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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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拘置所でマッチョになった男

 今回は昔に起きた、ちょっと珍しいケースについてお話しします。私も、この目で見た時には唖然となりました。




 私の友人のピロシキ(もちろん仮名です)は、ごく普通の男でした。性格も良く、付き合いづらい部分はありません……ただひとつ残念なのは、彼が覚醒剤を常用していたことです。

 ピロシキは、やがて逮捕されました。一回目は執行猶予で済みましたが、彼は覚醒剤をやめませんでした。ほどなくして、また逮捕されます。今度は、実刑は免れません。

 そんなピロシキから、ある日手紙が来ました。留置場は暇で暇で仕方ない。だから、筋トレしてる……という内容です。ちなみにピロシキは、身長は百七十センチですが体重は五十キロあるかないかの細い体です。覚醒剤の影響で、がりがりでした。

 私は、頑張れよ……と手紙を返しました。


 間もなく、ピロシキは東京拘置所に移送されました。それから、手紙が来たのですが……拘置所は、朝に十五分、昼に十五分の一日三十分しか運動が出来ない。これで効率よく筋肉つける方法はないのか? という内容です。どうやら、体を鍛えることに目覚めてしまったようです。さらには、刑務所に入る前にマッチョになり、いじめに遭わないようにしよう……という計算があったのかも知れません。

 そこで、私は考えました。トレーニングメニューを作成し、手紙に書きました。また食事についても言及し、とにかくたくさん食べることも書きました。拘置所は食べ物を購入できるので、タンパク質の多い肉や、チーズなどの乳製品を食べるといい、とも書きました。


 それからしばらくして、私は東京拘置所に面会に行きました……が、唖然となりました。ピロシキの体つきが、ふたまわりくらい大きくなっていたからです。季節は夏で、面会室にはTシャツで現れたピロシキでしたが、筋肉質の体であるのは見てとれました。

 

「中でお前の手紙の通りに筋トレしてたら、こうなったよ」


 ピロシキは、そう言っていました。




 その後、彼は刑務所に行きました。そして二年近く経ってから出て来ましたが……拘置所で会った時と比べて、かなり痩せていたのです。私は、「こいつ、また覚醒剤を始めたんじゃないか」と思い、さりげなく聞いて見たのです。


「お前、痩せたな」


 すると、ピロシキは顔をしかめました。


「ああ。刑務所は、本当に大変だったからな」


 ピロシキいわく……拘置所に比べると、刑務所は食事の量が少なかった。しかも、六人部屋の雑居房に八人が押し込められ、共同生活を強いられ……ストレスで、体重が十キロ近く痩せた。


「ただでさえ飯の量が少ないのにさ、ストレスの大きい生活してたら痩せるよ。ずっと筋トレしてたけど、みるみるうちに痩せていったからな」


 苦笑しつつ、そんなことを言っていました。

 その後、彼は実家の方に引っ込んでしまい、連絡が途絶えてしまいました。今、どうしているのかは不明です。立ち直って欲しい、とは思っていますが、これは難しいですからね……。


 ここからは、ピロシキが拘置所でおこなっていた筋トレのメニューを紹介します。何かの参考になるかもしれません。


◎月曜日の朝十五分


 上半身の押す力のトレーニング。腕立て伏せ二十回。二十回を終えたら、一分から二分程度のインターバルを置き、また二十回。これを時間の許す限りおこなう。もし二十回できなくなったら、膝を着いた状態で二十回。


◎月曜日の昼十五分


 上半身の引く力のトレーニング。拘置所の窓のへりに掴まり懸垂。これを、インターバルを挟みつつ時間の許す限り。全身の反動が使えないため、否応なしに背中の筋肉に効かせられる。


◎火曜日の朝十五分


 足のトレーニング。片足スクワットをおこなう。片足をどこかに引っかけた状態でのスクワット。右と左、両方で一セットとして三セット。二分から三分程度のインターバルを挟みつつおこなう。それを終えたらランジ。これまた、二分ほどのインターバルを挟み三セット。


◎火曜日の昼十五分


 上体起こし(いわゆる腹筋)と、上体反らし(いわゆる背筋)を三セットから四セットずつ。



◎水曜日


 休息日。ストレッチなど行う。


◎木曜日の朝十五分


 腕立て伏せ。筋肉を意識し効かせることを重視しつつ、ゆっくりとしたフォームで行う。二分から三分のインターバルを挟みつつ、時間の許す限り行う。


◎木曜日の昼十五分


 月曜日の朝と同じメニュー。


◎金曜日の朝十五分


 火曜日の朝と同じメニュー。


◎金曜日の昼十五分


 普通の両足スクワットを限界の回数まで。膝や腰に負担をかけないため、しゃがみ方は浅い。筋トレというより、有酸素運動として動き続けることを意識する。終わったらストレッチ。


◎土曜日の朝十五分


 月曜日の昼と同じ。


◎土曜日の昼十五分


 火曜日の昼と同じ。


◎日曜日


 休息日。




 これを拘置所で半年以上続けた結果、ピロシキは二十キロ近く体重が増えたそうです。もちろん脂肪もかなり付いていたでしょうが、筋肉の目立つ体だったのは間違いありません。自重のトレーニングでも、筋肉は付けられるということです。

 ただし、これはあくまで一例です。この通りにしなければいけない、という訳ではありません。ちゃんとしたプロのトレーナーならば、また違うメニューを考えたかもしれないですね。初めのうちは、同じ部位を二日続けてトレーニングしない、という点だけを心がけておけばよいかと思いまず。

 もうひとつ知っておいていただきたいのは、筋肉を増やしたい場合、トレーニングの内容よりも食事の方が大事ということです。今までにも何度か書いていますが、いくら凄い設備のある場所でトレーナーに付いてもらって筋トレしても、食事が貧弱であるなら筋肉は絶対に肥大化しません。摂取カロリーがエネルギー消費量を上回らない限り、いくらトレーニングしても筋肉は付きません。

 ピロシキも、拘置所ではマズイ食事を残さず食べ、さらにチーズやバナナなどを食べて七十キロまで増やしましたが……刑務所を出る時には、六十キロあるかないかまで落ちていたそうです。食事の量も少なく、またストレスの多い生活だったようですね。

 逆にいうと、ボディービルダーのような緻密なトレーニングメニューを作らなくても、食事の面さえきっちりしていれば、筋肉は付けられるということですね。あくまで初心者のうちは、ですが。ピロシキの場合、トレーニング経験がない上に食事も少なくガリガリでした。そのため、体の反応が良かったと思われます。

 しかも、留置場そして拘置所という特殊な場所のため、トレーニングに集中できた……という理由もあるでしょうね。




 




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― 新着の感想 ―
[一言]  クスリ断ちと脳内麻薬が出る筋トレは相性いいのかも……。
[一言] 自重トレーニングで20キロ増やしたのはすごいですね。 その方向性もほっとまともな方に使えていれば。
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