体に残るダメージ
格闘技を長くやっていれば、ケガは避けられません。プロの格闘家でケガをしたことがない、という人はまずいないでしょう。皆、ケガと闘いながらトレーニングをしています。
特に総合格闘技の場合、あちこちの関節にケガをしますね。一番多いのは、やはり首と肩と腰でしょうか。この三ヶ所のケガは、もはや職業病と言っていいでしょうね。レスリング的な攻防、さらに関節技や絞め技のかけ合いにより痛めてしまう……これは仕方ないですね。
なので、格闘家は体のケアには気を使いますね。トレーニング前には入念にウォーミングアップし、トレーニング後はストレッチをします。
今のトレーニングは、量よりも質を重視しています。ハードで中身の濃いトレーニングを短時間に集中して行う……しかし、後の時間はただ遊んでいるわけではありません。体のケアにも、きっちりと時間を使います。人によっては、トレーニングを二時間ほどで切り上げ、その後のストレッチに一時間以上かけるケースもあるとか。
ちなみに、練習が終わったら夜の町で遊ぶ……という選手は、今はあまりいないでしょうね。練習が終わったら、サプリメントを摂取し帰って肉体を休める。これが、ほとんどの格闘家の生活パターンかと思います。
また、肩や腰を守るためのトレーニングも欠かしません。肩や腰を覆う筋肉を強化し、ケガを防ぐ。これまた大事ですね。
余談ですが、格闘家の中にはベンチプレスよりオーバーヘッドプレス(バーベルやダンベルを頭上に挙げる種目。いわゆる重量挙げの動作)を重視する人もいます。ベンチプレスは胸と肩と腕(三頭筋)を鍛える種目ですが、オーバーヘッドプレスは肩と腕を鍛えます。軽量級の選手の中には、胸の筋肉を付けたくないという人もいますからね。そういう人は、胸筋を肥大化させず肩周りをダイレクトに鍛えられるオーバーヘッドプレスをやるわけですね。
話を戻します。競技によって、ケガの種類も様々です。たとえばボクシングとなると、また話が違ってくるんですよ。
ボクシングのパンチは、外傷を与えるためのものではありません。相手をノックアウトするためのものです。ノックアウトとは、大ざっぱに言うと脳震盪によりもたらされます。
ボクサーというのは、顔面や頭部への攻撃に関してはトップクラスの技術を持っています。ボクシングは、そんな殴り合いのプロたちの競い合う場なんですよ。当然ながら、無傷で済むはずがありません。試合となれば、顔面にパンチをもらうことは覚悟しなくてはなりません。
頭部にパンチをもらえば、脳にダメージを受ける可能性が高くなります。キックボクシングやムエタイ、さらには総合格闘技も顔面を殴り合う局面はあります。しかし、ボクシングと違い他の攻撃手段があります。そのため、ダメージも複数の部位に拡散されやすいですね。
一方、ボクシングは脳へのダメージは蓄積しやすいです。脳へのダメージが溜まると、最悪の場合は死亡ということになります。また、後に様々な障害が出てくることもあります。いわゆるパンチドランカー症状ですね。
そのため、ボクサーにとって大切なのはパンチ力よりも、頭にパンチをもらわない防御技術ですね。仮に凄まじい打ち合いの末に相手をKOしても、自分がパンチドランカーになってしまったとしたら……手放しで喜べないですよね。
ただ、ここで厄介なのが……ボクシングに限らず、打撃技のある格闘技は、壮絶な打ち合いが一番盛り上がるんですよ。打たれることを恐れず前に出て行き相手とド突き合い、勝つにしろ負けるにしろKOが多い選手は、戦績にかかわらず試合を組んでもらえることが多いですね。
一方、地味な判定が多いと試合を組んでもらいにくくなるそうです。そのため、新人のうちは危険を犯してKOを狙わざるを得ない……プロの格闘技というのは、こうした残酷な一面もあります。
最後になりますが、以前にも書いたように、格闘家にとって「ケガや病気をしない」という要素は本当に大切です。「パンチ力〇百キロ」「ベンチプレスで〇百キロを挙げる」という要素よりも重要でしょうね。観客には伝わりにくい部分ではありますが、これもまた立派な才能です。




