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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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喧嘩の話

 私の通うジムは、床に柔らかいマットが敷かれております。そのため、投げ技により倒されても問題ありせん。また、壁にはウレタン製の緩衝材が付けられております。そのため、総合格闘技にありがちな壁際の攻防も問題なく出来ます。

 格闘技をやっていない人にはわからないかもしれませんが、これは非常に重要なのですよ。


 街に出れば、地面はアスファルトに覆われています。これは硬いですね。実際、アスファルトの上で受け身を取ると滅茶苦茶痛いです。また、硬いコンクリートの塀に当たれば、これまた痛いです。

 これが何を意味するか、説明しなくてもわかりますよね。路上で格闘などすれば、事故が起きやすいのですよ。総合格闘技のジムでは、事故の可能性を最小限に食い止めるため、壁や床を柔らかい材質にしているのです。

 万が一のアクシデントは、起きてしまってから気をつけても遅いのです。ましてや、脳にかかわるダメージは取り返しがつきません。




 さて、ネットを見ていると……路上の武勇伝を語る人は常に存在しており、絶えることがないですね。その内容も様々です。


「喧嘩を売ってきたヤンキーをぶっ飛ばした」


「ナイフ持って襲ってきた奴をボコボコにした」


「暴走族の集団に襲われたが、返り討ちにした」


「日本刀を振り回すヤクザと戦った」


「拳銃で撃たれそうになったが、ぶっ倒した」


 私が見たものは、こんな感じでしょうか。個人的に、こういった武勇伝を語る人の七割は嘘つきだと思っております。この手の人は昔から一定数いたのですが、SNSのお陰でより目に付きやすくなりましたね。

 残りは三割ですが、うち二割は「頭の中だけで起きたことを現実だと思いこんでいる」タイプの人ではないかと。これもまあ、大きく分けるなら嘘つきです。

 最後の一割はかろうじて真実を言っているのでしょうが、それでも実際にあったことに脚色している可能性もありますね。

 この一割の人ですが……私より遥かに強い人であるのは間違いありません。同時に、運の良い人であるのも間違いないでしょう。おそらくは、何度も喧嘩をしたにも関わらず、一度も警察に逮捕されたことがないのだと思います。つまりは、相手を死なせたりケガさせたことがない……そうなると、果たしてその技量はどうなのかという疑問が湧いてきますが、それはひとまず置きましょう。


 ここで、「何度も喧嘩をしたにも関わらず、一度も警察に逮捕されたことがないのだと思います」という部分に引っかかる方もいるかもしれません。なぜ、お前はそんなことがわかるのか? と。

 私の周囲では、かつて喧嘩を重ねた挙げ句に逮捕された人間が何人かいます。中には、刑務所まで行ってしまった人間もいます。そうした人たちのほとんどが口を揃えて言うのは「喧嘩なんか、怖くて出来ない」ということなんですよ。

 喧嘩の回数が増えれば、やがてシャレにならないことにぶち当たります。ヤクザを初めとする反社の連中と絡む。相手にケガをさせて警察に逮捕される。その場は勝っても、後で仲間を引き連れ狙われる。

 そして最悪なのは、相手を殺してしまうことです。路上での喧嘩は、予想外のアクシデントが起きやすいのですよ。硬いコンクリートの塀に頭を打ちつけたり、アスファルトで後頭部を打ったりすれば、相手が脳挫傷により死亡してしまう可能性があります。

 また、ヤクザや反社といった連中とモメると……学校や会社、さらには両親まで話がいったりします。単なる個人の喧嘩では済まなくなるのですよ。周囲にまで迷惑をかけることにもなりかねません。

 一度でも逮捕された経験があれば、否応なしにこうした知識を学ぶことになります。喧嘩を避けるようになるのですよ。少なくとも、私の見てきた人たちは皆そうでした。

 余談ですが、前にも書いた通り今どきのヤクザは喧嘩に勝つことを名誉とは捉えていません。むしろ「喧嘩? そんなのは、ボコボコにやられてから俺んところに言いに来い。そしたら、いくらでも金取ってやるから」というやり方です。喧嘩でやられたからといって、刀で襲ったり拳銃で狙ったりはしません。むしろ、それをネタに金を取る方を考えます。


