とりあえず護身術はやめといた方が無難かと思います
先日、家に帰りテレビをつけたら、催涙スプレーなどの護身具についての番組が放送していたので驚きました。なんだろうと思いタイトルを調べたら『堀潤激論サミット』なる討論番組でした。
で、私は着替えながら横目で見ていたのですが……まあ、レベルの低い話題ばかりでしたね。とりあえず女性コメンテーター(すみません、名前見てません)が「女性は催涙スプレーを所持すべきだ!」と主張しており、さらに弱者が催涙スプレーを持った際の心理状態について何も語られていなかった……という二点で、どんな番組かは想像していただけると思います。
まあ、催涙スプレーなどの護身具については、これ以上述べません。本題はここからです。先ほどあげた女性コメンテーターとは、また別の女性がこんなことを言っていたのです。
「私は家に催涙スプレーも置いてますし、護身術も習っていますよ」
このコメンテーター、「私はお前らとは違い、危険に対処する準備をしているんだよ」とでも言いたげな、なんか勝ち誇った表情でした。まあ、私の気のせいかもしれませんが……わかってない人ばかりだな、と感じました。
というわけで、私はこのエッセイを書こうと思ったのです。これまで同じことを何度も書いていますが、わかっていない人が本当に多いので……ちなみにですが、私はプロの格闘家でも武術の達人でもありません。
ただ、格闘技は十年以上やってますし、夜になるとヤク中がうろつくような街で成長してきました。さらにヤク中に襲われ殴り合い警官に逮捕された経験もありますし、刑務所に入った経験のある知り合いも数人います。なので、件の女性コメンテーターよりはマシなアドバイスができるかと思います。
まず、襲われた時に何が怖いか……それはね、相手からのプレッシャーで動けなくなることなんですよ。これは、男女問わずです。
夜道で、いきなり怖そうな奴が襲いかかってきた……この時、人は恐怖で体がすくみ動けなくなることがあります。これは、ある意味では当然の反応なんですよ。
ですから、この状態に陥らないようにするにはどうすべきか……それこそが、格闘技に必須のスパーリングなんですよ。
ボクシングやキックボクシングやフルコンタクト空手では、必ずスパーリングという練習があります。ここでは、ゴツくて怖そうな男が構えて向かってくるんですよ。
だから何? と思われるかもしれませんが……この時、デカイ男が迫ってくるというプレッシャーを体験できるのですよ。
このプレッシャーだけは、口で言ってもわからないし動画を見ても伝わりません。実際に、殴る蹴るといった攻撃を仕掛けてくるゴツい男と向かいあい、スパーリングをする……その時、始めて体験できるわけなんですよ。
護身において何より大切なのは、このプレッシャーを受けながらも行動できること、これにつきます。私は何も、格闘技で習った技で相手をぶっ飛ばせ、言っているのではありません。自分よりでかくてゴツい男が、自分に襲いかかってくる……そんな状況下で、まずは体を動くようにしなければ話にならないのですよ。
大半の護身術が「こう襲われたら、こうする」というような練習をしています。しかし、これでは上にあげた部分を全く鍛えられません。しかも、相手が「そこから反撃してこない」という奇妙な状況下なのですよ。だから、私は護身術を「やめておいた方がいい」と言っているのです。
ちなみに、護身術にありがちな立ち関節……つまり、立った状態で関節技を極めるというものですが、私はスパーリングでこれを一度もくらった覚えがありません。かけられても、簡単に外せます。無論、ガッチリ極まったら外すことはできません。ただ、相手が立ち関節を仕掛けてきたら、その前に腕をスポッと抜くことはできます。
もうひとつ、格闘技をやれば基礎体力がつきます。この基礎体力、逃げる上でも重要な要素なのですよ。基礎体力の養成を重視した護身術など、聞いたことがありません。ですから、私は格闘技の方をオススメしているのです。
さらにもうひとつ、格闘技をやると「世の中の知らなかった怖さ」みたいなものを知ることができます。
私の通うジムにいる人は、こんなことを言っていました。
「いやさ、格闘技のジム通いだしてから、逆にケンカなんかできなくなったよ。どこに強いのがいるか、わからないからね」
これは、私も同感です。実際、見た目はダメ親父だけど、見たこともない動きで若いチンピラみたいな子をバックチョークで絞め落とす……そんな光景を、これまで何度か見てきました。
また、傍から見ればただの気のいい兄ちゃん、でも実はプロ選手でリングに上がれば目まぐるしく動きパンチの連打でKO……そんなのも見てきました。
結果…何が起こるか……「俺より強い奴なんか、いくらでもいる。しかも、見た目じゃわからない」という意識が生まれます。
そうなると、自然と腰が低くなっていくのですよね。街で肩がぶつかっても「あ、すみません」と自分から謝れる……これは、争いを避けるという観点から見れば、護身術の技より遥かに上かと思います。




