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格闘技、始めませんか?  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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緊張の日々

 お笑いコンビ『ロッチ』のコントネタの中に、ボクサーを主人公(?)にしたものがあります。試合を控えたボクサーとオカンのやり取りを描いたものですが、なかなか笑えます……世間での評判は、今ひとつのようでしたが、私は好きですね。

 実はこのコント、格闘技をやっていて試合に出た経験のある人なら、そのほとんどが複雑な笑みを浮かべることでしょう。笑いながらも、画面の中のコカドさんに自身の姿を見てしまうかもしれませんね。

 なぜかと言えば、試合前は本当に怖いからです。誰もが、大なり小なり似た気持ちを味わうからですね。




 以前から何度も書いていますが、格闘技の試合前の緊張感には独特のものがあります。街を歩いていて肩がぶつかり「てめえ、どこ見てんだ!」で始まる喧嘩とは、根本的に違いますね。

 街の喧嘩の場合、基本的に勢いだけで始まりますし、怒りに自分を支配されています。つまりは、キレた状態になっているわけです。さらには大きな声で「殺すぞゴラァ!」などと言い合うわけですが、この大きな声により、興奮状態へと入っていきます。つまりは、恐怖など感じる暇もなく闘いへと突入するわけですね。

 ところが、試合ともなると話は別です。リングに上がり、大勢の人の見ている前で試合をする……ここには、独特の緊張感がありますね。

 会社で、同僚や上役たちの見ている前でプレゼンをした経験のある人なら分かるでしょうが、人に見られるという状況は大なり小なり緊張するものです。もちろん人にもよるでしょうが、慣れないうちは緊張するでしょう。

 しかも、リングの上で行うのは殴り合いだったり取っ組み合いだったりします。これは、会社のプレゼンとはまるきり違うプレッシャーを感じますね。

 実際、「あの試合前の緊張に耐えられない」と言って、試合に出なくなった人もいます。私も、その気持ちは分かりますね。あの緊張感は、独特のものがあります。




 プロの世界ですと、試合直前に相手が負傷したり病気になったりして、対戦できなくなることがあります。また、直前になって条件が合わないという事態もあります。

 そういう場合、プロモーターは試合を成立させるために対戦相手を探します。この場合、選手には一週間前に試合のオファーが来たりするんですよ。

 これは正直、キツいものがあります。何せ、プロの試合というのは大抵の場合、三ヶ月くらい前にオファーが来ます。選手はそれに合わせて、三ヶ月で最高のコンディションにしなければなりません。

 精神面に関しても同じです。その試合の日に合わせて、精神面を整えていきます。

 ところが、試合の一週間前にいきなりオファーが来たら……そういう手順を全て抜きにして挑まなければなりません。はっきり言って、厳しい闘いになりますよね。

 もっとも、これはある意味チャンスでもあります。特にあまり有名でない選手の場合、大きな試合に出られるチャンスですからね。

 ましてや、対戦相手が有名な選手であったら……負けても元々ですが、勝てば大金星となり一気に名前が売れます。さらに、負けたとしてもいい試合が出来れば、マスコミやプロモーターの目に留まる可能性があります。

 まだ若く無名の選手にしてみれば、これはチャンスですね。他人のケガがチャンスになる……そう考えると、格闘技とはまことに非情な世界なのであります。




 ちなみに以前、このエッセイで紹介したボブ・サップですが、あるイベントでアーネスト・ホーストとの試合が組まれていました。ところが、試合の数時間前になってドタキャン……というとんでもないことをやらかしております。

 結果、白羽の矢が立ったのはピーター・アーツでした。アーツは突然のオファーにも快く応じ(という話ですが本当に快く応じたかは分かりません)、ホーストとの試合に臨んだそうです。

 アーツは健闘しましたが、準備万端のホーストの前に敗れました。もっとも、この敗北はアーツの株を上げこそすれ、下げはしなかったでしょうね。







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