総合格闘技の現実
これを書いているのは、夏の甲子園大会の真っ只中です。この熱い中、外で野球をやるというのは本当に頭が下がりますね。
言うまでもないことですが、野球は日本ではメジャーなスポーツです。小学校の頃にはリトルリーグ、中学校からは部活動で野球に振れる機会もあるでしょう。そこで才能を見出されれば、プロ入りという選択肢が生まれます。プロになり好成績を収めれば、金と地位と名誉が得られるわけですね。さらには、メジャーリーガーという道まであるわけです。
プロ入りを抜きにしても、高校大学と野球部にいた人には、それなりのメリットがあります。例えば、勉強が出来なくても、野球の上手さで進学できたというような話もあります。また、どこそこの会社の部長さんは同じ大学の野球部OB……などということになれば、就職の際のコネになることもあります。そこまでいかなくとも、昔は体育会系が採用されやすかったんですよね(今は知りません)。
これは、野球部に限った話ではありません。サッカーやバスケやラグビーといった部活動に付いて回る特典です。部活動として認められているメジャーな競技なら、たとえプロになれなくとも打ち込むメリットはあるわけです。これらの競技には、好きでなくとも取り組むことが出来てしまうのですよ。
さらに、この特典は球技に限りません。柔道や伝統派空手や相撲、ボクシングといった格闘技系の部も続けるメリットはあるわけですね。
これが総合格闘技となると、話はまるで違って来ます。
まず、総合格闘技は部活動でやることが出来ません。街にあるジムや道場に、お金を払って入門しなければいけないわけです。学校の部活動のように、気軽に始めるわけにはいかないのですよ。この時点で、ハードルがあるわけですね。
また、総合格闘技は世間的に見ればマイナーです。「総合格闘技? なにそれ?」と言われることは今もあります。仮に中学生や高校生が担任の教師に「総合格闘技やってます」と言ったところで「そ、そうか。頑張れよ」で終わりでしょう。下手すれば「んなもんやめとけ」と言われることすらあります。総合ではありませんが、私の知人は高校生の時キックボクシングのジムに通っていました。が。「キックボクシングなんかやっててもなんにもならないぞ。それより空手部に入れ。進学や就職の時に有利だぞ」と担任教師にアドバイスされたそうです。
つまり、メリットという部分から見れば……総合格闘技は、プロにならなければ何の意味もないんですよ。
仮にプロになったとしても、それで食べていけるようになったわけではありません。無名の若い選手の場合、ファイトマネーは呆れるほど安いです。そこで、選手は他に仕事をするわけですが……ここで問題となるのが時間です。
プロともなると、どこで試合をやるかわからないのですよ。北は北海道、南は沖縄……そんな場所で試合をやるとなると、数日がかりで臨まねばなりません。
しかも、試合で怪我をすれば仕事も休まねばなりません。となると、サラリーマンでは難しいです。時間の応用が利くアルバイトが中心になります。
つまり、総合格闘技のプロ選手はアルバイトをしながらトレーニングし、チャンスを狙うわけです。目指すは、メジャーな団体のチャンピオン……さらには、海外進出を狙うこととなります。海外のメジャー団体ですと、ファイトマネーも地位も名誉も日本とは段違いですからね。
かくして、総合格闘技の選手は海外のメジャー団体を目指すことになります。めでたし、めでたし……とは、なりません。
総合格闘技で使われるグローブは、ボクシングやキックボクシングと比べ薄いものです。これで殴られると、外傷を負いやすいのですよね。顔面に当たると、鼻骨や歯が折れやすいです。また逆に、殴る方も拳を痛めやすいです。
それ以前に、頭部に打撃を受けると脳にダメージを受けるのですよ。これは、後々の人生にまで影響を及ぼしてくるかもしれないのですよ。
打撃だけではありません、総合格闘技にほ、関節技があります。相手の腕や足の関節技を極め、破壊する技です。この関節技も怖いのですよ。
関節技で関節を破壊されれば、しばらくは動かせません。そうなると、仕事はもちろん生活にも影響が出ます。下手すると、一生ものの怪我を負うこともあります。特にヒールホールド(最近はヒールフックと呼ばれることも)という関節技は、簡単に膝を壊してしまえる技です。しかも、膝は治りにくい箇所でもあります。下手すると、生きている間ずっと松葉杖の世話にならねばならない……そんなこともあるのですよ。
私が何を言いたいか、勘のいい方ならもうおわかりでしょう。総合格闘技は、割に合わない世界なんですよ。
野球やサッカーといったメジャーな球技は、いい成績を出せば大きな見返りがあります。進学や就職の際には、大きな武器となるでしょう。プロ入りして好成績を収めれば、金と名誉が得られます。
ところが総合格闘技には、メジャーな球技に付いて回るメリットがほとんどありません。進学にも就職にも、有利になったりはしません。プロになってからも、大金を稼げるわけではないのです。
しかも、総合格闘技は未だにマイナーな部分があります。事実、数年前に初対面の人に「総合格闘技やってます」と言ったところ「総合格闘技? なにそれ?」と言われました。悲しいですが、これが現実です。
こんな世界に居続けられるのは、本当に総合格闘技が好きな人だけでしょうね。実際、冷静にメリットとデメリットを考えると、本当に好きな人間でないと続かないし、また続けられないです。
最後に、知っていただきたいことがあります。
先ほども書いた通り、関節技は危険です。ひとつ間違えば、一生残る大怪我を負うケースもあります。ですから、遊びで真似をしないで欲しいのですよ。ましてや、プロレスごっこの延長レベルで関節技をわかった気にならないでいただきたいですね。どうしても関節技を学びたいなら、ジムや道場に入門し、ちゃんとした指導者に注意点を教わりつつ試してください。




