「言葉が通じないから殴るしかない」というポストに寄せられたコメントを見て思ったこと
先日のことですが、Xにてこのようなポストを見ました。
「言葉が通じないなら殴るしかない」
どうやら、これはテレビ番組にて高嶋ちさ子さんの発した言葉のようです。このポストに「良いこと言う」「私もこんな風に生きたい」というコメントが少なからず寄せられていました。まあ、反論もかなりありましたが、女性からの肯定的な意見があったのも事実です。
最近、女性ボクサーが主人公のドラマも始まりました。男性を殴りたい、という願望を持っている女性は、少なからず存在するようですね。
そのことについてどうこう言う気はないですが、彼女たちは大きな勘違いをしている気がします。
だいぶ前のことです。またXネタで恐縮ですが、こんなポストを見ました。
「駅のエレベーターで、降りる男が追い抜きざま尻を触っていった。なので反射的に回し蹴りを食らわしたらこちらを向いたので、股間に軽く膝蹴りしたらうずくまった。なので三十秒ほど説教したら、スミマセンと言って逃げていった。女をナメるな」
このポストに「偉い」「よくやった」「こんな男はボコってやるべき」という称賛コメントが多く寄せられておりました。ほとんどが女性でしょうね。さらに、男性をぶっ飛ばしたいという願望を持った女性であるものと思われます。
皆さんは、このポストのおかしな点に気づかれたでしょうか。格闘技経験者なら「ん?」と思われたことでしょう。
まず、回し蹴りをエレベーター内で放つ……これ、危険なんですよ。誤爆の可能性が高いです。
回し蹴りを放つには、それなりのスペースが必要です。狭い部屋の中で回し蹴りの練習をしようとして、足の指を戸棚やタンスにぶつけた……格闘技経験者で、こんな体験をした方は少なくないでしょう。もちろん、私もそのひとりです。
そんな回し蹴りを、エレベーター内で放つ……私なら、怖くて出来ません。壁などに足をぶつける可能性があるからです。やるなら、前蹴りもしくは横蹴りといった技でしょうね。
余談ですが、護身術には回し蹴りよりも前蹴りや横蹴りの方が使われる頻度が多いように見受けられます。やはり、狭い路地裏や室内で用いる回し蹴りのデメリットを考慮してのことでしょう。
次に、「回し蹴りを食らわしたらこちらを向いたので軽く膝蹴りしたらうずくまった」の部分ですが……これに至っては、杉下右京さんのごとく「はい?」と言わざるを得ないのですよ。
回し蹴りを当てたということは、自分の脛もしくは足の甲を当てたわけです。すると、相手が振り向いた……この時点では、股間に膝蹴りを当てるには遠い間合いにいるのですよ。
これ、どうやって膝蹴りを当てたのでしょうねえ。一歩踏み込んで膝蹴りを打ったのでしょうか。しかし、「軽く膝蹴りしたら」とあります。どうにも不明瞭なのですよね。
まあ一万歩ほど譲って、偶然にそういう間合いになり膝蹴りが当たったとします。相手はうずくまり、三十秒ほど説教したらスミマセンと言って逃げていったそうですが……これに至っては、開いた口が塞がらないですね。
男性ならわかるでしょうが、金的に膝蹴りをくらいうずくまるほどのダメージを受けたら、三十秒で立ち上がり逃げていくのは難しいですね。よほど根性のある人なら別ですが、そんな根性のある人なら、金的への軽い膝蹴りくらいでうずくまったりはしません。
ちなみに、私は十年以上格闘技のジムに通っておりますが……金的をやられてうずくまったことはありません。くらったことはありますが、壁に手をつき立ったまま痛みが引くのを待ちました。
他人がやられたケースも、数回ほどしか見たことがないです。その中で、はっきり記憶にあるのは二度ですね。うち一度は後ろ蹴りがカウンターで入り、くらった人は悶絶していました。数分後に、どうにか立ち上がっていましたね。
もう一度は寝技のスパーで、寝ている相手の股間にニードロップが入ってしまったのです。専門的な言葉を使いますが、パスガードしようとした時に膝が思い切り入ってしまったのですよね(わからない方スミマセン)。
結論を言うと、このポストは最初から最後まで疑わしいのです。にもかかわらず、称賛や喝采のコメントを送る女性は多かったですね。つまり、こういう「男性をぶっ飛ばす女性に憧れる女性」は多いことがわかります。同時に、そういう女性は簡単に騙されてしまうということも証明されてしまいましたね。
前置きが長くなりましたが、本題はここからです。
まず、女性は男性を殴ってもいいが、男性は女性に殴られても殴り返したりしない……と思いこんでいる人が、予想以上に多いのですよね。
かつて、私は歳上のチンピラ数人とこんな会話をしたことがあります。
「赤井、お前は女を殴ったことねえだろ?」
チンピラAに、不意にこんなことを聞かれ、私は素直に答えました。
「はい、ないですね」
「だろうと思った。お前は、女を殴れねえタイプだよな。俺はよう、女を普通に殴るぜ」
と、Aは女性を殴れることを自慢しているかのような口調で言っています。ドン引きし何も言えないでいる私でしたが、そこで横にいたチンピラBも口を開きました。
「ああ、俺も殴るよ。言ってもわからねえ女はな、殴るに限るんだよ。ほっとくと調子に乗るしな」
この後、AとBの女性を殴った武勇伝(?)語りが始まりましたが……それは不快になるだけですので、ここでは書きません。
