イベントと、非日常
今年(二〇一九年)のハロウィンは、去年と比べるとおとなしかったようですね。ところでハロウィンといえば仮装ですが、最近ネットにて『ガチ甲冑合戦』なるイベントの存在を知りました。甲冑を着て闘うイベントのようです。一般人の参加を募集していたようなので、とりあえず一度参戦してみようと思いました。今年は試合にも出られなかったし、ネタ作りのためにいいだろうと。甲冑を着て武器を持った相手に対する戦法も考えていたので、それが実際に通じるかどうか知りたい気持ちもありました。
ところがです。ルールを見たところ、こんな一文がありました。
「相手に組み付く、掴むなどの直接攻撃による危険行為は禁止です」
いや、それガチ合戦じゃねえじゃん……と私は思いました。では、合戦とは何なのでしょう。要は、サバイバルゲームのようなものなのでしょうか。
いずれにせよ、直接攻撃禁止とあっては出ても仕方ありません。という訳で、私は参戦しないことにしました。試合の代わりになるかと思ったのですが……。
さて、格闘技には試合があります。試合は、普段の練習とはまるで違うんですよね。
以前にも書きましたが、試合に出れば緊張します(その度合いに差はありますが)。普段の練習では問題なく出来ていた動きが、試合では出来ない……経験の少ない人には、よくあることです。かくいう私も、試合前に考えていた動きが、いざ本番になると頭から飛んでいたことがありました。
もっとも、試合の経験を積んでいくにつれ、緊張と上手く付き合う方法を会得していきます。そうなると、練習通りの動きを試合でも出来るようになります……が、これは難しいんですよね。どこのジムや道場にも必ずひとりはいるのが「練習ではむちゃくちゃ強いが、試合に出るとそうでもない」というタイプの人です。やっぱり、試合ともなると違うんですよね。
また、試合になると普段よりスタミナ切れが早いです。これまた、緊張のなせる業なのですが……二分二ラウンドというような試合でも、一ラウンドが終わった時点でバテバテというケースはよくあります。
スタミナ切れが早いということと、普段通り動けないということが相まって……アマチュアのキックボクシングの試合で有りがちなのが「試合開始早々にいきなりラッシュをかけるが、三十秒くらいでガス欠」という現象です。緊張のあまり舞い上がり、ものすごく攻撃的になり攻めていくが、あっという間にスタミナ切れ……もっとも相手もアマチュアですから、ラッシュで一気に潰せることもありますが、まあ長続きはしないですね。
格闘技をやり始めた人間にとって、練習とは普段の生活の延長です。つまりは、日常なわけですね。ところが、試合というのは普段の生活とは違います。まず、通いなれたジムや道場ではなく、よその場所で行います。さらに、大勢の人間が見ています。さらに、相手は見たこともない人です。つまり、完全な非日常の空間ですね。非日常の空間では、人は思った通りの行動が出来ません。
ましてや格闘技の場合、その非日常の空間で殴り合ったり取っ組み合ったりするわけです。普段の練習とは、まるで違う状況なわけですよ。ここで、普段の練習通りに動くのは困難ですね。しかも、スタミナ切れも早くなります。普段なら、まだ動けるはずなのに動けなくなる……いろんな意味でキツいですね。
プロの選手になると、さすがにアマチュアのようなガチガチに緊張するということはありません。が、聞いてみると「やっぱり、試合は緊張しますよ。これは何戦やろうが同じです」と言っていました。人によって差はあれ、プロでも緊張はします。ただ、プロはその緊張をコントロールする術を知っています。ですから、試合で実力を発揮できるのですね。
ちなみに、世にある護身術や武術の中には、試合を否定しているものも少なくありません。が、先ほども書いた通り道場の中の練習というのは、生活の延長であり、つまりは日常です。一方、路上で暴漢に襲われるというのは非日常なわけですね。その非日常の空間にいきなり放り出された時、日常の空間でしか練習していない人たちが、果たして普段通りの動きが出来るのか……はっきり言って疑わしいですね。
最後に、この日常と非日常の差を知るというのは、格闘技に限らず様々な分野で大切です。試験など受ける時、本番は練習とはまるで違うということを頭の片隅に置いておくだけでも、だいぶ違ってくるのではないかと思います。




