運動療法について
以前にもこちらで書きましたが、私はかつて引きこもりでした。二十代の時にとある事情で仕事を辞めてからというもの、家から一歩も出なくなってしまったのです。
まず目を覚ますのは、午後一時から二時ごろ。遅すぎる朝食を食べた後、ボケーっとテレビを観たりゲームをするなどしてダラダラと一日を過ごし(当然ながら外にはほとんど出ません)、夜中の三時から四時の間に寝る……そんな生活サイクルでしたね。
お前はそんな生活が楽しかったのか? と問われたら……私は楽しくはなかったよ、と答えます。今から考えると、人生の貴重な時間を空費してしまったな、と後悔していますね。せめて、小説でも書いておけばよかったかな、と。
ただ、この当時は行き着くところまで行くしかなかったかな、とも思います。こうした状態にある人間にとって一番大切なのは、自分自身で気づくことではないか、と。上手く言えませんが、ほとんどの人には、いつか自力で立ち上がり、歩き始める時が来ます。その前の段階で、他の人間が無理やり立たせて歩かせてしまうのは……やり方としては間違いではないか、と思いますね。無理やり歩かせてしまうと、かえって悪化する可能性もあるような気もしますし。あくまで、私の個人的な体験からの意見ですが。
もっとも、引きこもりのまま放っておかれたら犯罪に走ってしまうような人間もいたりしますから、そのあたりの見極めは難しいです……私のような者が、軽々しく語れるようなものではないですね。
さて、この当時にはいろいろと嫌なことがありました。中でも一番嫌だったのは……寝る前に電気を消して、部屋が暗くなった時です。
実家に住んでいたため、寝る時には否応なしに電気を消さなくてはならないわけですが(そうでないと両親から嫌味と愚痴を言われました)、暗くなると同時に、胸を締めつけられそうな不安に襲われるんですよね。
暗くなった部屋。そして布団に入ると同時に襲ってくる不安、虚無感、絶望、恐怖……これはキツいものでしたね。酷い時など、意味もなく体が震え出してきました。布団の中でガタガタ震えながら、ひたすら朝が来るのを待っていたこともありました。
今にして思えば、当時の私は軽度の鬱であり、またノイローゼでもあったようです。何もかもが面倒くさい。考えることが全て、負の方向に行ってしまう。傍目には怠けているようにしか見えないでしょうが、なかなか辛い日々でした。
とにかく、日がな一日部屋にこもりボーっとしている……こんな生活の中、私はある日突然に筋トレを再開しました。体を疲れさせれば、下らない思いに悩まされずに眠ることが出来るのではないだろうか……そう考えたのです。
さらに、格闘技のシャドートレーニングも始めました。昔習っていた空手や、見よう見まねのボクシングの動きを加え、狭い部屋の中で左右のワンツーパンチや廻し蹴りなどの練習をしたのです。
その結果……当たり前の話ですが、体を疲れさせたら夜に眠れるようになりました。また、体を動かすことによって脳内に生み出される快楽物質が上手い具合に作用し……結果として、気分や体調もかなり改善出来ましたね。
体を動かすことが精神に与える影響……これは馬鹿に出来ないものがあると思います。運動療法、という分野もあるくらいですし。腕立て伏せや腹筋、スクワットのような簡単なことで構いません。あるいは、見よう見まねのシャドーボクシングでもいいでしょう。体を動かす時間、のようなものを決めて、少しずつでもいいから運動する。もし、引きこもっている方がこれを読んでいたら、是非とも実行していただきたいですね。
とはいえ、私の症状は軽いものでしたので運動で改善しましたが……重い症状の方は、ちゃんとした病院で診てもらうことを薦めます。
あと、もし本格的に格闘技をやりたい方がいるのでしたら……このやり方はやめた方がいいでしょう。自分の部屋で格闘技のトレーニングをするのだとしたら、腕立て伏せや腹筋、スクワットといった基礎体力の養成を目的とした種目のみにするべきです。
我流のトレーニングを続け、間違った技のフォームを体に覚えこませてしまうと、それを矯正するには非常に時間がかかります。そして、我流のトレーニングで正しいフォームを身に付けるのは、まず無理でしょうね。
さらに言うと、格闘技は対人練習をしなければ絶対に強くなれません。自室にこもった状態で怪しげな武術の型をどれだけ練習したとしても……それで強くなることは不可能です。本気で格闘における強さを求めるなら、うろ覚えの型や見よう見まねの技の練習を狭い部屋の中でするよりも、ウエイトトレーニングやランニングなどの基礎体力の強化に重点を置いたエクササイズをする方が遥かにマシではないかと思います。
ただ、その点を理解した上で、あくまでエクササイズの一つとしてシャドーボクシングをやったり、空手の型をやったりするのでしたら否定はしません。いや、むしろ積極的にオススメします。一時期話題になった某ブートキャンプなどは、まさに格闘技のエクササイズ要素のみを抽出したものですから。




