吉田沙保里のベンチプレス
最近知ったことですが、吉田沙保里はベンチプレスで百六十キロを挙げるそうです。ネット記事によると「普段はトレーニングで百六十キロを挙げていた。しかし百四十キロしか挙がらなかったことがあり、おかしいと思い調べてみたところコロナ感染が発覚した」とのことです。あの七十キロもないであろう体で百六十キロとは、恐ろしいパワーですね。
私なんぞは、体重が八十五キロありますがベンチプレス百六十キロは挙がりません。昔、百二十キロを三回挙げたのがベストです。今はそれすら挙がりません。先日は、百キロ十回がやっとでした。
吉田沙保里スゲー……と、ここで疑問が湧きました。この話は、果たして本当なのだろうか? と。
昔、ベンチプレス専門でやってる女性の世界記録が二百キロくらいだと聞いたことがあります。確か、その女性は八十キロを超える体格だったとも聞きました。ならば、六十キロ代の女性の世界記録は何キロなのだろうか……と調べてみたところ、次のことがわかりました。
女性でノーギアの部・六十九キロ以下のクラスだと、アメリカの選手が百四十四キロを挙げているそうです。ちなみにフルギアの部で六十九キロ以下だと、百七十七キロを挙げております。まあ、恐ろしい怪力ですね。
一応、説明します。ノーギアというのは、補助具を一切付けていない状態でベンチプレスをやった時の記録です。また、フルギアというのは補助具を付けた時の記録です。詳しい説明は省きますが、ベンチプレスを挙げやすくする様々な補助具があるのですよ。特にベンチシャツというものを着ると、通常よりも遥かに重いものが挙げられるそうです。
こうなると、吉田沙保里の百六十という話も怪しくなってきます。世界記録を叩き出している選手たちは、ベンチプレスで重い重量を挙げる……そのためだけに特化した筋肉を作り上げていますし、そのためだけのトレーニングをしております。
その筋肉は、レスリングでは全く役に立たない……とまでは言いませんが、レスリング用でないのは間違いないでしょう。レスリングでは、様々な方向で力を発揮する必要があります。また、持久力も必要です。単純にバーベルを挙げるのとは違う筋肉が必要なんですよね。
逆に言うと、レスリング用の筋肉はベンチプレスでは力を発揮できないこともあるわけです。ましてや、ベンチプレス専門にトレーニングしている人たちをも凌駕するような記録を出せるとは……ちょっと信じられないのですよね。
そんなことを思いつつ調べてみたところ、こんな記事を見つけました。
「吉田沙保里、背筋力が百四十キロまで落ちたことによりコロナを発見」
おや? と思いました。よくよく呼んでみると、普段の背筋力が百六十キロを超える吉田沙保里だが、その日は背筋力百四十キロしかなかった。そこで検査してみたところ、自身のコロナ感染を知ったというのです。
驚きましたね。これ、経過から数値まで、上記のベンチプレスと全く一緒です。ひょっとしたら、吉田沙保里のベンチプレス百六十キロという噂は……この背筋力の話を、誰かが勝手にベンチプレスの数値と混同してしまったのではないでしょうか。
で、それが広まってしまった……その可能性が高いように思われます。あくまで、私個人の推論ではありますが。
とかく、ネットでほいい加減な噂やデマが広まりやすいです。ましてや、吉田沙保里といえば人類最強などと言われております。私が「ん? おかしいな」と思うような逸話でも、無条件に信じてしまう人が少なくないのでしょうね。
ただ、オリンピックを三連覇してしまう人間は、我々の常識では計れません。
かつて故・山本KIDが「オリンピックに出るような連中は、普通の人間とは別物」というようなことを言っていたのを聞きました。ましてや、オリンピック三連覇してしまう人ならば……一般人とでは、チワワとドーベルマンくらいの差があるのかもしれません。
もし吉田沙保里が本当に百六十キロを挙げられるなら、是非ともベンチプレスの大会に出てほしいものですね。そこで、女子の世界記録を塗り替えて欲しいです。




