あしたのジョーについての誤解
いきなりで申し訳ないですが、とあるテレビ番組にて、このような発言がありました。
「日本人って、スパルタ的な師弟関係が好きな国民じゃないですか。『巨人の星』や『あしたのジョー』は大ヒットしてましたし。自主性を持って何かするよりも、誰かに何かを強く教えてもらいたいっていう欲求があると思います。上から言われる方が楽なんですよね」
これは、橋口いくよさんという作家の発言です。橋口さんのファンの人には申し訳ないですが、この言葉は間違いです。少なくともあしたのジョーには、スパルタ的な師弟関係はありません。もしも、このエッセイを読んでいる人の中に誤解されている人がいるなら、せめてその人たちだけにでも真実を伝えておきたいと思いまして。
以前にも書いていますが、もう一度説明しますと『あしたのジョー』とは、昭和の時代に大ヒットしたボクシング漫画です。後にアニメ化され、二〇一一年には山下智久さん主演で映画にもなりました。
主人公である矢吹ジョーは孤児であり、当たり屋や窃盗さらには詐欺までやる筋金入りの不良少年でした。そんなジョーが丹下段平という片目の元ボクサーと出会い、ボクサーとしての才能を見出だされるというストーリーです。
このジョーと丹下の関係ですが、確実に絶対的な師弟関係ではないですね。たとえば、ライバルである力石徹との試合を控えたジョーに、丹下はこうアドバイスします。
「今回は正攻法で行くぞ。ガードを固めるんだ」
しかし、ジョーは言い返しました。
「おっさんよう、あいつのアッパーにガードなんかしても無駄だ。スウェーバックで避けるしかねえ。そのためには、ガードを固めるよりノーガード戦法でいくよ」
この後の力石との試合で、ジョーはノーガード戦法で闘うのです。
また金竜飛との試合では、勝ち目がないと判断した丹下は試合を棄権させようとします。その時、ジョーは言いました。
「タオルなんか投げやがったら、ぶっ殺してやる!」
その後、ジョーは試合を続行し逆転KO勝ちするのです。
また、一般的に誤解されている人が多いようですが、丹下はジョーに対し「立て! 立つんだジョー!」と言ったことは、ほとんどありません。私の記憶では、少年院での力石との試合の時くらいでしょうか。むしろ「バカ野郎! カウント8まで休んでろ! 立つんじゃねえ!」というセリフの方が多いですね。場合によっては「バカ野郎! 殺されちまうぞ! そのまま寝てろ!」と言うことも……そうやって怒鳴られているにもかかわらず、立ち上がってしまうジョー。そこからの逆転劇が、あしたのジョーの見所のひとつでもあります。
はっきり言ってしまうと、ジョーは自主性の塊のような男なんですよ。練習方法についても納得いかなければ、師であるはずの丹下の言うことにも逆らいます。さらに、キツいトレーニングを自ら進んでやりたがる部分もあります。むしろ丹下の方が、ジョーに引っ張り回されているようなイメージですね。
結局、あしたのジョーにはスパルタ的な師弟関係など、ほとんど見られないんですよ。この作品のどこを見て「スパルタ的な師弟関係」と橋口さんは判断したのでしょうか。まあ、確実に読んでいないでしょうね……言い方は厳しくなりますが、テレビというメディアで、読みもしない作品の具体名をあげた挙げ句にイメージだけで語るというのは、テレビのコメンテーターとしてもプロの作家としても恥ずかしいことではないかと思うのですが。
最後になりますが、強くなる選手というのはジョーのように「自ら進んで、キツいトレーニングに取り組むことが出来る」人です。スパルタ的な師弟関係がなければキツいトレーニングが出来ないような人は、最初から上には行けません。私は素人に毛の生えた程度のレベルの格闘技好きではありますが、これだけは自信を持って言えますね。もしかしたら、それが天才と呼ばれる人たちの資質なのかもしれません。
さらに付け加えますと、これはどんな分野でも同じではないでしょうか。




