格闘シーンについて
初めに書いておきます。これは、あくまで私個人の考えです。「それ、あなたの感想ですよね」と言われたら「はい、私の感想ですが何か」としか言いようがありません。また、今回は格闘技の話ではない……とまではいかないですが、フィクションの分野の話となります。もうひとつ、今回は私の好み全開な話となっております。
先日、とある映画の映像を観ました。
どうやらヤンキー学生同士の喧嘩のようなのですが……どちらもブラジリアン柔術の技を掛け合い、寝技の攻防をしているのですよね。妙に綺麗な闘い方でした。
この映画の監督はブラジリアン柔術をやっているそうなので、柔術の宣伝という意図があったのかもしれません。あるいは、ちょっと違うものを撮りたかったのかもしれないです。監督の意図するところはわかりません。
ただ、個人的にはヤンキーにブラジリアン柔術の技を使って欲しくはないんですよね。それが創作であれば、なおさらなんですよ。格闘技の技をケンカで使うな、などと言うつもりはありません。しかし、ヤンキーに使わせたくないんですよ。
もうひとつ言うと、ケンカ慣れしたヤンキーもしくはケンカ屋にしか出来ない格闘シーンて、あると思うんですよ。泥臭い闘いにしかない迫力というものもありますしね。今回は、そういう格闘シーンを紹介していきます。
いきなり、ややマイナーな作品で申し訳ないですが……格闘家VSケンカ屋といえば、私はドラマ版『ホーリーランド』の緑川ショウゴVSカトーが思い浮かぶのですよね。
このホーリーランドは、いじめられっ子の少年が独学で格闘技を学び路上で不良少年と闘う……というストーリーです。ドラマにもなっておりますが……このドラマで個人的に好きなシーンが、空手家の緑川とケンカ慣れしたヤンキーであるカトーとの闘いです。
序盤は、空手で鍛えた正拳と回し蹴りとで緑川が押していきます。が、カトーの強みは体の大きさと腕力、そしてケンカ慣れしていることと凶暴さです。緑川の強烈な打撃にも怯まず乱戦に持ち込みました。一瞬の隙を突いて小柄な緑川を捕まえると、強烈な頭突きを食らわすのです。
この頭突きに怯んだ緑川に対し、カトーはさらに頭突きをぶちこみ、形勢を逆転させてしまいました。このあたりは、闘いにおけるハプニング要素の怖さを映像で上手く描いていたように思うんですよ。
ちなみにドラマにてカトーを演じていた弓削智久さんは、身長が高く顔つきにも凄みがある俳優さんです。カトーという男の凶暴さを、上手く演じていました。ただ、原作のカトーに比べると少し体の厚みが足りないようにも感じましたね。惜しいですが、これは仕方ないですね。
ちょっとケースは違いますが、『ダブル・インパクト』という映画では、ジャン・クロード・ヴァンダムが一人二役で双子を演じています。
この双子ですが、片方は裕福な家庭で育ち幼い頃から格闘技を習っていました。闘うシーンでは、派手な蹴りを多用しています。
ところが、もう片方は施設で育ち裏社会にて成長してきたという設定なんですよね。したがって、派手な蹴り技などは使いません。引きずり回してぶん殴ったり、頭突きを食らわして倒す……というケンカ殺法を使うんですよ。この両者の違いは、見ていて面白かったですね。
かつてヤンキーのバイブルと呼ばれていた漫画『ビーバップハイスクール』。今どきの若い子たちは、その存在すら知らないでしょうね。その映画版一作目を観たのは、私が小学生の時でした。テレビ放送されていたものを観たのです。
この映画版一作目ですが、ラスボスは顔面凶器・小沢仁志さん演じるヘビ次です。空手の使い手(映画版オリジナルの設定)でして、ひとりで主人公であるヒロシとトオルをボコボコにします。
ところが、ボロボロになりながらも向かっていくトオルは、ぐちゃぐちゃな乱戦に持ち込み、ボコボコに殴られ蹴られしながらも起死回生のバックドロップを食らわし勝利するのです。これは、ケンカ屋の根性が格闘家の技を打ち破ったシーンですね。
ちなみに、ヒロシもトオルも派手な後ろ回し蹴りみたいな格闘技の技は使いません。ぶん殴り蹴っ飛ばす、というような泥臭いケンカ屋の闘い方でした。
蛇足ですが、ビーバップハイスクールの監督は悪名高い実写版デビルマンを撮った方でもあります。