肝心なのは、このふたりは高嶋ちさ子さん言うところの「言葉が通じないなら殴るしかない」に当てはまる人種だということです。高嶋ちさ子さんは、こんな奴らを殴れるのでしょうか。
まあ、高嶋ちさ子さんが本当に殴れるかどうかの検証は、ひとまず置くとしましょう。仮に彼女が殴った場合、ふたりのようなタイプは必ず殴り返してきます。問題なのは、ここからです。
男性と女性とでは、まず腕力が違います。体格も違います。そうなると、パンチ力や、ダメージに耐える力が段違いなんですよ。闘いにおいて、この要素は勝敗を分けます。
仮に六十キロの男性と、五十キロの女性が足を止めて打ち合ったとしましょう(どちらもスポーツ経験なしとします)。この場合、単純な攻撃力だけでも、かなりの差があります。同じ一発が当たっても、与えるダメージは男性の方が遥かに上です。打たれ強さも、男性の方が上です。要するに、攻撃力、守備力、ヒットポイント、全て男性が上なんですよ。
しかも、拳で殴られることによる痛みは、大半の女性にとって未知のものです。さらに、全力で殴ることによって、こちらも疲れていきます。
結果、先に心が折れてしまいます。痛みと疲れで、戦意が喪失してしまうのですよ。そうなると、一方的にボコられるだけです。
それだけではありません。素手の拳で殴られたら、顔に傷を負います。痣や瘤はもちろんのこと、口に当たれば前歯が折れます。歯が折れるというのは、肉体的ダメージはもちろんですが、精神的ダメージが大きいですね。
また、鼻に拳が当たれば鼻血が出ます。下手すれば、鼻骨が折れます。鼻が折れた場合、もはや殴り合うことなど出来ません。鼻血がドバドバ出るし、何より完全に戦意を喪失します。
こういった部分は、フィクションの格闘シーンではほとんど描かれないですね。どんなに激しい闘いをしても、美男美女の顔は変わりません。アニメですが『ブラックラグーン』という作品で、主人公と思われる元サラリーマンの男性と裏の仕事屋である女性が殴り合うシーンがあったのですが……散々殴り合ったにもかかわらず、どちらも顔面がさほど変形しておらず鼻も曲がらず歯も折れていないという姿を見た時は、思わず笑ってしまいました。
しかし、現実は違います。現実を知りたければ「安川惡斗 世Ⅳ虎」で検索してみてください。 殴られボコボコにされた女性の顔面がどうなるか、少しはわかると思います。
こんな顔面になるかも知れないという覚悟を持った上で、それでも男性と殴り合いたいのでしょうか。
ここまで書いてきましたが、それでも男性を殴りたいという女性がいるのでしたら……まずは、キックボクシングのジムまたはフルコンタクト空手の道場に入門してください。それも、女性でもちゃんとスパーリングをさせてくれるところです。
闘いにおいて、殴る技術は必要です。しかし、それだけでなく殴られる経験もまた必要です。殴られ蹴られれば、当然ながら痛いです。その痛みに耐えながらも、前に進み攻撃を続ける……これには、慣れという要素も必須です。
また、ジムの強い人とスパーリングを続けていけば……一般男性と向かい合った時「こんな奴、ジムのAさんと比べりゃクソ雑魚じゃん」と感じることでしょう。そうなると、気持ちに余裕が出て状況を冷静に判断することも可能となります。相手のパンチを先にくらったとしても、冷静に反撃できるわけです。
この段階を経ずして、男性と殴り合うことなど出来ません。ちなみに、護身術はオススメ出来ません。あれは「こちらが攻撃しても、ピクリとも動かず棒立ちになっていて全く反撃してこない」という非現実的なケースを対象としておりますので。
次に、スタミナも必要です。何の運動経験もない人間同士が殴り合った場合、一分もすればヘトヘトになります。
素人の男性と殴り合った場合、その一分間をガードを固めて耐え抜けば、攻め疲れによりスタミナ切れを起こす可能性が大です。そこで反撃すれば、勝利の目もあります。
加えて、ブラジリアン柔術も習っておいた方がいいでしょう。押し倒された時や、組まれた時などに上手く逃げる技術を学ぶことが出来ます。
ここまで書いてきましたが……私は、暴力を推奨しているわけではありません。先ほども書いた通り、殴り合えば自分もケガをする可能性があります。下手すれば、顔に一生ものの傷を負わされることもあります。
また相手にケガをさせれば、傷害で訴えられる可能性があります。殴りたい相手がいるのでしたら、そのことも覚悟してください。
さらに、体格差が大きすぎると勝ち目は薄くなります。極端な話ですが、百キロの男性と五十キロの女性が闘った場合、男性にドンと押されただけで女性はよろけて倒れてしまったりします。
その状態で、百キロの男性に馬乗りになられたら……まあ、逆転は難しいでしょうね。
蛇足かも知れませんが……浜口京子さんはレスリング選手時代、試合中に鼻骨を骨折しながらも最後まで闘い抜きました。
選手を引退した今はテレビ番組で「気合だ!」などと叫ぶ陽気な姿を披露していますが、秘められた闘争心や根性には凄まじいものがありますね。そこらへんのヤンキーでは、相手にすらならないでしょう。
最近では、三十キロのダンベルを片手でカールする姿も動画で披露しております。今も筋トレは欠かしていないようですね。筋力、レスリング技術、根性……どれをとっても凄いです。吉田沙保里さんが「霊長類最強」などと言われていますが、個人的には浜口京子さんの方がよっぽど怖いですね。もちろん、私ごときが勝てる人ではありません。




