踊るような動き
以前、私はパチンコ屋でバイトしていました。ある日、そこに元プロボクサーがバイトとして入って来たのです。その人に、私が仕事を教えることになりました。ちなみに、年齢は私より上です。
で、その元ボクサーと仲良くなった私は、休憩時間にボクシングのパンチを教えてもらうことになりました。元ボクサーは、私に言います。
「赤井くん、ちょっとワンツー打ってみ」
言われるがまま、私はワンツーを打ってみました。すると、こう言われました。
「あのね、腕で強く殴ることを意識しすぎ。結果、腕で押し込むパンチになってる。まず初めは、腰を回転させつつ、肩から拳を発射させるイメージで打ってみればいいよ」
このアドバイス通りにやってみたら、だいぶ良くなりました。自分でも、はっきりと違いがわかるんですよね。その後、私はパチンコ屋を辞めたので元ボクサー氏がどうなったのかはわかりませんが、面白い教え方をする人だなあ、と今でも印象に残っております。
さて、小説を読んでいると「踊るような動きで戦う」という表現があります。それに対し「踊るような動きで戦うというのが、どういうことかわからない」という意見を見ました。間違いなく、格闘技の経験がない人なのでしょうが……もしかしたら、他にもこういう人がいるかもしれませんね。というわけで、今回は「踊るような動きで戦う」がわからない人のために説明します。
先ほども書いた通り、ボクシングやキックボクシングのパンチは腕の力だけで殴るのではありません。全身の筋肉を連動させて打ちます。ストレート、フック、アッパーといったパンチは、筋肉の連動なしでは強くは打てません。
これは、キックも同様です。キックは、足の力だけで蹴っているのではありません。これまた、全身の筋肉の連動が必要なんですよ。
一方、ダンサーの動きはどうでしょう。踊る姿を見ればわかる通り、全身の筋肉はしなやかに連動しています。私はダンスに詳しいわけではありませんが、テレビなどで見るダンサーの流れるような動きは、本当に凄いと思います。
たまに映画やドラマなどの格闘シーンを見ていると「この俳優、鈍臭いな」と感じることがあります。こういう場合、手足と体幹の動きがバラバラなんですよ。全身の筋肉を連動させておらず、技にキレがありません。また、体幹もブレているんですよ。「踊るような動き」とは、真逆のアクションと言えるでしょう。
この体幹のブレですが、非常に大切な部分です。ブレるのが大切、ということではありません。ブレないことが大切なんですよ。体幹を真っすぐ保った状態で体を回転させ、手足は脱力した状態からパンチやキックを放つ。それをマスターすると、やがては空手の左上段回し蹴りから右回し蹴り、もしくはキックボクシングの右フックから左バックハンドブローのような回転系の連続技も可能になります。例えるなら、でんでん太鼓をイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。
ちなみに『ベストキッド2』という映画では、最後にでんでん太鼓を観客が鳴らし、主人公がその音に合わせ殴り続けるシーンがあります。正直、初めて観た時は笑ってしまいましたが。
話がズレましたが、プロのダンサーも強い体幹を持っているんですよね。ダンスの最中に体幹がブレてしまっては、バランスを崩してしまいます。バランスが崩れると、みっともない動きになるんですよ。激しく動きながらも、体幹はブレない……これ、格闘技に通じる部分がありますね。
ダンサーの、しなやかで華麗に動く姿……それは、格闘技の演武にも通じる部分があるように思います。相手の攻撃を、無駄のない動きで避ける。あるいは、ミリ単位の見切りで躱して即攻撃……こうした動きは、確かに現実の戦いでは難しいでしょう。ただし、創作の世界ではありかと思います。
映画の激しい格闘シーンなどは、お互いの阿吽の呼吸なくしてありえません。ひょっとしたら、社交ダンスの世界に通じる部分があるかもしれないですね。




