絞め技についての、ごく初歩的な話
最近では、映画やドラマの格闘シーンなどでバックチョーク(チョークスリーパーが一般的な呼称なのでしょうが、ここではあえてバックチョークとさせていただきます)を見る機会も増えました。それはそれで結構なことなのですが……正直、うーんと首を捻ってしまうことがあります。
そこで今回は、絞め技(特にバックチョーク)について、ごく初歩的な話をさせていただきます。まあ、軽い気持ちで読んでください。
まず、バックチョークをかけられている写真を見ると、ほとんどが力ずくで絞めている感じなんですよね。何より「おいおい」と思うのは……腕と首の間に隙間が空いていることです。
絞め技の理想型は何かというと、紐で首を絞めるイメージです。よほどボロボロの紐でない限り、女性や子供の腕力でも大人の男を絞め殺すことができますよね。
さて、ここで考えてみましょう。紐を使って首を絞める際、紐はどのような状態でしょうか。首の周りにキュッと巻き付いており、隙間などないですよね。
そう、この「隙間がない」という部分こそが非常に大事なのです。首に腕を巻きつけ、絞めあげていく……この際、腕が紐のように隙間なく巻き付いていなくてはなりません。
次に、渾身の力で締め上げる……のは間違いです。ここで大切なのは、六割から七割くらいの力で絞め続けていくことです。きっちり腕が隙間なく首に巻き付いていれば、あとは少しずつ腕を狭めて絞め続けていくだけです。これで、上手い人なら数秒で絞め落とすことができます。
このバックチョークに比べると、前からのチョーク、フロントチョークは極まりにくいですね。
もちろん、相手が寝技の知識ゼロで防ぎ方を知らない場合は簡単に極まります。しかし、相手に寝技の知識があって防ぎ方を知っている場合、形に入ってもなかなか極められないのですよね。
フロントチョークを極めるには、かなりの技術が必要です。
余談ですが、このバックチョークやフロントチョークは腕の筋肉、特に上腕二頭筋(いわゆる力こぶ)が発達しすぎていると極まりにくくなります。腕に隙間ができやすくなるから、なんですよね。
さらに付け加えますと、格闘家ではウエイトトレーニングをしない人も少なくありません。また、ウエイトトレーニングをする人の中にも、バーベルカールのような二頭筋のみを鍛える種目はやらない人もいます。はっきり言うと、格闘技で「発達しすぎた」筋肉は邪魔になることがあるのですよね。それに、二頭筋のみの力というのは……格闘技において、さほど役立つ部分でもありません。
ちなみに私もバーベルカールはやっていません。ただ、私の場合は時間がないからやらないだけです。場合によっては、ウエイトトレーニングの時間が二十分ほどしかない時もあります。そんな時に、バーベルカールで時間を使うのは、はっきり言ってもったいないですからね。
話を戻します。このバックチョークは、完璧な形で極まれば外すことなどできません。女性でも、ゴツいマッチョな大男を絞め落とすことは可能です。
そういえば以前「彼女にバックチョークかけさせたけど、力ずくで脱出した」などという人(フィジークのコンテストに出てるみたいです)の投稿をみましたが、はっきり言ってこれは「完璧に極まった形ではなかった」もしくは「かけ方を知らなかった」でしょうね。上にも書いた通り、巻き付けた腕をジリジリと狭め、六割から七割くらいの力で絞め続ける……これで、どんな相手でも絞め落とすことはできます。女性や子供でも、背後から紐で首を絞めれば、大男でも殺すことができます。それと同じです。
ただ、勘違いして欲しくないので付け加えます。どの技もそうですが、難しいのは「完璧な形に入るまで」なんですよ。相手は、背中を向けたまま突っ立っていてくれるわけではありません。それに、首に腕が巻き付いてきたら抵抗します。
特に体が大きく腕力のある者が本気で抵抗してきた場合、これは非常に厄介です。なので、その腕力を上手くスカしたり、力の向けられる方向をズラしたりして背後に回るテクニックが必要なのですよ。このテクニックの型を目で見て頭で覚え、スパーリングで体に覚えさせていく……この過程が重要です。
蛇足かもしれませんが、同じ絞め技でも、三角絞めはデカい人にかけるのは難しい……というより、まずかかりません。
代表的な例として、ボブ・サップVSアントニオ・ホドリコ・ノゲイラの試合がありますので、是非とも動画を観てみてください。柔術マジシャンとして恐れられたノゲイラの三角絞めを、力ずくで無理やり持ち上げてパワーボムで外すシーンは圧巻ですね。サップのパワーにプラスして、発達した僧帽筋が技を極まりにくくしているのですよね。




