変身
これまで私は、アニメやラノベに対し批判的な内容のエッセイを書いてきました。ラノベやアニメに見られるような、チート能力持ちで女性キャラにモテまくり、すぐにハーレムを築き上げてしまうような主人公は……正直言って大嫌いです。
まあ、そいつらが中世ヨーロッパ風の異世界で、チート能力を授かり魔法を使って戦ってる分には構わないのですが……傷一つない美形(女性的な顔が流行りみたいですね)で長髪で痩身で足も長く、日頃の鍛練の跡を全く感じさせないキャラが、ワケわからん古武術や体術などの技で、デカいマッチョなキャラや少林寺の僧侶みたいなキャラを涼しい顔でバッタバッタと倒していく(しかも、筋肉をバカにするようなセリフを吐いたりします)……頭はスキンヘッド、そしてウエイトトレーニングに励んでいる私としては、あまりいい気持ちはしませんね。自分が真剣に打ち込んでいるものをバカにされたような気分になります。「お前は物語と現実の区別もつかないのか?」というツッコミに対しては……すみません、と謝ります。あと、人外設定のキャラに関しては何も言う気はありません。
しかし、私などはまだマシな方でして……かつて某総合格闘技イベントにて、ある芸能人の方がデビューすることになった時、凄い状況だったらしいです。私の寝技の師匠などは「今だから言えるけど、あいつが道場に練習しに来たら、絶対に潰してやろうと思ってた」などと物騒なことを言っていました……「道場で必死で練習している選手たちを差し置いて、芸能人だっていうだけで大きな試合に出られるなんて許せなかったんだよ。あの時は俺も若かったし……」とも言ってました。これは嫉妬とは微妙に違う感情ですね。
まあ私に言えるのは、件の芸能人が師匠と練習しなくて良かったな、と……師匠とスパーリングしてたら、間違いなく試合前に潰されていたでしょうね。あるいは、そのあたりの空気を察知したプロモーターが、大人の判断ができる人をスパーリングパートナーに選んで付けていたのかもしれません。
さて、アニメやラノベの主人公が習う格闘技と言えば、聞いたことのないような流派の体術や古武術ですが……これに関しても、思うところがあります。
ここから先は、あくまで私の想像ですので間違っていたら申し訳ないですが……恐らく、そういった作品を好んで読むのは格闘技の経験がない人がほとんどなのではないかと。しかし、格闘技に対する憧れはあるのでしょう。少なくとも、格闘技への憧れが0の方が、主人公が古武術などで相手をブッ飛ばしていくバトルものを読むとは思えません。
しかし、実際に格闘技を習うのは怖い……それに、自分よりも大きくて強い人間がゴロゴロいる、ならば習うのはやめよう。痛い思いをして敗北感を味わうのはごめんだ……そんな思いから、格闘技の門を叩くのを諦めているのではないでしょうか。
その代わりにラノベを読む。主人公が超人的な強さで、格闘技のジムや道場にいるようなタイプのマッチョな大男キャラなどを撃破していく……そこにはカタルシスがあるのでしょう。現実では到底かなわない相手……そんな相手をマイナーな古武術や体術でブッ飛ばす。その展開には、ある種の願望を満たす効果があるのかもしれません。
さらに言うと、これは読む側だけでなく、書く側の人にも当てはまることなのかもしれませんが……。
私がそういう人たちに言いたいことは、一つだけです。「格闘技、始めませんか?」と。
もしほんのわずかでも格闘技に対する憧れがあるのなら、迷うことはありません。すぐに始めて欲しいですね。格闘技というと、人と人とが殴り合い蹴り合い掴み合い、そして勝った負けたを決める世界、そう思われる方も多いでしょう。事実、その側面があることも否定はしません。
しかし、格闘技の根底にあるものは……自分を変えるということです。練習を重ねていくうちに、右ストレートのキレが良くなり、左ローキックの威力が増し、寝技でのポジションの取り方が上手くなる……その結果、相手との闘いに勝つわけです。まず、自分が変わることが先にあるわけです。
不断の努力によって、自分を変えてゆく……自分の変化を自覚した時の嬉しさ、これを皆さんに、是非とも味わっていただきたいですね。この嬉しさは、老若男女まったく関係なく味わうことができます。金持ちだろうと貧乏人だろうと同じです。この嬉しさは、どんな人間だろうと平等に味わうことができるはずのものです。
ですから……皆さんには、格闘技の「人と人とが傷つけ合い、そして勝った負けたを決める」という部分だけを見て欲しくはないですね。そういった部分だけを見ているからこそ、「他の格闘技よりも強い、殺し合いに特化した古武術」のような設定の作品を好むのではないでしょうか……もちろん、個人の好みにケチをつけるつもりはありません。ただ、現実の格闘技の方にも目を向けていただきたいものです。自分の体で体験したことは、創作の上で絶対にマイナスにはなりませんから。




