「振る」鍛練法
聞いた話ですが、昔のヘビー級ボクサーの重要なトレーニングのひとつに、薪割りがあったそうです。説明の必要もないとは思いますが、キャンプ地などでよく見られるアレですね。斧を振り上げ、大きめの木片を割っていく……実際に体験した方も多いのではないでしょうか。
実のところ、私は薪割りをしたことはありません。したがって、どのような効果があるか自身の体で感じたことはないのですよね。ただ、多くのボクサーが薪割りをしていた話は聞きます。漫画『はじめの一歩』でも、紹介されていたそうです。また、四十五歳で世界ヘビー級チャンピオンに返り咲いた伝説のボクサー、ジョージ・フォアマンなどは、この薪割りをかなり重視していたようですね。
先ほども書いた通り、私は薪割りをしたことはありません。そのため、これは私の体で試したものではないですが……薪割りをすると、まず腕が鍛えられます。それも、手のひらから手首さらには前腕全体を強化できます。次に、肩や背中といった部分も強化できるそうです。これは、バーベルやダンベルを用いたウエイトトレーニングとは違った効果があるのでしょうね。
ただ、それよりも重要な効果が薪割りにはあるように思われます、当然ながら、腕に力が入り力んだ状態では、斧を速く振ることは出来ません。速く振るには、脱力した状態から、インパクトの瞬間に一気に筋力を一点に集中させ解放させる……こういうタイプのパワーを付けるためのトレーニングのようです。
これは、ボディビル的トレーニングとは全く違うものなんですよね。ボクシング等の打撃系格闘技の経験がある方ならわかるでしょうが、パンチにしろキックにしろ、脱力した状態から一点に力を集中させ一気に解放する……こういうパワーを付けるには、それ専用のトレーニングが必要なのですよ。
打撃系格闘技に限らず、競技にもこういうパワーこそが重要なのです。組み技にも、こうしたパワーが必要ですね。組んだ状態から、相手を崩したり引き込んだり投げたりする場面では活きてくるのではないでしょうか。
この薪割りトレーニングは、誰もが出来るわけではありません。そこで、現在の主流はハンマートレーニングです。柄の長い両手用のハンマーを振り上げ、素振りのように振り下ろす。
これには、二種類のやり方があるようです。ひとつは、ハンマーを振り上げタイヤを叩く。強い一撃をタイヤに叩き込むことにより、瞬間的なパワーを養えるわけです。
もうひとつは、ハンマーを振り上げ地面に叩きつける……寸前で止めるのだそうです。重いハンマーを振り下ろせば、勢いがつきます。その勢いづいたハンマーを、ピタッと止める……これにより、タイヤを叩くのと似た効果が得られるようです。
ただ、こういうトレーニングというのは効果がわかりにくいのですよね。
ウエイトトレーニングの場合、数字で上達を実感できます。今までは、ベンチプレス五十キロが八回あがっていた。ところが、今日は十回あがった……これで、力が強くなったことはわかります。
ところが、こうした「振る」トレーニングは効果を実感しづらいです。まあ、サンドバッグを叩いた時にパンチの重さが変わってきたと感じられることは有るでしょうが、それが果たして「振る」トレーニングのおかげだったかどうかというのはわかりづらいですからね。
こうした「効果を実感しにくい地味なトレーニング」をきっちりと続けられること……それもまた、大事な才能なのかもしれないですね。




