書を捨てよ、ジムに行こう
だいぶ前の話になりますが、この連載を開始して間もない頃のことです。こんな意見を戴きました。今はもう退会されたユーザーさんからです。
「体術を習えば、体格差に関係なく相手をぶっ飛ばせますよ」
この時私は……困ってしまいましたね。闘いにおける体格差についてきちんと、しつこいくらいに書いてきたつもりでしたが……それが、まるで伝わっていなかったのだな、と。
ただ、この時に思ったことがあります。私はこの体術なる流派は知りませんし、また興味もありません。私が知らないだけで、ネットなどでは有名な存在なのかもしれません。恐らくは、相手をぶっ飛ばしている演武の映像などもあるのでしょう。当たり前の話ですが、演武などの映像は本物の闘いとは違います。ですが、そういったものを見て信じこんでしまう方もいるのだな、ということがわかりましたね。
もちろん、私はプロの格闘家でも何でもありません。アマチュアでも、私などよりキャリアが長く、レベルの高い方はいくらでもいます。
なろうのユーザーさんの中にも、私などよりレベルの高い格闘家は……探せば大勢いるのではないでしょうか。
その一方、格闘技に関して何も知らない方も多い……今のなろうは、まさに混沌とした状況なわけですね。私はあくまで、何も知らない方たちが格闘技に興味を持ったり、あわよくば格闘技を始める手助けになってくれれば……と思い、このエッセイを書いているわけです。
しかし、いくら書いても話が通じない人もいます。本やネットなどで調べた膨大な知識が頭に入っているような方には、私のような人間が何を書こうと、わかっていただけないようですね。私の書いたエッセイを読んでも、「この赤井とかいう奴は、レベルの低いことを書いているな」としか思わないのでしょう。そういう方は恐らく、岡見勇信さんのようなレベルの人の書いたものでないと、聞く耳を持たないのかもしれません。
そういう方は、これまでに自分の詰め込んできた膨大な知識に絶大なる自信を持ち、それが全てだと思っているのでしょう。知識を詰め込むのは、悪いことではありません。知識はないよりは、あったほうがいいでしょうし。このなろうにおいては……書物やネットの知識が豊富な方の意見の方が正しいと認識されているようでもあるようですし……。
ただ、格闘技はクイズ番組ではありません。いくら知識を蓄えたところで、それだけで強くなることはできないのです。格闘技には、実際に体験してみないとわからない部分がたくさんあります。体格差にしてもそうですし、他にも様々な要素があります。殴った時または殴られた時の自分が感じる痛さなど、知識として知っているのと、自分の体験を通して学んだこと……そこにははっきりとした違いがあります。
私はネットに疎いので、よくわかりませんが……実に様々な情報が得られるのでしょう。一昔前には考えられないくらいに。以前にも書きましたが、かつては格闘技に関する怪しげな本が氾濫していました。そんな時代よりはマシになってきたのかな、と思っていたのですが……実は大して変わっていないのかもしれないですね。
とにかく、格闘技は見るためだけのものではありません。やるためのものでもあります。やってみて、初めてわかること……それは数多くあります。その、やってみて初めてわかったこと……それこそが、本物の知識と呼べるものなのではないでしょうか。少なくとも、格闘技に関して言うなら……いくら知識を詰め込んだところで、それだけではあまり役にはたちません。実践が伴わないのであるならば、むしろ知らない方がマシかもしれません。
ですから、今この部分を読んでいる方には……まず、今すぐパソコンなりスマホなりの画面から視線を外し、街に存在する道場やジムの方に視線を向けていただきたいのです。このエッセイを読んでいるということは……格闘技に多少なりとも興味があるのではないでしょうか。しかし、格闘技は読むものではありません。さらに言わせていただきますと、見るよりもやる方が楽しいです。新しい技を覚えること……そこには、自分がひいきにしている選手が勝つことと同じくらいの喜びがあります。
格闘技の道場やジムの門を叩く……ほんのわずかな勇気で得られるもの、それは、皆さんの人生を変えるはずです。それは書物やネットからでは、絶対に得られないものです。




