軍鶏〜途中までは良かったんですが……
初めに言っておきますが、私はこの作品を途中までしか読んでおりません。その範囲内で語っていますので……そのあたりをご了承ください。
今回は『軍鶏』という格闘技マンガを紹介します。普通、格闘技マンガというと、ひ弱ないじめられっ子が格闘技と出会い強くなる……あるいは、主人公が世界最強を目指すといった内容のものが多いですよね。
この作品もまた、いじめられっ子が格闘技と出会い……というパターンは踏襲しているのですが、しかし他の作品とはかなり違う部分があります。
そもそもの始まりが、主人公である成島亮が両親をナイフで滅多刺しにした挙げ句に少年院へと送られるシーンからなのです。
もともと裕福な家庭に生まれ、東大合格間違いなしと言われるくらい優秀な少年だった亮。しかし彼は、今や親殺しです。当然ながら、少年院での生活は甘いものではありません。それどころか、地獄の日々が待っていたのです。
少年院に入所した亮は、親を殺した元エリートということで他の受刑者や看守たちから目を付けられ、凄まじいイジメを受けます。身も心もボロボロになった亮……だが、彼の前に一人の中年男が現れました。 それは、番竜会空手にて『鬼の黒川』と呼ばれ恐れられていた空手家・黒川健児です。受刑者への空手指導員として少年院へとやって来た黒川は、亮に空手を教えます。
最初、ひ弱だった亮は「こんなこと、僕には出来ません」と言うのですが、黒川はこう言い放ちます。
「出来なきゃ、殺されるだけだ。体を殺され、心を殺される」
その言葉は、亮の心に突き刺さりました。彼はその言葉を胸に秘め、恐ろしい執念で体を鍛え始めるのです。
もともと頭が良くて呑み込みが早く、しかも真面目な少年だった亮。そんな彼が真剣に空手に打ち込むことにより、あっという間に恐るべき強さを身に付けていきます。結果、亮は少年院のトップに立ちます。
やがて、亮は出所しますが……そこで彼が見たものは、きらめく舞台で持て囃されている格闘家たちの姿でした。闇の中で格闘技を学んだ亮とは、対極の位置にいる者たち……亮は怒り、闘いを挑んでいきます。
そして亮は、格闘技界でも最強と言われている男・菅原と試合をすることになるのですが……。
この作品で印象的なのは、次のセリフです。
「強くならなければ、殺されてしまう」
この言葉は、亮の口から吐かれたものです。弱ければ心を殺され、体を殺される……そんな環境にいた亮は、強くならなければ生きていけなかったのです。その想いは、呪いにも近い何かとなって亮の人生を左右していくのです。
さらに、こんなやり取りもあります。少年院からの出所間際、亮は師匠である黒川とガチの組手を行います。いくら強くなったとはいえ、相手は鬼と異名を取る空手家です。亮は叩きのめされ、床に這いつくばりました。その時、黒川は尋ねます。
「亮……空手を忘れ、まともに暮らしてはどうだ?」
その問いに、亮はこう答えます。
「まともに暮らす? だから必要なんじゃないですか」
この言葉が、本当に理解できる人は少ないでしょうね。
これはあくまで私個人の意見ですが、格闘技なんかやらなくても暮らせる人の方が普通ですし、また幸せなんですよね。
ところが、「まともに」暮らすために何かが必要なタイプの人種がいます。それがなかったら、道を踏み外してしまうような……その何かが、私の場合は格闘技であった気がします。単なる思い込みかもしれませんが。
この他にも、印象的なセリフややり取りがあります。この作品、私は本当に好きでした。菅原との試合のあたりまでは。
ところが、菅原との試合の後は……正直、わけわからん方向へと進んでいきます。武器を用いての菅原との決闘。さらに、中国に渡って拳法家と闘ったり……誤解を恐れず敢えて書きますが、闘う理由がどんどんスケールダウンしていっている気がしました。
しかも亮は菅原との試合に勝つため、地獄のような練習を繰り返した挙げ句にステロイドまで射ちました。そこまでして得た強さが、片腕の中国人拳法家にまるで通じない……という展開は、私には負の御都合主義にしか見えませんでした。念のため書きますが、なろう作品とは違う意味での御都合主義、という意味です。そこからの「老いた達人から発勁を習う」という展開も、これまでの格闘技マンガで使い古されたパターンに見えました。
さらにその後、亮はなぜか弱体化しているのです。「強くならなければ殺される」という想いに取り憑かれていたはずの亮が、なぜ弱体化するのか……そのあたりで付いて行けなくなり、私はこの作品を読むのを中断しました。それから今に至るまで読んでいません。既に完結しているそうですが、今のところ読みたいという気も起きていません。
とはいえ、これはあくまで私個人の独断と偏見に基づいた感想です。他の人が読めば、また違う感想を持つかも知れません。少なくとも、私は菅原との試合のあたりまでは好きでしたので。
蛇足ですが、私はこの作品に登場する黒川健児がお気に入りでして、似たキャラを自作品にも登場させております。




