自己満足
おっさんの中には、若い頃の自慢話をする人がいます。「ケンカで地元の暴走族をボコボコにした」「何人もの女を泣かせた」「昔、空手の黒帯で蹴りでバットをへし折れた」「かつて剣道をやっており、棒があれば強い」などなど……基本的に、ケンカ自慢とモテ自慢が多い気がします。あとは「俺は昔、こんな苦労をした」という苦労自慢でしょうか。
まあ、こんなものは単なる自己満足のための呟きと捉えた方が、聞いているこちらの精神のためにもいいかと思います。まともに相手にしていると、疲れるだけですので。
ただ個人的には、格闘技という分野は実際に闘えてナンボだと思っております。公式の場での記録や、しっかりした実績のある人間ならともかく、そうでない人が「俺は昔、強かったんだぜ」などと自慢する姿はカッコいいものではないですね。
まあ、逆にそうした実績がないからこそ、確かめようもない自慢話に花を咲かせるのかもしれませんが。
以前、自己満足のためのトレーニングについて少し触れましたが……自身のレベルが上がるにつれ、練習のレベルもまた上がります。というより、上げなくてはなりません。
ところが、得てしてトレーニングのレベルを質ではなく、量で判断してしまうことがあります。トレーニングを一日に数時間やった、だから俺は凄い練習をしている……というような状態に陥ることがあるんですよね。
これは、明らかに良くない状態です。前にも書きましたが、トレーニングは量より質です。プロ選手の中には、トレーニングを一日二時間程度で切り上げる人はざらにいます。それ以上やっても、大して意味がないことを知っているからです。
にもかかわらず、一日に何時間ものトレーニングをする……これはもう、試合に勝つためのトレーニングではありません。トレーニングのためのトレーニングであり、ひいては自己満足でしょうね。
また、ウエイトトレーニングでも似たケースがあります。トレーニングジムに行くと必ず一人はいるのが、滅茶苦茶なフォームでベンチプレスをしている人ですね。普通の人と大して変わらない体で、やたらプレートを付けたバーベルをチョンチョンと挙げる……こんな人がいるんですよ。
厳密に言うと、このやり方は全く意味がない……というわけでもないんですね。ウエイトトレーニングは、ずっと同じ内容のメニューでやっていた場合、体がトレーニングに慣れてしまい停滞します。
したがって、時には筋肉に普段と違う刺激を与えることが必要なんですね。そのため敢えて間違ったフォームで、重いバーベルを挙げることもあります。
しかし、毎回フォームが無茶苦茶な状態で挙げていては……怪我のリスクが飛躍的に高まります。それ以前に、筋肉も増えないし筋力も上がりません。なぜなら、最初から全てにおいて間違えているからです。それどころか、事故にも繋がりかねません。やめた方がいいでしょう。
実際、扱いきれないような重いバーベルで無理にベンチプレスをやった結果、首を折った人もいたそうですから。
ここまで批判的に書いてきましたが、実はそうした自己満足のトレーニングを、全否定することも出来ないんですよね。
試合において重要な要素に、自信を持つというものがあります。自信とは、自分を信じると書きますね。自分を信じるには、信じるに足る何かが必要です。
若い時にありがちな根拠のない自信など、試合前の不安の前にはひとたまりも無いでしょう。
そんな時、無茶なトレーニングというのは自信の根拠になる場合があります。試合前に「あんなキツいトレーニングに耐えてきた」と思い出すことにより、試合の恐怖を打ち消す……とまではいかなくとも、多少は緩和させられます。
この場合、数字というものは実に分かりやすい要素ですよね。「数時間、ハードなトレーニングをやった」というのは、自己暗示の材料としては良いかもしれませんね。
また「ベンチプレスで○キロ挙げた」というのも、自己暗示としてはいいかもしれません。たとえフォームが滅茶苦茶であったとしても、実際にプレートが多量に付いたバーベルの視覚効果は凄いですからね。
苦しい体験というものは武器になります。冒頭に挙げたおっさんたちの苦労自慢ではありませんが、「俺はキツい状況を乗り越えてきた」という思いもまた、自信に繋がることでしょう。結果、それが試合前や試合中の恐怖に打ち勝つ要因の一つになるケースもあります。言ってみれば、普段のトレーニングがメンタルトレーニングをも兼ねていたのです。
もっとも今は、フィジカルトレーニングとメンタルトレーニングは完全に分けて考えているようですが……それでもアマチュアのレベルですと、専門的なメンタルトレーニングをするのは難しいでしょう。
ですから、フィジカルトレーニングがメンタルトレーニングをも兼ねている……そのため、時には無茶なトレーニングを自分に課してみるのもいいかもしれません。
もっとも、バランスは考えなくてはなりません。普段はちゃんとしたトレーニングを行い、たまにスパイス的な要素として取り入れるなら問題はないと思いますが、闇雲にトレーニングの量を増やすのはデメリットの方が大きいですね。




