困ったプロレスファン
先日、とある作家さん(Aさんとします)の、こんなコメントを見ました。
「RIZINとかの格闘技イベントでのマイクアピールは、まるでヤカラの喧嘩のようだ。プロレスとは全く違う。テクニックの差を感じる」
いや、これは違うの当たり前なんですよね。プロレスラーの方がマイクアピールうまいのは当然です。格闘技は、ガチの勝負であり壊し合いなんですよ。一歩間違えれば、命を落とすかもしれない場に立っていたわけです。事前に言おうと考えていたことなど、試合中に頭から飛んでしまう可能性が高いんですよ。
ましてや、顔にいいパンチをもらったら、細かい記憶が飛ぶことなど珍しくありません。打撃の試合もしくはガチスパーをやって、いいパンチをもらった経験のある人ならわかっていただけると思いますが、パンチをもらった記憶がなく、気が付いたら倒れていた……というケースは珍しくありません。マイクアピールのテクニックが、プロレスラーに比べ劣るのは当然なんですよ。
そういう事情を知らず、表面的な部分のみで「総合格闘技よりプロレスの方が上」とでもいいたげな態度……こういう人、昭和生まれのプロレスファンにたまにいるんですよ。
ちなみに昔、とある格闘技のイベントにて、A選手とB選手が闘うことになりました。事前の予測ではA選手の勝利間違いなしといわれており、A選手は試合に勝利した後、マイクで「Cさん(この人も当時は有名な格闘家です)、どっちが強いかはっきりさせよう」とリング上で挑戦を表明する……それが、主催者の描いたシナリオでした。A選手も、それは事前に承知していました。
ところが予測に反し、試合に勝ったのはB選手でした。慌てた主催者は、B選手にマイクとメモを渡します。そこには、A選手がマイクで言うはずだったセリフが書かれていました。が、B選手は裏の事情など全く知りません。わけもわからず「Cさん、どっちが強いかはっきりさせよう」と棒読みでマイクアピールしたそうです。
プロレスと違い、格闘技は事前の予測通りには動かないケースが多々あるんですよ。同列に語られても困ります。
誤解されると困るので書きますが、私はプロレス好きです。小学生の時に友人の家で、キラーカーンVSアンドレ・ザ・ジャイアントの試合が録画されたVHSビデオを観て以来、プロレスを見続けてきました。カブキのヌンチャクからの毒霧、ウォーリアーズの合体攻撃、ベイダーのムーンサルトプレスに痺れ、「セメントでやったら、一番強いのはディック・マードックらしいぞ」「ケンドー・ナガサキも強いらしい」「ドン荒川も、実はかなり強いって話だよ」などという噂に胸躍らせたものです。
プロレスという、命を懸けたエンターテイメントをバカにする気は毛頭ありません。ただし、これだけははっきりさせないといけないのですが、プロレスと格闘技は違うのですよ。このふたつは、ジャンルからして別枠です。にもかかわらず、同列に並べて比較する人がいるんですよね。昭和生まれのプロレスファンに多い気がします。
冒頭にて紹介した作家Aさんの、お仲間とおぼしきBさんもプロレスファンのようです。このBさんも「総合格闘技より、プロレスの方が面白い。だいたい実戦ならば総合格闘技のようにはならない」などと書いているんですよね。まあ、このBさんが実戦なるものを経験しているのかは不明ですが、プロレスと総合格闘技を同列に論じている時点で、どういうタイプの人かはわかります。
もう一度書きますが、プロレスと総合格闘技は全く別枠なんですよ。プライドやK-1が全盛期だった時代に、とあるプロレスラーが総合格闘技についてどう思うか聞かれ「気にはしていないですね。自分たちのプロレスをきっちりやっていれば、お客さんは来てくれると信じてますから」とコメントしていました。これは正しい反応であると思います。また、令和のプロレスファンは、総合格闘技とプロレスは全く別枠であることを理解されているでしょう。いや、昭和のプロレスファンも大半の人が総合格闘技と比較したりはしないでしょう。
はっきり言ってしまうと、プロレスと総合格闘技を比べるのは「那須川天心とジャッキー・チェンはどっちが強い?」という問いと同じくらいバカバカしいものです。そのバカバカしい問いを今も発しているのが、AさんBさんに代表される一部の昭和生まれのプロレスファンなんですよね。まあ、こういう人たちには何を言っても無駄でしょう。恐らく、永遠に比較し続けるでしょうね。これは、アントニオ猪木という希代の名プロレスラーが遺した負の遺産なのかも知れません。




