色んな戦法について
皆さんは、『エクスペンダブルズ』という映画を観たことがあるでしょうか。恐らく説明の必要はないと思いますが……アクション俳優総出演のお祭り的な映画です。近いうちに三作目が公開されるそうですね。
その一作目の中で、ジェット・リー演じるヤンとドルフ・ラングレン演じるガンナーが素手で闘うシーンがあります。二人とも、言わずと知れたアクション俳優ですが……この二人の激突は映画の見所の一つでした。あえてリアリティーを追及したのか、巨体のガンナーが拳法の使い手であるヤンを圧倒していましたが……。
さて、この対決を見て面白いなと思ったのは……体の小さなヤンが巨体のガンナー相手に苦戦し、途中で天井の低く狭い場所に誘い込んでいることです。それにより、ヤンは体格差のハンデをカバーして闘えていました……最後には敗れましたが。それはともかく、拳法の使い手だからといってラノベにありがちな奇々怪々な拳法の奥義(?)のような技を登場させず、その場の状況に応じた臨機応変な闘い方をさせる……その辺りはさすがですね。
先日、とある格闘家のユーザーさんと、ちょっとしたやり取りがありました。で、その時に話題になったのが……なろうにおいては古武術や拳法といったものの出現頻度が高いということでした。一見、ひょろっとした普通の高校生……だが実は一子相伝の怪しげな古武術の達人。そこにツンデレだのヤンデレだのといった同級生のヒロインたちが加わり……ラノベにありがちな設定ではないでしょうか。
そういった一子相伝の拳法は本当に強いのだろうか……そんな狭い閉鎖的な環境では、技術的な発展がない上に新しい発想も生まれず、退化の一途を辿り……結果としてどんどん弱くなるのでは? という私の疑問はさておき、闘いにおいてはもっと重要な要素があります。
それは……状況を上手く利用することです。その場の状況をよく見て、それに応じた行動をとる……それは、一撃必殺の拳よりも重要です。逃げるか、謝るか、闘うか……闘うなら、殺すつもりで闘うのか、それともほどほどのところで切り上げていいのか……その判断は非常に大切です。
さて、ジェット・リーは大男のドルフ・ラングレンを天井の低い場所に誘い込み、有利な展開に持ち込んでいましたが……フィクションにおいて、実際の闘いでも使える戦法があったりします。
例えば……『ドカベン』というマンガがあります。若い方はわからないかもしれませんが、水島新司先生の野球マンガです。アニメ化もされました。
この『ドカベン』の中で、里中というピッチャーが空き地で数人のチンピラと喧嘩になり(巻き込まれたのですが)、石を投げてノックアウトするシーンがあります。正直、読んだ直後は「なんじゃそりゃ」と思いましたが……実のところ、投石は非常に強力な戦法です。実際にピッチャーが本気で石を投げてきたら……はっきり言って人を殺せますね。聖書でダビデという少年がゴリアテという巨人を倒したのも投石でした(こちらは携帯型の投石器を用いてますが)。訳わからん古武術だの体術だのなんかよりも、ずっと役立つでしょうね。少なくとも、殺傷能力に関しては……劣らないでしょうし。
ちょっとケースは異なりますが……かつて『木枯らし紋次郎』という時代劇がありました。私が生まれる前に放送されていたそうなので、リアルタイムでは観ていません。しかし、時代劇でありながら、できるだけリアルなシーンを撮ることにこだわったとか……この作品でも、面白いシーンがありました。
主人公の紋次郎が大勢の男たちと戦いになり、男たちは一斉に刀を抜きます。普通の時代劇なら、ここで綺麗な殺陣を見せるのでしょう。
しかし、紋次郎は後ろを向き、逃げ出します。追って来る男たち。逃げる紋次郎、追う男たち……その図がしばらく続きますが、やがて変化が生じます。息があがり、よろよろとした走り方になる男たち……中にはへたりこむ者も出てくる始末……。
その瞬間に振り返り、猛然と襲いかかる紋次郎……男たちは抵抗すらできず、あっさりと斬り殺されるという……これなんかは、まさにリアルでも使える技ですよね。こちらにスタミナがないといけませんが。
今引用したような戦法は……さすがに魔法が飛び交う異世界転生ものでは使いにくいかもしれません。しかし、現代を舞台にした作品では十分使えると思うのですが。個人的には、主人公が十代の少年でありながら古武術の達人という設定は……どうかと思いますね。達人と呼ばれる域に達するには、何十年単位の修行が必要なはずなのですが……。
ごく普通の少年が、好きになった少女のために必死になる。必死になるからこそ生まれる知恵と勇気が、その場の状況を活かした素晴らしい戦法を生み出し、結果として格闘技術の差や体格差をも凌駕する……そんな展開があってもいいのではないでしょうか。と思ったら、一般の映画や小説では、よくある展開でしたね……。




