「効かない」技の使い方
格闘技の試合、特に打撃系の格闘技において、もっとも華々しい勝ち方といえばノックアウトでしょう。狙いすました一発のハイキック。あるいは、コーナーに追い詰めてからの凄まじいパンチのラッシュ。そうしたKOシーンは、見ていて本当に盛り上がりますよね。
もっとも、そこに至るまでには様々な駆け引きがあります。今回は、その駆け引きのひとつである「効かない」技について語ってみようかと。
ボクシングにおいて、基本とも言えるパンチが左のジャブです。速く鋭いジャブは、攻撃の要となります。たとえ一発で倒すことが出来なくても、牽制に使ったり防御を崩したりします。
ただし、ジャブは速いだけとは限りません。遅く軽いジャブ……これまた、立派な武器になります。
ボクシングに限らず、打撃系において怖いのはカウンター攻撃です。相手を攻撃するため、遠い間合いから素早いフットワークで接近する……この時にカウンターパンチをもらうと、それだけで勝敗が決まることもあります。
このカウンターですが、何も全力で打つ必要はありません。軽くチョンと出したパンチ……これ、普段なら効きません。が、間合いを詰めるために接近した瞬間にもらうと、それだけで効くんですよ。実際、私も何度かもらったことがありますが、軽くチョンと出したパンチでグラッとなります。
そのため、前に出した手でチョンチョンと小刻みにパンチを出す……これ、結構やりづらいんですよ。
しかも、このチョンチョンに鋭くキレのあるジャブを混ぜると、飛び込むタイミングが非常に掴みづらくなります。一見すると、遠い間合いで効かないパンチをチョンチョン出してるように思えるかもしれません。ただ、向き合っている相手からすれば、やりにくいのは確かですね。その上、このチョンチョンと出すパンチから、いきなり大振りのロングフックが飛んで来たりすると……仮に当たらなくても、嫌な感じを与えます。このあたりは、心理戦の部分もありますね。
蹴りにも、似たものがあります。相手の前に出した足の内股を狙い、ペチペチと蹴っていく内股蹴り……これは、はっきり言って大した威力はありません。リーチはありますが、当たっても大したダメージはないですね。同じローキックでも、体重を乗せて思い切り蹴る右ローキック(右利きの場合)に比べれば、威力は格段に違います。
ただし、この内股蹴りにも意味はあるんですよ。まずは、当てやすいことです。次に、相手のペースを乱すことが出来ます。実際、ペチペチという蹴りをもらい続けると、だんだんと苛立って来ます。気の短い人だと、強引な攻撃を仕掛けて来たりする場合もあります。無理やり突進し、大振りのパンチをブンブン振り回す……これ、傍から見ればピンチでしょう。しかし、カウンターをもらいやすい状態です。さらに、大振りのパンチを振るい前進して来る……これは、スタミナの消耗が激しいです。俗に言う「攻め疲れ」の状態になりやすいんですよ。がっちりとガードを固めてラッシュを凌ぎきれば、相手はガス欠を起こす可能性が高いですね。そうなれば、後はこっちのものです。
また、内股蹴りを何度も放ち、右のハイキックを放つというパターンもあります。上手い人だと、目線を相手の内股に合わせたまま顔面に正確にヒットするハイキックを打てるんですよ。これは、ちょっと気を抜いているとスパーンと入りますね。仮に当たらなくても、こういう小細工があると非常にやりにくいですね。
いろいろ書いて来ましたが、相手に「やりにくさ」を感じさせること、これは格闘技において非常に重要です。たまにボクシングの試合で、負けた選手が「自分のボクシングをさせてもらえなかった」と言っていることがありますが、相手のペースを乱して自分のペースに持ち込む……格闘技の試合では、重要な要素です。ノックアウトは、自分のペースに持ち込んだ結果として起きるのがほとんどです。自分のペースを掴むには、一見すると効かないような技が大切なんですよね。




