思い込みの強い人
数年前のことですが、こんな話を聞きました。とある総合格闘技のジムに、道場破りが来たそうです。
昭和ならともかく、今の時代に道場破りとは……どんな奴なのかと聞いてみれば、相手は若い男で、少年といってもいいくらいの見た目だったそうです。体格もひょろっとしており、とても強そうにほ見えなかったとか。
仕方なく、インストラクターのプロ選手が相手をしたそうなのですが……やる前に「本当にいいんだね? 本当にやるんだね?」と念を押してから始めたそうです。詳しいルールなどは聞いていませんが、あっさり終わったとか。
「ひょっとして、それは『総合格闘技のジムに道場破りやってみた!』とかいうユーチューバーだったのでは?」
と聞いたところ「違う」と言われました。どうやら、本気の道場破りだったようです。
さて、話は変わりまして……SNSを見ていると「俺は強いよ」とアピールする人は少なからずいます。その中で、果たして何人が実際に強いのか……は、ひとまず置きましょう。ネットでは武術の達人を自称し、でも現実ではまともに人の目を見て話せない……あまり格好のいいものでは有りませんが、それはまだマシな気がします。現実の自分が弱いとわかっているわけですからね。
ところが、中には現実の自分も強いと思い込んでしまうケースもあるようなのです。冒頭のエピソードなどは、まさにこれでしょう。
また、以前に薬物依存を治療する施設を取材するテレビ番組を観ていた時ですが……取材を受けていた患者のひとりが「格闘技をやってみたい。チャンピオンに勝つ自信はある」などと言っていました。インタビュアーも「いや、それは難しいのではないですか」といったところ「やり方次第でしょ」などと答えていました。一応、言っておきますと……その患者さんは、かなり体脂肪が多めの体型でした。薬はやめているのでしょうが、他にも心の問題を抱えているのでは……と思いましたね。
こういう人たちには、一度ジムなり道場なりに行って体験してみてください……と言いたいのですが、中には体験してもわからない人もいます。
以前ツイッターで「格闘家にタックルされたが数メートル後ろ向きに走り続けて、タックルの勢いがなくなるまで凌いだ」などと言っていた人がいました。武術をやっている作家のようですが……これ、レスリングあるいは総合格闘技をやっている人なら、はあ? となってしまうことでしょう。まず、タックルされて数メートル後方にダッシュできるという状況は、普通なら有りえないのですよ。
少々、専門的な話になりますが……両足タックルなら、入った時点で自分の両手が相手の両足を掴んだ状態になっています。その状態で後方に走る……出来ないことはないのかもしれませんが、まあ膝裏を引き倒されて終わりでしょうね。それ以前に、タックルくらって数メートル後方ダッシュ出来るくらい余裕があるなら、さっさとバービーでタックル切れよ、と思うのですが……それすら知らないレベルの人なのでしょう。ちなみに片足タックルなら、後方ダッシュなど最初から不可能です。
思うに、この格闘家はタックルしたはいいが相手が素人同然の動きしかしていないのに気づき、怪我させてもマズいので、後方ダッシュするに任せてタックル失敗した形にしたのではないかと。ここでムキになっても仕方ない、とあえて花を持たせた気がしますね。ついでに、プロ格闘家は素人との遊びの場で本気は出しません。
ところが、それがわからない人もいます。本気を出していない……それどころか接待スパーしている格闘家を相手にして「勝った」と思ってしまう……こういう人、たまにいるんですよ。実際、「プロ選手の○○とスパーリングしたけど、大したことなかった」などと書き込んでいた人を見たことがあります。
こういう人は、一度ガチの試合に出てみないとわからないのでしょうね。試合に出て、自分がどれだけ弱いかを理解する、これも必要だと思います。
最後に、芸能人でもこういう人がいるみたいです。『今は優しくなりました』の章でも書いた通り、最近は褒めながら指導するジムがほとんどです。そういった指導を受けているうち「俺って強いじゃん」と思い込む人がいるとか。
特に売れっ子の俳優やタレントの場合、下手にケガなどさせられません。そのため、超ユルユルの接待スパーリングになってしまうのですが……それで調子に乗ってしまう人がいる、という話は聞きました。




