人格者にはなれない、の巻
かなり前の話ですが、私の通う格闘技ジムにひとりの小学生が来ていました。打撃を中心に練習しており、熱心に通っておりました。礼儀もしっかりしており、小学生らしからぬものを感じたことを覚えております。
たまに私とスパーリングをすることもありましたが、その時は出来るだけ「受け」に回ることを心がけていました。また、顔面以外は全て本気で攻撃していいから、とも言っておりました。結果、ローキックやボディブローといった攻撃を、バチバチもらいましたね。まあ相手は小学生なので、余裕で耐えられますが……なかなか重いパンチやキックだったのを覚えています。たぶん、同じ年齢の少年が相手ならあっさりと勝てるくらいの強さは持っていたでしょうね。
ところが、中学校に進学してしばらく経った頃でしょうか……突然、少年は来なくなりました。まあ、中学生になれば生活も変わります。格闘技より打ち込めるものを見つけたのかもしれません。
それから時が経ち、こんな噂を聞きました。
「あいつ、チンピラみたいなのと一緒に町を歩いてたよ」
よくはわかりませんが、少年はどうやら悪い仲間と付き合っているようでした。その後、どうなったかは知りませんが……何はともあれ、犯罪にだけは関わって欲しくないなと思います。
さて、話は変わりまして……先日ツイッターにて「男の子の集団には特有の野蛮な部分がある。だから自分の子供には格闘技を習わせたい」という呟きが投稿されました。すると「暴力で全てを解決するような人格になる」などと反論する人が現れました。さらには「格闘技や武道をやると礼儀正しくなるし人格にも良い影響がある」「格闘技をやって、いじめる側になれというのか」「強くなれば自信がつき、いじめられなくなる」「いじめと腕力は関係ない」などと、いろんな意見が飛び交っていました、しまいには「これだから男親は」「女に男の子の世界がわかるか」という話にまで発展していました。
どちらが正しいか、私は知らないし知る必要もないと思っております。が、あえて意見を言わせていただくなら、格闘技をやったからと言って人格者にはなりません。これだけは自信を持って言えます。
かつて、オリンピックにて柔道で金メダルを獲った某選手と同じ学校の柔道部だった人と話をしたことがあります。その人は、某選手のことをこう言っていました。
「同じ人間とは思えない。化け物みたいに強かった。あいつには、百年練習しても勝てない」
その後、こう付け加えていました。
「ただし、人としては最低」
あくまで聞いた話ですが、この某選手は後輩へのいじめがひどかったとか。夜中、全裸で町内を走らせたこともあったそうです。本人は、その姿を見て笑っていたとか。口を開けば他選手の悪口や「俺スゲー」みたいな自慢話ばかりで、話していると疲れる……と言っておりました。
まあ、オリンピックで金メダルを獲るということは、はっきり言って偉業ですよね。その偉業を達成するのは、謙虚で他人に譲ってばかりの人間に不可能です。そもそも、どんな分野でも上に行くのは、人格的に多少クセのある人間なのは間違いありません。ただ私は、この某選手とは友だちにはなりたくないですね。
少し前の話ですが、ジムにプロ選手が出稽古に来たことががありました。プロ選手は、私と寝技のスパーリングをしましたが、私から一本を取ることは出来なかったのです。まあ体格差もありましたし、仕方ないと言えば仕方ないですね。
スパーリングが終わると、プロ選手はこう言いました。
「体格が同じだったら、赤井さんから何本でも取れますよ」
いかにも悔しそうな口調でした。まあ、確かに体格が同じなら私はプロ選手にやられていたでしょう。しかし、私はアマチュアのおっさんで相手は若いプロ選手ですからね。当然ながら、練習も私の何倍もしています。たとえ悔しかったとしても、プロがアマチュア相手に体格差を口にするのはね……私は「そうですね」と苦笑しながら返しました。
まあ、格闘技のプロになろうという人は負けず嫌いなタイプが多いです。こういう面倒くさい人もいますので、注意した方がいいかもしれません。
ちなみに、このプロ選手は大した活躍は出来ていないようです。目先の勝ち負けにこだわるあまり、大切なところで星を落としているのかな……とは思います。
あと、格闘技や武道で必ず話を聞くのが……初心者をボコッて悦に入るタイプです。試合には出ないで、道場やジム内でのスパーリングばかりやっていて、強い人とはあまりやらず入ったばかりの人間をボコボコにして自己満足に浸る……こういう人には、近づかない方がいいかもしれません。
いろいろ書いてきましたが、個人的には子供に格闘技を習わせることには賛成です。子供には、学校と家庭以外の居場所があってもいいのではないかと。それに、以前にも書いた通り格闘技のジムの人間関係は浅いものです。浅い人間関係にも、良さがあります。時には、その浅い人間関係が救いになることもあります。さらに、体も鍛えられます。軽い気持ちで、トライさせてみるのは悪くないのではないかと。




