大切です。しかし、取捨選択するには……まずは自分に、最低限の知識がなくてはいけません。その上での判断が必要です。これは正直、難しいことですが……。
さらには、自分で自分を管理することも必要です。今日は肩が痛い……でもトレーナーがやれと言うから肩のトレーニングをする。これでは何の意味もありませんね。これは極端な例ですが、自分の体調に気を配り、体の異常にいち早く気づく……というのは大事なことです。最終的には、自分の体は自分で管理しなくてはなりません。
ちなみに一流選手になると、さらに多くの人間との繋がりが出来ます。ただ我々と違うのは、全ての人たちが連絡を取り合い、選手のトレーニングメニューを把握し、選手の健康管理に気を配っている点です。たとえば師範が「今週は追い込みますので、スパーリングを多めにします」と皆に連絡すれば、ウエイトトレーニングのトレーナーは「じゃあ、こちらでのトレーニングは軽めにしましょう」そして整体師は「となると、そろそろ腰に疲労が溜まりますね」さらには栄養管理士が「では、炭水化物を多めの食事メニューで……」というやり取りもあるわけです。
RPGにおけるパーティーのごとく、様々な知識や技能を持った人間が選手の勝利のために一丸となる……一人はみんなのために、みんなは一人のために、的な世界があるわけですね。格闘技は個人競技ですが、チームスポーツに通じる部分もあるのです。