これまた古い話題で恐縮ですが……昔『特攻野郎Aチーム』というドラマがありました。元特殊部隊の何でも屋たちが、庶民を助け巨悪に立ち向かう姿を描いた海外ドラマです。
Aチームのメンバーに、コングというキャラがいます。モヒカン頭の黒人でして、がっちりした筋肉ムキムキの体です。殴り合いになると必ずこの男が登場し、相手をバッタバッタとなぎ倒していきます。
このコングも、格闘技の技など使いません。まあボクシングっぽいパンチを放つこともありますが、だいたいはぶん殴って力任せにぶん投げる、そんなキャラです。
たまに敵方にも巨漢の用心棒みたいなのがいたりするのですが、コングと用心棒との殴り合いはドラマの名場面でしたね。これまた、綺麗な闘い方ではありません。パワーと打たれ強さにものを言わせ、ただただド突き合います。体のデカいマッチョな男たちが、ひたすら殴り合う……これは、小手先のテクニックを超えた凄みがありますね。プロレスの面白さに通ずる部分があるかもしれません。
今は亡きハリウッドスター、ポール・ウォーカーはブラジリアン柔術を習っていたそうです。アクションシーンでは、下からの腕ひしぎ十字固めや三角絞めなどを使っていました。
一作目の『ワイルド・スピード』にて、ポール・ウォーカー演じるブライアン(刑事)が、ヴィン・ディーゼル演じるドミニク(プロの悪党)と闘うシーンがあります。この時、ブライアンは下からの腕ひしぎ十字固めをかけました。が、ドミニクはそのまま力任せに持ち上げ、バスターで床に叩きつけてしまったのです。これは、寝業師VSケンカ屋という図式の象徴ですね。技VS力でもあります。
ここまでいろいろ書いてきましたが、気づいたことがあります。
派手な技や綺麗な闘い方は、ある意味では簡単なんですよね。格闘技やケンカの経験がない人は、とりあえずそれっぽい技を見せておけば「凄い」「カッコいい」と感じるのですよね。岡田准一さんのようなイケメンがやれば、なおさらです。
それに、時代の違いもあります。ここで紹介した映画版のビーバップハイスクールは、顔面以外はガチで殴ったり蹴ったりしていたとか。さらに、オーディションには本物のヤンキーが大挙して訪れたとも聞いています。
しかも、この作品が公開されたのは一九八五年です。当時は今ほどコンプライアンスがうるさくなく、スタッフの指示でとんでもない無茶をやらせられたという話も聞きました。ヒロシを演じた清水宏次朗さんいわく「ケガ、脱臼、骨折は当たり前」。結果、迫真のケンカシーンが撮れたのですよ。
最近は、いろいろうるさいため過激なことは出来ません。したがって、この映画のような迫力あるケンカシーンを撮るのは非常に難しいでしょう。
また、昨今の若い俳優は細い人が多いです。顔つきにも迫力がない人ばかりですね。Aチームのコングや、ワイルドスピードのドミニクのような迫力ある肉体と風貌の持ち主などいません。体は細く、甘い顔の若い俳優たちが、コンプライアンスにがんじがらめにされた中で殴り合う……どう考えても、迫力など出ませんね。
となると、結局はカッコいい格闘技の技を用いた綺麗な闘いを見せ、それで迫力の無さをごまかすしかないのでしょうね。ただ個人的には、鈴木亮平さんや一ノ瀬ワタルさんといった俳優がきっちり肉体を作り上げれば、派手な技に頼らない迫力あるケンカシーンが出来るのではないかと思っております。
なお、勘違いされては困るので念のため……私は、体格に勝る凶暴なケンカ屋が格闘家を倒すシーンが好きだ、というわけではありません。むしろ逆ですね。
今回紹介した『ダブルインパクト』のクライマックスにて、ヤンスエ演じる巨漢に対しヴァンダムが回し蹴りや飛び後ろ回し蹴りを連続して食らわすシーンなどは大好物ですね。
また『ホーリーランド』にて、ボロボロにやられた緑川のリベンジのため主人公の神代ユウがカトーと闘うのですが……緑川に教わった技で窮地を脱し、トドメもまた緑川直伝のハイキックで決めるという展開は胸熱でした。個人的に、この対決はドラマ版のベストバウトだったと思います。
最後に、映画『シン仮面ライダー』にて「泥臭い闘い」と庵野監督が指示していたそうですね。実のところ、私はシン仮面ライダーは未見なんですよ。いったい、どんな感じの格闘シーンに仕上がっているのでしょうか。ちょっと興味はあります。




