拳のこと(書き手の視点)
私の描いた作品の中には、黒崎というキャラが登場するものがあります。一応、空手五段という設定でして『軍鶏』という格闘技漫画に登場した黒川健児がモデルです。
この黒崎が闘うシーンを描く時には、ひとつこだわっている点があります。それは、顔面を正拳で叩かないということです。
ご存知の方も多いでしょうが、素手で顔を殴ると拳を痛めることがあります。
拳を痛めると、はっきりいってものすごく痛いです。下手すると、痛めた瞬間に戦意を喪失します。そこまでいかなくても、翌日に腫れ上がることはよくあります。ボクシング経験者が語っていましたが、素手で喧嘩をしたら翌日は必ず拳を痛めていたそうです。
そのため、空手家は拳を鍛えます。伝統的な鍛練方法として、巻き藁を突くというものがあります。また、砂袋(サンドバッグとは違います)を叩くというやり方もあります。
ちなみに、鉄柱に打ち付けるとかビール瓶で叩くというやり方を推奨する人がいたそうですが、私はオススメしません。硬いもので拳を叩くと、ムラができます。次に、骨の奥まで鍛えられないらしいんですよ。伝説のフルコン空手家である故・黒沢浩樹が、そんなことを語っていた記憶があります。人によって向き不向きはあるでしょうが、個人的にはやめた方がいいと言っておきます。私も昔、ビール瓶で叩いて鍛えようとしましたが、ほとんど効果はなかったですね。
話を戻します。空手家や武術家は、きっちり拳を鍛えます。が、どんなに鍛えても痛めることはあるんですよ。
手の甲の部分に、中手骨という骨があります。パンチが強い選手だと、この骨が折れてしまうことがあるんですよ。拳を鍛えれば、折れにくくはなりますが……それでもプロ格闘家の中には、この中手骨を折ってしまう人が少なからずいます。ハードパンチャーの宿命ですね。
また、拳を鍛えすぎると指が上手く動かなくなるケースもあるそうです。特に硬いものに打ち付けることにより、骨や関節が変形してしまうらしいのです。指が動かなくなる、つまり手のグーパーが出来なくなるんですよ。格闘技において、これは致命的だと思います。打撃のみのルールなら、拳をちゃんと握れなくなったら何も出来ません。また、組み技も出来なくなります。
さらに、顔を素手で殴るのはリスクが伴います。額の骨は硬く、殴った拳の方が折れてしまう危険性があります。口を殴れば、折れた前歯が指に突き刺さることもあります。これまた、以前に書いたことですが……。
空手のような素手の武術の場合、手技は拳だけとは限りません。手刀や掌底、さらには貫手などといった技があります。選択肢は、他にいくらでもあるんですよ。にもかかわらず、正拳で顔面を叩くことにこだわるのはおかしい……と、私は思うんですよ。
素手を前提とした武術は、手首から先の変化により技に様々なバリエーションが出てきます。昔、とある漫画で貫手で人体を貫通させてしまうキャラがいましたが……さすがに、これはリアルでは無理でしょうね。
手のひらでビンタのように横殴りに叩くフック気味の掌底打ちは、顎にヒットさせれば相手の脳を揺らし、脳震盪を起こさせることが出来ます。本来の掌底とは、違う使い方なのかもしれないですが、これは有効かと思われます。
手刀は、いわゆるチョップです。これは顔面よりも首を狙って打った方がよいでしょう。相手の腹に突きを入れ、ウッと下を向いた瞬間に首筋に手刀を落とせば、意識を飛ばすことも可能です。ただ、リアルで思いきりやったら死んでしまう可能性もある危険な技なので、実際に試すのはやめた方がいいかと。
素手の場合、手のひらの形を変化させることにより、攻撃の手段も変化します。むしろ、そのバリエーションの多さが特徴であり利点である、といえるでしょう。顔面を攻撃する手段は正拳だけではありません。手刀や掌底を使うことにより、シーンに変化を付けることが出来ます。書く側としても、重宝するのではないでしょうか。




