とあるアマチュアの試合で起きたこと
先日、とある格闘技ジムにて一般会員の方の死亡事故が起きたという話を耳にしました。
詳しい事情はわからないため、この件に関し批評することは控えます。正直いいますと、不運な偶然が重なり死亡事故に至るというケースはゼロではありません。車の事故にしても、どんなに気をつけていても不運な偶然が重なり事故が起きてしまうことがあります。
創作された物語を見て「これは負のご都合主義だ」などと批評することがあるそうですが、現実に負のご都合主義のようなことは起こり得る話なのです。
以上のことを踏まえた上で、ひとつ話をします。
かつて、私がアマチュアの試合に出た時のことです。
その日、私以外にも三人の会員が試合に出場していました。私は組技の試合、他の三人は打撃の試合です。
まず、ストライキングの試合が始まりました。皆、計量を終え(アマチュアだと当日計量が多いようです)、緊張した面持ちで試合を待っていました。
その中のひとり、ピンさん(もちろん仮名です)の出番が来ました。ピンさんは、闘志あふれるタイプでガンガン前に出てくるスタイルの人です。
試合が始まりました……が、私は最初の一分ほどを見られませんでした。トイレに行っていたためです。
その後、急いで行ってみたところ、既に試合は終わっていました。聞いた話によれば、ピンさんはゴングと同時に突進していき打ち合ったのですが、カウンターのパンチをもらいKO負けしたとのことでした。
問題は、ここからです。
ピンさんの顔は、見るからに危険な状態でした。試合で使用していたのは十六オンスのグローブであり、ヘッドギアも付けています。したがって、一発のパンチでKOというケースは珍しいです。ましてや、事故ということは有り得ない……はずでした。
しかし、ピンさんの顔は素人目にも危ない感じでした。おそらくは相手がハードパンチャーであり、そこにピンさんの突進力も加わり、さらにはタイミングや様々な要因が重なり、パンチがとんでもない威力になってしまったのでしょう。
しかも、ピンさんはあと一試合残っていました。ピンさんは二試合に出ることになっていたのです。
厄介なのは、この先でした。ピンさんは、次の試合も出ると言い出したのです。先ほどの試合で、カウンターパンチで敗れたのが悔しかったのでしょうか。絶対に出ると言っているのです。
この時、ジムの会長は来ていませんでした。トレーナーがジムの代表として来ていたのですが、この時にトレーナーははっきり言いました。
「駄目です。ピンさんは次の試合には出しません。棄権させます」
トレーナーの強権発動、といったところでしょうか。
この時、ピンさんは不満そうな表情でした。しかし、私や他の会員がなだめにかかり、どうにか納得してくれました。この一連のやり取りは、試合よりもヒヤヒヤしましたね。
後日、ピンさんは眼窩底骨折だったそうです。もし、ピンさんの言うことを通して試合に出ていたら……とんでもない事故になっていたでしょうね。下手をすれば死亡していたとしても、不思議ではありません。
皆さんに知っておいていただきたいのですが、選手の側は頑張ってしまうのですよ。
選手には、それまで積み重ねてきたものがあります。また、負けるのほ悔しいです。さらに、試合中は興奮してアドレナリンが出ており痛みに強くなります。
そのため、傍から見れば危険な状態でも「やる」「続ける」と言ってしまえるのですよね。
だからこそ、危険な時にはトレーナーが勇気を持って「駄目です。これ以上は続けさせません」と言うことが必要なのですよ。
これは、本当に大事なことです。打撃により生じる脳の障害は、後々まで残るものになります。ましてや、死亡事故は取り返しがつかないのですよ。
はっきり言いますと、格闘技のプロ選手たちは、全員が素手で人を殺せるだけの技術を持っているのですよ。だからこそ、安全面には注意しなくてはならないのです。
それがアマチュアなら、なおさら気をつけなくてはなりません。ヘッドギアを付け、十六オンスのグローブをはめた試合でも、運が悪ければ眼窩底骨折という重傷を負う……この事実だけは、知っておいてください。




