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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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武道関係ない?

 十年近く前の話ですが、こんなことがありました。

 知人たちと電車に乗っていた時のことです。乗った直後、空いている席があったので三人で座りました。

 が、すぐにやばいと思いました。四十代から五十代、スーツ姿のサラリーマンとおぼしき人物がすぐ近くで騒いでいたのです。「この野郎」などとひとりで言いながらドアに蹴りを入れたり、体当たりをくらわしたり……明らかに、酔っ払っている雰囲気でした。車内はそこそこ混んでいましたが、その男の周囲だけ空いていたのです。そのため、我々は座ることが出来ました。

 うわあ、やばいとこ乗っちまったな……と思っていたら、そのサラリーマンはさらにとんでもないことをしました。ポケットから何かを取りだしたかと思うと、バキッとふたつにへし折ったのです。

 まずいと思いました。私と一緒にいたのは親子なのですが、お子さんの方は発達障害を持っておりました。人の罵声を聞いたりすると、どうしていいかわからなくなり泣き出したり叫んだりすることがあります。

 仕方ないので、私はサラリーマンの方に近づいて行きました。見れば、背丈はさほど高くないですが骨太のがっちりした体格です。耳は潰れていなかったし拳にもタコはなさそうでした。格闘技はやっていないようですが、腕力はありそうです。しかも酔っ払っているようでした。ただ、ベロベロではなく「酒が入ってる」という段階でしたね。

 怒らせないように出来るだけにこやかな表情を作り、腰の低い態度で話しかけました。


「あ、あのう、大丈夫ですか?」


 すると、サラリーマンはじろりと睨んできます。なんだお前、とでも言いたげな表情でした。私は、こいつが殴りかかってきたらタックルで倒して押さえ込もう……などと頭の中で制し方をシミュレーションしつつ、頭をペこりと下げつつ話しかけました。


「なんか、バキッて折れてたみたいですけど大丈夫ですか?」


 ニコニコしながら尋ねると、サラリーマンもなぜか恥ずかしそうに笑いながら、折れたものを見せました。


「ハハ、やっちまったよ」


 言いながら見せたのは、なんと折れたガラケーでした。ひょっとして、電話で不快なことでも言われたのかもしれません。


「ああ、やっちゃいましたか。あ、僕もまだガラケー使ってますよ」


 思わず出てしまった言葉ですが、サラリーマンは気をよくしたようでした。その後、いろいろ聞いてきたりグータッチを求めてきたり「いい体してんな」などと胸を揉まれたり……仕方ないので応じつつ「あんまり暴れないでくださいね」と、念を押しました。やがて私たちは電車から降りましたが、サラリーマンはかなり機嫌よくなっていたようでした。




 こんなしょうもない武勇伝(?)を、ここになぜ書いたのかといいますと、先日ツイッターにてこんな呟きを見たからです。


「実戦で武道は役に立たないといわれたり、あの技は有効だという話題は時々でる。けど、本当に暴れてる人間をなんとかするのは武道関係ない。話す技術の方が大事」


 こんな内容だったと記憶しています。このツイートしてる人、実際に暴れている人をなんとかしたことはないと思うんですよね。一応、武道か武術をやっているようなのですが、どういった流派の何をやっているのか具体的なことは知りません。

 それはともかくとして、上に書いた体験において、私は格闘技を使っていません。話し合いでたまたま上手くいきました。が、上手くいかなかった可能性もあります。その時は、押さえ込むしかなかったんですよね。

 それ以前の問題として、私は「いざとなったらブッ倒す」という覚悟を決めて対峙しました。いざとなってもどうにか出来るだろう、という自信もありました。だからこそ、平静な態度で会話できたのですよ。その源はと言えば、ウエイトトレーニングやって腕力にはそこそこ自信があり体格的にも劣っておらず、さらに格闘技をやっている経験なのは間違いありません。

 そうした「秘めた覚悟」みたいなものは、相手にも伝わります。どんなにニコニコしていても、覚悟を決めた人間は違いますね。そうした覚悟なしで、暴れているような相手に対話を試みたとしても、上手くいくとは思えません。よっぽどの話術が要求されるでしょうね。

 衆人環視の中で暴れるような人というのは、はっきり言って普通ではありません。そうした人間に、武道などやっていて強い者が「やめないと、俺が力ずくで止めるぞ」という覚悟を秘めつつも、にこやかに接する……その時、相手はまず「こいつヤバそうだ」と感じるでしょうね。しかし同時に「そのヤバい奴が、俺に対して下手したてに出ている」とも思います。そうなると「ヤバそうな奴が下手に出てる。仕方ねえから、俺も引いてやるか」という言い訳が出来るわけですね。

 相手に引くための言い訳を与えてあげる。それが、皆の見てる前で相手の面子を潰さず引かせるということに繋がります。これは非常に大事なんですよ。上から目線で説教するようなことを言ったり、チンピラのように怒鳴り付けたら、相手はプライドを傷つけられ、さらに怒ることでしょう。そうなると、結局は暴力の行使となります。これは、いい結果をもたらしません。

 衆人環視の中で暴れている者に対し、にこやかな態度で接し相手を引かせる……その状況を作るためには、いざとなったら相手をねじふせられるだけの強さが必要なんですよ。その部分を無視し「武道関係ない」などと言えるのは、リアルな状況を知らないとしか思えません。口での説得によほど自信のあるのでしょうね。ただ、一般人には無理だと断言します。

 最後になりますが……冒頭の場面にて、暴れていたのがボブ・サップやブロック・レスナーのような男だったら、私は話しかけることすら出来なかったでしょうね。






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― 新着の感想 ―
[一言] >「本当に暴れてる人間をなんとかするのは武道関係ない。話す技術の方が大事」 暴力を知らない人の意見乙ー。って感じですね! 物理的にでなくとも、暴れている(冷静さを失った)人間には、基本的…
[良い点] うーむ! 力なき正義は無力!的な説得力を感じました! 平和とは力を示威してこそ!みたいな! さすが赤井さんだと思います!
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