心の余裕
以前、このような意見を目にしました。
格闘技やってる奴って、接してみると妙に自信のあるタイプが多い。あの自信は「いざとなったら、こんな奴は素手で殺せる」という思いから生まれているのではないか。
なるほど、とは思います。確かに、そういう人もいるかもしれません。しかし、それだけではないんですよ。これに関しては、いくつか思い当たる理由があります。
まず、格闘技のジムにはゴツくて怖い外見の人が多い……ということが挙げられます。
以前、私はアマチュアの試合が行われる会場に足を運びました。そこでは『アマチュア修斗』という総合格闘技の試合が行われることになっており、あちこちのジムから選手やセコンドさらには応援の会員などが来ており、イベント会場のような状況でした。
そんな中で、私は仲のいい会員さんとチョロッと話していた時、面白いことを言われました。
「なんか、ここにいると赤井さんが細く見えますね」
どういうことかといいますと、この日は会場にあちこちのジムから人が来ていました。中には、ヘビー級の選手もいます。また、試合では七十キロほどの階級で闘っているプロ選手の場合、普段は八十キロ以上あります。中には九十キロ近くある体重を、絞り込んで七十キロにまで落とす人もいるんですよ。そんな人たちが、会場には大勢来ていました。
そんな状況では、八十五キロの私くらいの体格の人間など普通にいます。普通に生活していたら、まず接点のないようなゴツい体格の人や怖そうな人相の人たちと接しているうちに、自然とものおじしない態度が身についていく……これは、あくまで私の個人的主観ではありますが、そんな気はしますね。
これは特殊な例ですが……格闘技をやっている人が(Aさんとします)、ヤンキーのような若者たちと揉めたことがあったらしいんですね。ヤンキーという人たちは、そこらにある物を蹴ったりして威嚇します。実際、ここでも似たような動きをした者がいたとか。ところが、Aさんはプロ選手がサンドバックを蹴ったり、強烈なミット打ちをしている場面を日常的に見ています。なので、ヤンキーたちの威嚇が、まるきり効果が無かったのだそうです。さらに、ある程度は暴力的な局面にも慣れていますから、落ち着いて対応できたそうです。その落ち着きぶりを見て、ヤンキーの方も「こいつヤバくねえか」と思ったようでして、大して揉めることなく終われたそうです。
ちなみに、こういう局面で一番大切なのは、落ち着いて対応することだと思います。ブチ切れて相手を怒鳴りつけたり、卑屈にペコペコ頭を下げたりすると危険ではないかと。あくまで私見ですが。こちらの落ち着いた態度が、相手を逆上させることもあるので難しいところです。
格闘技のジムや道場に行くと、様々な種類の人と出会います。中には「この人、昔は相当ヤバかったろうな」という人や「この人、カタギの仕事してんのか?」と思わせるような人もいたりします……あくまで少数派であって、大半は普通の人ですが。
格闘技を習う過程で、そういう人たちと触れ合い、会話をしていくうちに……ある種の自信のようなものが生まれるのではないか、と私は思っています。
しかも、以前にも書いた通り格闘技のジムの会員同士は、ある程度の距離を置いた付き合い方をします。ですから、必要以上にぐいぐい来る人はいません。いたとしても少数派です。そういった広く浅い付き合いを大勢の人としていくうちに、心に余裕が生まれ、その余裕が傍から見れば自信のように映るのかもしれません。
とにかく、格闘技をやっている人間が皆「こんな奴、いざとなれば素手で殺せる」と思っているわけではないことを知っていただけると幸いです。




