武器は有りすぎても……
武芸十八般という言葉があります。私も詳しい内容は知りませんが、武士の習っておくべき十八種類の武術だとか。馬術、刀、槍、薙刀、果ては鎖鎌まであったそうです。武士の生活は大変だったのですね……でも考えてみれば、今の軍人もまた、様々な武器を使いこなす必要があるでしょうから……覚えることは十八種類どころではないかもしれませんね。いつの世も、戦士は学ぶことが多いようです。
さて、私は総合格闘技をやっています。打撃技、投げ技、絞め技、関節技……その全てが認められた競技です。一応は、その全ての攻防を習いますが……しかし私は、前にも書いた通り打撃技は苦手ですね。パンチやキック、果ては肘や膝などなど。打撃の攻防となると……まず私が指摘されるのは「動きが固い」です。ボクサーのように柔らかく、リズミカルな動きは無理ですね。また、ボクシングの攻防が上手い人は、飛んでくるパンチを見切り、避けることができますが……私には無理です。
結果、私の打撃での攻防は……ガードを固めた状態で近づいていき、そしてぶん殴るという実に原始的なスタイルです。前に出ていくことで、相手からもらう蹴りのダメージを減らし、接近してのド突き合い……これは真似してはいけないスタイルです。例えるなら一昔前、いや二昔前のKー1ファイターのスタイルでしょうか。
打撃が苦手となると、組み技に持ち込むしかありません。絞め技や関節技のバリエーションは非常に多いです。一説によると、千を超す種類があるとか。しかし、その全てを覚える必要はありません。せいぜい三つか四つ程度をマスターすればいいかと思います。三つの関節技を完璧にマスターし、どのような状況下でも使いこなせるようにする……そうすれば、試合に勝つことができます。
逆に自らのキャパシティを超えてまで、多くの技を学ぶ……これはどうかと思いますね。間違っているとは言いません。新たな技を学ぼうという姿勢は大切でしょう。しかし、「知っている」のと「使える」のは全くの別物です。知っているが使えない技が百あったとしても、それは何の役にも立ちません。完璧にマスターし使いこなせる一つの技の方が遥かに有用です。
ちなみに、私が使える絞め技や関節技は……フロントチョーク、ノースサウスチョーク、アームロック、アキレス腱固めくらいですね。形を詳しく知りたい方はその筋のサイトを見てください。
さらに付け加えると……寝技が得意な人は、もっと使える数が多いと思います。あくまで、三つくらいの技を完璧に使いこなすことが出来れば、試合には勝てるという話ですので。
そんなわけでして、私は試合をするとなると……まずはガードを固めつつ接近します。そして繰り出される打撃の隙を狙って組み付き、相手を倒して絞め技や関節技で制する……と、そういう形になります。
ここまで書いて来て、私が何を言いたいかと言いますと……格闘において、多くの技を知っている方が必ずしも強いというわけではない、ということです。ボクシングという競技を見てもらえばわかるように、パンチの技術を極めるだけでも一生モノなのです。ましてや、キック、肘や膝、投げ技、絞め技、関節技……それら全てをハイレベルに使いこなせるのは、格闘技漫画やラノベのチート主人公くらいですね。現実にはまずいないでしょう。
現実の闘いでは、パンチが得意な選手は、相手をいかにしてパンチで倒すかを考えます。相手の組み技を防ぎ、打撃の攻防に持ち込むか……そのために組み技を学ぶのです。
逆に私のようなタイプは、打撃の攻防を避けて組み付く……そのために打撃を学びます。また、最低限の打撃の攻防が出来ないと……そもそも、組み付くことすらできません。
結局のところ、格闘において重要なのは……持っている武器の多さではなく、使える武器の多さです。やたら多くの技を学んだ人間が、ボクシングの基本であるワンツーのみをひたすら磨いてきた人間に負ける……それは珍しいことではありません。
そして……これは格闘技に限らず、あらゆる世界において言えることなのではないでしょうか。漫画家の山口貴由さんは「百冊の本を読んだヤツより、一冊の本しか知らないヤツの方が強い」という名言を吐いておられます。もちろん、一冊の本しか知らないことによる弊害もあるだろう、とは思いますが……少なくとも、百冊を「読んだ」だけでは何もならないのも、また確かなのです。




