まずは自分を知ってください
先日ツイッターを見ていたら、武術家の面白い呟きが流れてきました。
「たまに道場に、殺し合いで使える技を教えてくれ……などと真顔で言う人がいる。それも、いい歳をした大人が言ってくる」
さらに続けて「そう言ってくる人は全員、運動経験もなさそうで喧嘩した経験すらないようなタイプだ」という内容の呟きも投稿しておりました。
いい歳、というのが何歳かは不明ですが……確実に三十は過ぎているでしょう。さらに、そんなことを真顔で言えるということは、呟き主である武術家の見立ては完璧だと思います。その年齢まで格闘技はおろか、本気の喧嘩の経験もないのでしょうね。まあ、以前に「格闘技の方が武術より強いという人は、この動画を見て欲しい。ルールなしならどれだけ危険か」などと呟いていた人と同類なのだと思います。
では、こういう人が武術の道場で実際に人を殺せる技を習ったとしましょう。果たして、実戦で使えるでしょうか?
あくまで私個人の意見ですが、九割以上の人は使えないと思っております。
以前テレビで、品川庄司の品川さんが、庄司さんと喧嘩になった時の話をしていました。いわく「庄司は人を殴ったことがないから、俺の顔を引っかいてきた」とのことです。
これ、珍しい話ではありません。実際、私も初めて人を殴ろうとした時は、パンチが出せませんでした。いざ殴ろうとしたら緊張のあまり腕に力が入りすぎ、ガチガチで殴れなかったのです。仕方ないので掴みかかり、顔面に頭突きを食らわした覚えがあります。
また、アマチュアのキックボクシングの試合では、たまにグルグルパンチを出す選手がいます。普段、ジャブやストレートやフックの打ち方を練習していても、いざ本番となると吹っ飛んでしまう……こんなのは、なんら珍しいことではありません。
私は普段、組み技の練習をしております。一応説明しますと、絞め技や関節技の攻防が主となっております。
この関節技ですが、ちゃんとかければ相手の手足を折ることが出来ます。しかし、私は手足を折ったことはありません。スパーリングでは必ず、折る前に止めます。場合によっては、自ら技を外すこともあります。あと一捻り加えたら、折れてしまう……そんな時は、自ら外しますね。正直に言うなら、試合でも相手の手足は折りたくないです。
この「相手の手足を折れる」というのは重要なポイントです。折れる人と、折れない人がいるのですよ。私は、はっきり言って折れないタイプです。しかし、プロになろうという人は、いざとなったら躊躇なく折れる人ばかりなんですよ。
もちろん、私も折る方法は知っています。私に限らず、ジムや道場できっちり関節技を習っている人は皆、折る方法は知っています。ただ、実際に折れるかどうかは別の話なんですよ。
あと、プロレベルの人は素人相手なら一瞬で手足をへし折ることが出来ます。試合では関節技がかからず逃げられるケースがありますが、あれは相手もプロでディフェンスの方法を知っており、上手くポイントをずらして逃げているからなんですよ。
私が何を言いたいか、もうおわかりですね。知識として技を学ぶことと、実際に実戦にて使用するのは別物なんですよ。
人を殴るという行為は、一見すると簡単です。誰でも出来そうな気はします。しかし、いざ実際に殴るとなると、そう簡単にはいきません。練習している人ですら、グルグルパンチになってしまうことがあるのです。
これは、他の技にもいえます。たとえば、目つぶしという技があります。二本の指を敵の眼球に突き入れる技ですが……これを実際に使える人は、そういないでしょう。人の手足を折ることさえ簡単ではないのに、人の眼球に躊躇なく指を突っ込む……それが出来る人間は、本当にヤバい人です。少なくとも、いい歳になってから「殺し合いに使える技を教えてくれ」などと言っている人には不可能でしょう。
こういう人にこそ、私は言いたいです。格闘技を始めてください、と。
近所のボクシングジム、あるいはフルコンタクト空手の道場で構いません。「ボクシングは蹴りがない」「フルコンタクト空手は顔面を殴らない」などという雑音は、ここでは無視してください。まず、自分に人を殴ったり蹴ったりする能力があるか。また、人に殴られたり蹴られたりしたら、どんなことになるか。それを知ることから始めてください。人を殺せる技は、その後で学んでも遅くはありません。
とかく脳内でしか闘ったことのない人ほど、過激なことを言いがちです。創作界隈は、特にそうですね。最初は、自分という人間の今現在の能力を、正確に知ることから始めてもらいたいものです。
最後に、映画『ベストキッド』(オリジナル版)について、こんな意見があります。
当時のアメリカは、クラス内カーストが激しかった。特にアメフトや野球などの体育会系クラブ主将とオタクとの間には、凄まじい差があった。そんな迫害されしオタク系の代表のような主人公ダニエルが、オタク系の好みそうな東洋の神秘的な鍛練法で、体育会系の敵をバッタバッタと倒していく姿がヒットの一因になった。
なるほどな、と思います。確かにアメリカのドラマなど観ていると、オタク系の地味な生徒が体育会系の生徒たちに捕まりゴミ箱に入れられたりしています。今は知りませんが、昔はこんなのが当たり前だったのでしょうね。
日本人の武術系を好む層の中にも、こうした気持ちを持つ者がいるのではないでしょうか。「華やかなスポットライトを浴びている体育会系は、実戦なら弱いんだ」などと言い続けることで、学生時代の復讐をしているのかもしれません。




