とある番組で観たもの
先日のことですが、テレビの番組にて気になるものを観てしまいました。
その番組は、外国にて間違って伝わっている日本文化を正していくという内容のようです。私が観た時は、外国にある空手の道場を取材していたのです。
その道場で行われていたものは……正直、明らかに伝統的な空手とは程遠い動きでした。空手というよりは格闘術、いやエクササイズといった方が近いでしょうね。
ただ、私はそのことについて、どうこう言うつもりはありません。たとえ空手とは程遠い動きであったとしても、現地の人たちがそれを空手と信じているのであるなら……それはそれでいいと思います。また、部外者である我々がどうこう言う問題ではない、とも思っております。
しかし、この番組のコメンテーターたちは……練習している人や教えているインストラクターたちを、終始バカにするような態度で見ていました。
さらには「何この動き」「握りがおかしいよ」などと、まるで専門家であるかのような発言をしていたのです。
正直、私の目にはコメンテーターの芸能人たちが空手の経験者であるようには見えません。にもかかわらず、自身の知らない分野のことを、よくもまあ知った風な顔でコメントできるなあと感心しましたね。
もっとも番組には台本があり、あらかじめコメントなども決められていたのかもしれません。彼らも、番組を盛り上げるのが仕事ですから。
ちなみに日本にも、空手の看板を掲げながら空手とは程遠いような動きをする流派があると聞いております。その事実を、このタレントたちは知っているのでしょうか。
それはともかく、私は観ていて気になる点が二つありました。
一つは、件の道場の師範が黒人であり、さらにあまりお洒落でなさそうな地域で活動していたことです。もし道場がビバリーヒルズのような高級住宅地にあり、師範がいかにもセレブな雰囲気を漂わせた知的なイケメン白人であったら、果たしてここまでバカにしたのかな……という疑問は感じました。いや、そもそも取り上げることすらなかったかもしれません。
まあ人種問題に関しては、格闘技とは関係ないので、これ以上は触れません。ただ、もう一つの点については……日本人特有といいますか、日本の格闘技界に特有の空気が関係している気がするんですよね。
かつて、日本のスポーツ界では技術のみを尊び、力を軽んじる風潮がありました。特に柔道や空手といった武道界隈では、力に対するアレルギー反応が激しかった記憶がありますね。
何かの番組で「技の柔道こそ、柔道本来の姿」などとアナウンサーが言っていた記憶があります。技を重視し、力を軽んじる……これは結局のところ、柔道本来の練習のみを重んじる考え方から来ているのでしょう。以前に某横綱を、とある記者が「近代的なトレーニングはせず、テッポウや四股などの地味な稽古を積んで横綱になった」と評していました。
こうした発言の根底にあるものは、結局「我々日本人が古来より築き上げてきたやり方こそが本物であり、他のやり方は間違っている」という考え方であるような気がします。
日本人が作り上げてきた伝統的な鍛練方法のみが正しく、外国人のやり方は全て間違いとして切り捨てる……これは、島国根性の最たるものだと思うんですよね。
もっとも今では、選手やコーチたちは積極的に新しいトレーニング方法を試しています。良いと思ったものはきちんと取り入れていますが……問題なのは、むしろ経験のない外野の意見なんですよね。
特に件の番組の場合、コメントしていた芸能人たちは空手の経験など無さそうな人ばかりでした。空手の基本や型の種類も知らず、テレビなどで観た僅かな知識のみで判断しているのです。
まあ、経験に関しては仕方ないことでしょう。人が一生のうちに経験できることなど、たかが知れています。問題なのは、その経験の無いことを、ほんの少し見聞きしただけの僅かなデータを基にした知識で批判していることなんですよね……。
そもそも空手の流派は、国内だけでもかなりの数があります。基本や型も、流派によって異なると聞きました。また、試合のルールもまるで違います。それ以前に、試合を行わない流派もありますから。
この統一性の無さこそが、空手の最大の問題点なのですが……これに関してはひとまず置きます。私が言いたいのは、これが本当の空手だ! と言える流派を挙げるのが、非常に難しいと言うことなんですよ。
そんな状況下でありながら、海外の空手に対し「それは違う」と言えるのだろうか……ということです。
それも、空手という世界に身を置き、日々鍛練している人が発言するなら分かります。しかし、空手とは縁もゆかりもないタレントが「あんなのは空手じゃない」とバカにするのは……これは違うと思いますね。まあ、タレントはそういう役割だから仕方ないですが、それを観た一般の人にまで、同じ考えを抱いて欲しくないですね。
結局のところ、空手は未だに玉石混合の世界です。柔道と違い、その統一性の無さが大きなマイナスとなっております。同じ空手の黒帯でも、強い人は本当に強いですが……弱い人は本当に弱い、これが正直なところです。
空手母国のはずの日本ですら、こんな状態です。なのに外国人に一つの流派を指して「これが本当の空手だ」などと言えるでしょうか。少なくとも、私は言えません。
蛇足ですが、その番組では「空手は武器は使わない」などと言っていました。しかし多くの流派で、武器を使った型は存在しています。番組はそれらの流派をも、否定するつもりなのでしょうか。




