プロレスラーは選ばれし者なのです
これは、私が中学生だった時の話です。格闘技とはズレる部分もありますし、若気のいたりで片付けられない部分もあります。しかし、あえて黒歴史を晒させていただきます。
当時の私は、プロレスラーに憧れていました。将来はプロレスラーになりたい、と本気で考えていたのです。
しかし、当時プロレスラーになるための条件が身長百八十センチ以上でした。さらに、入門テストではスクワット五百回をクリアしなければなりません。さらに入門してからは、スクワット千回が毎日のノルマである……という話も耳にしていました。
ここで問題なのは、中学二年の時点で私は百六十センチもなかったことです。プロレスラーになるためには、まず身長を伸ばさなくてはなりません。
そこで私は、牛乳を大量に飲むことにしました。毎日、一リットルずつ飲んだのです。また、スクワットも毎日やりました。
ところが、身長は思うように伸びず、スクワットの回数も増えません。私は、どうしたものかと考えました。
そんな時のことです。私は休み時間に、妙なものを発見しました。校舎の外に倉庫のようなものがあり、そこに給食の時に飲む牛乳がしまわれていたのです。
私は思いました。今の量で足りないなら、あの牛乳を飲んじまおうと。
普通の人なら、こんな発想にはたどり着かないでしょう。仮に思いついても、実行には移しません。
ところが、当時の私はアホでした。授業中「先生トイレ!」などと言って教室を抜け出し、倉庫に忍びこんで牛乳を盗み飲みしていたのです。
しかし、私のこの悪事はバレてしまいました。一年生の分の牛乳が毎日のように足りず、職員会議で「これはおかしいぞ」ということになったのです。こんな飽食の時代に、牛乳を盗んでいるバカがいるとは思えないが、念のため見張ってみよう……という話になったとか。
で、私は見つかってしまいました。理科の教師に「こんなバカを見たのは初めてだ」と呆れられ、体育教師には「プロレスラーになりたかったら、高校でレスリング部に入れ」などと、拳骨とともにアドバイスをいただきました。
ちなみに、私の身長はそこそこ伸びましたが、それが牛乳のおかげかは不明です。
話が脱線しましたが、当時の私は毎日スクワットをやっていました。しかし、結局のところ二百回がやっとでしたね。それ以上は伸びませんでした。やがて私はスクワットをやめ、必然的にプロレスラーになりたいという夢も諦めました。
結局のところ、プロレスラーという職業は選ばれし者のみが就けるんですよね。スクワット千回を毎日こなす、これは、普通の人間には出来ません。
普通の人間が、スクワットをやったとしましょう。百回できれば上等ですが、翌日には筋肉痛に襲われます。今のトレーニング理論では、筋肉痛の時には休ませるのが常識です。したがって、毎日スクワット千回……というのはオーバートレーニングでしかありません。それ以前に、常人がスクワット千回など不可能なのですが。
しかしプロレスラーにとって、スクワット千回はトレーニングではないのです。彼らにとって、それはあくまでウォーミングアップ程度でしかありません。
スクワット千回がウォーミングアップにしかならない、これはもはや根性だけでどうにか出来るレベルではないですね。生まれ持った素質が大きく関係してきます。スクワット千回をこなしても、翌日にはピンピンしている……この回復力は、常人では有り得ませんね。
つまりスクワット千回を毎日こなすというのは、トレーニングというより素質の有無を見分け、ふるい落とすための儀式なのではないかと思います。
プロレスは格闘技と比べると、試合数が圧倒的に多いです。しかも、相手にケガをさせないギリギリの部分で、計算された無茶をやってのけます。相手の技を受け止め、ケガをさせないギリギリの技を返していく……これは、選ばれた者でなければ出来ません。
百キロを超える男を持ち上げ投げつけ、逆に投げられ、チョップやキックを何発も受け……我々なら、一日で体が壊れますね。
しかも、プロレスラーは休めません。翌日には次の試合があります。試合で受けた体のダメージを一日で回復させ、次の試合に挑まなくてはならないのです。
スクワット千回が、毎日のウォーミングアップ程度の効果でしかない……そんな恵まれた肉体の持ち主だけが、プロレスラーになれるのです。逆に言うと、その程度のことがキツいと感じるようでは毎日の試合をこなすことなど出来ません。私のような常人には、勤まらない職業ですね。




