超一流の人たち
少し前の話ですが、私の通うジムにプロ格闘家のストラッサー起一さんが練習しに来ました。ここでストラッサー起一さんについて説明しますと……我々のような一般の格闘技好きから見れば、雲の上の人なんですよ。総合格闘技の世界において最高峰ともいえるアメリカのUFCで活躍し、最近では格闘技イベント『RIZIN』に参戦しております。身長は百七十八センチであり、UFCではウェルター級で試合をしていました。このウェルター級とは、体重が約七十七キロ以下のクラスです。
約七十七キロ以下のクラス、などと簡単に書いてしまっていますが……実のところ、これは凄いことなんですよ。七十七キロ以下のクラスということは、普段の体重は九十キロ近くある選手がほとんどです。中には、百キロ近くある体重を絞りこんで七十七キロまで落として計量をパスする選手もいるとか。
そのクラスになると、日本人と欧米人の差は歴然としているんですよ。日本人では八十キロを超すと大柄だと言われますが、欧米人の間では普通……とまではいかなくても、そのサイズの人間はゴロゴロしています。選手の層の厚さが、まるで違うんですよ。
そんな階級で、総合格闘技の最高峰であるUFCで闘ってきたストラッサーさん……そんな人が、私のような一般人の練習に参加してくれる、これは町内の草野球の試合に松坂大輔さんあたりが参加してくれたようなものでしょうか(ちょっと違うかも知れませんが)。
そんなわけで、私はストラッサーさんと練習したのですが、いろいろ発見がありましたね。
格闘技漫画の中には、触れ合うことで相手の強さを一瞬にして理解し「恐ろしい奴……」などと呟きながら、ひそかに青ざめたりするシーンがあります。正直に言うなら、私はこの描写をフィクションだと思っていたのです。触れただけで相手の強さが分かるなどと、そんなオカルトじみた話が実際にあるはずがない……と、高をくくっていたのです。
ところが、ストラッサーさんと寝技のスパーリングをした時のことでした。私は、この格闘技漫画に特有の描写が全くのフィクションでないことを、自分の体で知ったのです。
ストラッサーさんに触れた瞬間の私の率直な気持ちは「何この人!?」でした。手のひらを通じて伝わってくる情報が、他の人たちとは根本的に違うんですよ。筋肉の付き方はもちろんですが、組んだ時の感触が、他の人たちとまるで違いますね。この感触を、文章で表現するのは非常に難しいですが……恐らくは、生き物としての本能的な部分で感じるのではないかと。
特に私がスパーリングをした時は、『RIZIN』での試合が間近に迫っており、肉体的にも精神的にも、かなり仕上がっている状態でした。それが、こちらにもはっきりと伝わって来ていましたね。こうした体験というのは、本当に貴重だと思いました。実際に体験してみなければ、恐らく一生分からなかったことでしょうね。
超一流の人と触れ合う、それは違う分野であったとしても、多くのことを学べます。ましてや格闘技の場合、実際に体験してみないと分からないことが本当に多いですね。もっとも、ラノベの読者層はリアルな格闘技描写など求めていない、というのが現状ですが……それでも、リアルとフィクションの違いくらいは知っておいて損はないでしょう。
蛇足ですが、とある日本人キックボクサーはタイにてムエタイのチャンピオンと試合した時、1ラウンドの時点で「これ無理、絶対勝てない」と感じたとか。実際に触れ合うと、分かりたくないことまで分かってしまうようですね。
ただ、この話には続きがあります。このキックボクサーは、なんと件の試合でKO勝ちしたとか。ラッキーパンチによる勝利であり、実力は向こうの方が圧倒的に上だった……と述懐していましたが、こういうことが起きるのも格闘技なんですよね。