 話を戻しますが、喧嘩を重ねれば否応なしにそうした事態にぶち当たります。また、刑務所に行けばさらにとんでもない話を聞けたりもします。喧嘩のもたらす本当の怖さを知るのですよ。

 そうなると、自然とつまらない喧嘩などしなくなりますし、出来なくなります。年齢を重ね、守るものがあればなおさらですね。

 ちなみに、私も以前に警察の厄介になりました。これまた前に書いたことですが、ヤク中に襲われ殴り合ってる時に警官に取り囲まれ、抗議したら公務執行妨害で逮捕され留置場で一泊しました。その時、喧嘩の怖さに気付かされましたね。




 ここまで読んでいただけた皆さんには、私が何を言いたいのかわかっていただけたことと思います。

 はっきり言いますが、喧嘩で勝ったところで何の得にもなりません。格闘技の試合なら、勝っても負けても何か得るものがあります。しかし、喧嘩は違います。勝っても負けても、損するだけなんですよ。

 こんなものは、避けるに越したことはありません。街での喧嘩など、避ける手段はいくらでもあるのです。肩がぶつかったら、謝ればいいでしょう。何か揉め事が起きたら、これまた謝ってその場を離れる……街で起きる喧嘩の大半は、謝れば済むものばかりです。

 とにかく、つまらないことで喧嘩するのはやめてください。どうしても人が殴りたい、もしくは人と闘いたい人は、格闘技を始めてください。試合に出れば、きっちりトレーニングを積んだ強い人間と殴り合えます。

 また、公の試合で勝てば、ちゃんと記録に残ります。ネットによくいる喧嘩自慢の嘘か本当かわからない武勇伝とは違い、ちゃんと記録として残してくれるのですよ。これは、喧嘩の勝ちよりも遥かに上でしょう。


 もっとも、私がなろうの片隅でいくら叫んだところで、響かない人には響かないでしょう。というより、響かない人の方が多いと思います。私も、若い頃にこんな話を聞かされたところで「喧嘩にビビってるだけだろうが」としか思わなかったでしょうね。実際、人間はしょせん自身の経験を通してしか学べない生き物なのかもしれません。

 それでも、私は言い続けます。ネットの武勇伝に憧れ、つまらない喧嘩をするのはやめましょう……と。私の書いたことが、ひとりの若者の心の片隅にでも残ってくれれば幸いです。



 

 こういうことを書くと、必ず誤読する人が出てくるので付け加えておきます。

 私は、どんな状況でも無抵抗で無条件降伏しろ……と言っているわけではありません。闘わなければならない時は、闘ってください。無論、それは肩がぶつかったとか口論の末に……というつまらない理由ではないことはわかりますよね。

 あくまで私は「つまらない喧嘩はしないでください」と言っているのです。自分の中にある譲れない何か、もしくは大切なもの、それらを踏みにじる者が現れた時は、どうぞ闘ってください。

 そういう闘いならば、たとえ刑務所に入れられようが慰謝料を請求されようが、悔いはないはずですからね。


 最後に、もうひとつだけ……つまらない喧嘩を重ねた者の行く末は、いわゆる「無敵の人」です。何度も逮捕された挙げ句まともな職に就けず、恋人はおろか友人すらなく、家族からも見放された人ですね。

 あなたは、こんな無敵の人になりたいですか? こんな人間になってまで「俺は強い」というプライドを貫き通したいですか? その覚悟があるなら、私は止めません。







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― 新着の感想 ―
[一言] この話を読んでいて次々話で出ていた「ホーリーランド」の漫画版の最終話を思い出しました。喧嘩に明け暮れた主人公は「格闘技界でヒーローになってハッピーエンド」とはならず「刺されて死亡」を匂わせは…
[良い点] 私はケンカをしたことがありません。誰かと関わる方法として暴力や暴言を選ぶ意思がないからです。 そういう道を好む人と同じ土俵には上がりません。 [一言] 何度も逮捕された挙げ句まともな職に…
2024/01/26 02:24 退会済み
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