新時代の格闘技漫画に望むこと
最近、とあるアニメを観ています。主人公が、野球部のない学校に女子硬式野球部を立ち上げる……という内容の作品です。登場人物は全員が女の子でして、いわゆる「萌えアニメ」ですね。
この作品には、全く運動経験がなく運動神経もゼロなキャラが登場します。このキャラ、初めはキャッチボールも満足に出来ないのですが……皆と練習していくうちに、徐々に上手くなっていきます。レギュラーメンバーにはなれなかったのですが、コーチャーとして試合にも出場するようになりました。
球技の場合、こうしたキャラにも見せ場を作れる要素がありますよね。特に野球の場合、レギュラーメンバーでなくともコーチャーとして参加できる……これは、素晴らしい要素だと思いました。萌えアニメが嫌いなはずの私ですが、ついつい観てしまいました。
さて、格闘技の漫画やアニメの場合「目指せ世界チャンピオン!」「地上最強の生物を倒す!」みたいな展開が非常に多いですよね。ひょっとしたら、違うものもあるのかもしれませんが……有名な作品といえば「主人公が最強!」なものがほとんどではないでしょうか。
最近では、なろうの広告にやたらと「中国拳法やってるコンビニ店員の主人公が無双しまくる」という内容の漫画が登場するようになりました。中国拳法を馬鹿にする気はないですが「中国拳法最強って、昭和じゃないんだからよ」という気にはなりましたね。正直、センスや知識が、ブルース・リーやジャッキー・チェンが活躍していた頃の昭和のままな気がするのですが……。
某漫画はともかくとして、最強を目指したり、無双するだけが格闘技じゃないんですよ。ここからは、ひとつの実例を紹介します。
だいぶ前の話ですが、私の通うジムに、ムタさん(仮名です)という人が入会してきました。ムタさんは痩せた体つきであり、運動経験は皆無……とのことでした。力も弱く、年齢も三十歳を超えたサラリーマンです。正直、すぐに退会するのではないかと思っていました。
ところが、私の予想は外れます。ムタさんは、それからジムに通い続けました。コツコツと地道な練習を重ね、様々な技を覚えていきます。スパーリングにも積極的に参加し、他の会員にボロボロにされながらも、徐々に上達していきました。
そんなムタさんが、ある日グラップリング(組み技のみの競技)の試合に出場することになりました。言うまでもなく、格闘技の試合など初めての経験です。しかも、この試合はアマチュアとはいえトーナメント形式です。試合が近づくにつれ、かなり緊張した……といっておりました。
そして当日、ムタさんの相手は十代後半から二十代前半の若者でした。自分よりも若い相手に、ムタさんは果敢に挑んでいきました。一進一退の攻防の末、下からの三角絞めで一本勝ちしたのです。ムタさんは次の試合にも出場し、自分よりも若い人と全力で闘いましたが、惜しくも判定で敗れました。
この試合ですが、客観的に見てレベルが高いと言えるようなものではないでしょう。しかし、私は観ていて本気で感動しました。何のスポーツ経験もない三十歳を超えたサラリーマンであるムタさんが、コツコツと練習していき、やがて試合に出場し勝利した……その姿を、私はすぐ近くで見ていましたからね。我が事のように嬉しかったです。
格闘技には、こういう一面もあります。最強を目指したり、無双するだけじゃないんですよ。ところが、世間では未だに昭和の価値観を引きずっている部分があるんですよね。個人的に、残念でなりません。そういった価値観から離れ、競技として楽しめる部分をもっとクローズアップしていただきたいものです。令和の時代となった今こそ、そういった創作物が増えてくれることに期待したいですね。
蛇足かも知れませんが、念のために書きます。下から三角絞めで一本取る……これは簡単なことではありません。ムタさんは、確かに運動神経に優れた天才タイプではなかったですが、地道な練習を重ね、ギありのブラジリアン柔術やノーギのグラップリングの練習もきちんと積み重ねていたから、一本取ることが出来たのです。ネットや本などで得た知識だけでできることではありませんので。




