心技体
初めて格闘技の練習に参加した人のほとんどが、翌日にはひどい筋肉痛に襲われるでしょう。まあ、こればかりは仕方ありませんし、防ぐ手段もありません。一種の通過儀礼と考えるべきでしょうね。逆に、何の運動経験もなく格闘技をやってみたけど、全く筋肉痛にならなかった……という人は、手抜きの練習をしていたか凄い才能の持ち主でしょう。あるいは、トレーナーがものすごくソフトなメニューを指導したのかもしれません。
その後、練習を重ねていくに従い、筋肉痛が消えていきます。同時に、体つきも変わってきます。ほとんどの場合、三角筋(肩周りの筋肉)から上腕三頭筋(二の腕の裏側の筋肉)のラインに筋肉が浮き出てくるパターンが多いような気がします。もっとも、当然ながら個人差はあります。人によって、発達しやすい部位は違いますので。
では、そのまま練習を続けていけば筋肉はどんどん発達し、やがてはマッチョな体になるのかと言うと……それはちょっと違うんですよ。格闘技の種目にもよりますが、ほとんどの場合、格闘技の練習とは別メニューが必要となってきます。
運動経験のない人の場合、格闘技の練習をするだけで筋肉に負荷がかかります。簡単なシャドーボクシングのような練習でも、全身の筋肉が鍛えられるんですよ。ましてやミット打ちやサンドバッグ打ちのようなハードな練習の場合、それだけで筋肉にかなりの負荷がかかりますね。
ところが、練習を続けていくうちに体が慣れてきます。格闘技の練習だけでは、筋力を高めることが出来なくなるんですよ。
そうなると、別メニューの練習が必要となってきます。筋力を高めるためにウエイトトレーニングをしたり、心肺機能を高めるために走ったり……今はもう、格闘技の練習だけしていればいいという時代ではないんですよね。
筋力を高めるためのトレーニングにしても、競技によって違ってきます。バーベルやダンベルを用いたウエイトトレーニングをガンガンやる競技がある一方で、腕立て伏せや懸垂といった自重トレーニングを重視する競技もあります。まあ、これは選手個人の方針やトレーニング哲学もありますので、一概には言えませんが……。
心肺機能の強化にしても、昔は長時間の走り込みが主でした。しかし今は、サーキット形式のトレーニングが中心ですね。知らない人のために説明しますと、腕立て伏せ、腹筋、背筋、その場ジャンプ……といった運動を、決められた時間内にこなすというトレーニングです。たとえば、腕立て伏せを十秒間に出来るだけこなし、次の十秒は腹筋、次の十秒はスクワット……という具合に、使う部分の異なる運動を行うものです。これは、やり方によっては筋力も高められるのでオススメですね。
このように、今は格闘技の練習だけしていればいい……というわけではないんですよ。心技体という言葉がありますが、格闘技の練習で学べるのは、基本的には「技」の部分です。「体」の部分は、また個別に鍛えなくてはならないんですよ。
ついでに言いますと、この「体」の部分のトレーニングは、なかなか厄介なんですよね。パワー、スピード、スタミナ……そういった要素を、バランスよく強くしていかなくてはなりません。
しかも、ただ鍛えればいいというわけでもないんですよ。格闘家の理想形は、ハンマー投げのような瞬間的なパワーと、マラソンのように動き続けられるスタミナを兼ね備えた肉体です。しかし、マラソン選手とハンマー投げ選手の体つきは、まるで異なります。その二つを両立させるのは非常に難しいですね。本来なら、相反するはずの要素を同時に取り入れなくてはならないわけです。
そのため、トレーニングメニューは緻密なものになります。どの要素をどれだけ鍛えるか、計算してメニューを作らないといけないんですよ。有名なプロ選手なら、一流トレーナーがメニューを作ってくれます。しかし、無名の選手は自分で考えなくてはならないわけで……格闘技は、バカでは続けられませんし、また上に行くことも出来ません。




