プレッシャー
今回は、格闘技におけるプレッシャーというものについて語ります。特に打撃系の場合、このプレッシャーというものの存在は軽視できないのですが、傍から見ているとなんだかわからない部分もあるでしょう。
そこで、今回はかつて書いた作品の一場面を例文として掲載してみました。設定としては、ボクシングルールでのスパーリングです。なお、寸止めのマススパーリングではなく、ライトコンタクトのスパーリングです。
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フェイントを交えながら、明智は動き続ける。
しかし、ダニーは平然としている。今度は、プレッシャーをかけつつ前進してきた。自らの力に絶大の自信を持っているがゆえに、明智のフェイントなどには惑わされないのだ。
ダニーのプレッシャーは凄まじい。彼のパンチの届く範囲内が、オーラに包まれているかのようだ。明智はじりじりと後退する。
だが次の瞬間、明智は構えをスイッチした。左手を前に出したオーソドックスの構えから、右手を前に出したサウスポーの構えへとチェンジする。右のジャブを放ちながら素早く踏み込み、左のストレートを放つ──
しかし、ダニーはそのパンチを見切り、最小限の動きで躱す。直後、右のボディーブローが明智の腹に炸裂する。
明智の腹に、息が詰まるような衝撃が走る。それは意思の力で耐えられるようなものではなかった。たまらず、明智はその場で悶絶する。
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この例文を、もう少し詳しく説明しましょう。ダニーは、一撃必殺のパンチ力の持ち主です。そのダニーが、じりじりと近づいて来る……明智としては、下がらざるを得ません。ダニーのパンチが届く範囲内にいれば、必然的に打ち合いになります。足を止めてまともに打ち合っては、こちらが倒される可能性が高いです。
しかし、下がってばかりではこちらが不利になります。やがてコーナーに追い詰められ、強烈なパンチの連打を浴びることとなるでしょう。そのため明智は、危険を承知の上であえて攻撃に打って出たのです。
ただし先ほども書いた通り、まともに打ち合っては危険です。そのため、サウスポースタイルにスイッチしての攻撃でダニーのペースを乱そうとしました。スイッチしてからのワンツーに、活路を見出だそうとしたわけです。
しかし、その攻撃すら見切られ、カウンターのボディブローをもらってしまいましたが……。
強いパンチの持ち主が、がっちりと構えて徐々に接近して来る……これは、向き合った相手からすれば怖いものです。何の小細工も駆け引きもなく、ただ近づいて来るだけでプレッシャーを受けます。相手のパンチの制空圏に入れば、一撃必殺のパンチが放たれる……この感覚は、理屈ではありません。特に経験がある人ほど、このプレッシャーに対し敏感に反応してしまいます。
しまいには、そのプレッシャーに耐え切れなくなり、不用意な打撃を放つ。そこで、待ち構えていたかのようなカウンターをもらう……こういう局面、結構有りがちなんですよ。普通、カウンターは前進して来る相手の攻撃に対し放つものですが、この場合は前進している方がカウンターを放つことになるわけですね。
そんなプレッシャーをかけつつ前進して来る相手に対し、どのように対応するか……それは、人によって様々でしょうね。速い動きで、相手の前進のタイミングを外しつつ軽く速いパンチで相手のペースを崩す。蹴りありのルールなら、前蹴りやローキックをコツコツと当てていく……などなど、対処方法はいろいろあります。
それでも、強いパンチを持つ選手が、プレッシャーをかけつつ前進して来る……という状況のやりにくさは理解していただけたのではないでしょうか。一見すると、何の策もなく無造作に前進しているように見えるかもしれないですが、闘っている選手たちは様々な駆け引きをしています。そのことは、知っておいていただきたいですね。




