あなたは強いですか?
以前、大勢の人間が集まる会に呼ばれた時のことです。私は自己紹介の時、総合格闘技をやっていますと言いました。
その後、他の人たちと軽く話したのですが……その時、若い人からこんなことを言われました。
「赤井さんは、この中で一番ケンカ強いですよね」
それに対し、私はこう答えました。
自分は日頃から、殴る蹴る絞めるといった技の練習をしていますし、体重も八十五キロ以上あります。普通の人よりは確実に強いでしょう。ただし、格闘技という枠内で考えるなら、自分は弱いです。自分より強い人などいくらでもいますから。
こういうことを書くと、どう思われるかは分かりませんが……格闘技をやれば、自分よりも遥かに強い人間が大勢いることを知ることとなります。
実際に格闘技をやっている人間なら、誰しもが頷いてくれることと思いますが……長くやればやるほど、上には上がいるという事実を思い知らされることとなりますね。
それは何もプロ、またはチャンピオンクラスの人間とは限りません。
一見すると普通のサラリーマン。しかし、スーツを脱いだ体は鍛え抜かれており、サンドバッグを叩くと爆発のような音が響き渡る……さらにスパーリングをすれば、こちらの放つパンチやキックをぎりぎりで見切り、躱していく。くそう、と思ってがむしゃらに突っ込んで行くと、カウンターのアッパーカット……ただし、きっちり寸止め。念のため言っておきますと、この技術はそれなりのレベルに達していないと出来ませんので。
他にも、一見すると小さなオジサン……しかし寝技をやらせれば、大きな人から関節技でばんばん一本を取れる人もいます。その人はプロの格闘家ではありません。格闘技をやっていると、こんな人がいくらでもいるのを知ることになりますね。
また、アマチュアの試合に出ると……改めて、格闘技をやっている人ってこんなにいるのか、と驚かされますね。
私がやっているのは総合格闘技です。ボクシングや柔道と比べると、メジャーとは言えません。しかし、アマチュア修斗(総合格闘技の登竜門的な大会です)などに行くと、大勢の人間が会場に来ています。マイナーなはずの格闘技をやっている人間が、これだけ大勢いるのか……と思うと、何とも言えないものを感じますね。
さらに私の場合、アマチュアの試合に出場したりしていますが……試合で私に勝った相手が、プロに転向していることもあります。ところが、その私に勝ったはずの相手が、プロの世界では黒星が先行していたりすると……切ないものを感じますね。
しかも、そのプロの世界では、さらに強い猛者たちがゴロゴロしている……この事実は無視できません。
もっとも、これは試合形式のある格闘技をやっている人間でないと分からない感覚かもしれませんね。小さな町道場を開いている武術家の中には、門下生に技や型のみを教え「井の中の蛙」と化している人もいるそうです。
自分と同レベル以上の者と本格的に競い合うことをせず、しかも周りは素人ばかりなので、その環境で御山の大将となっている……あくまで噂でして、実際に存在するかどうかは知りません。まあ結局は、そういう者も自身が強くないということを知っている訳ですが。
いろいろ書いてきましたが……格闘技の世界を多少でも覗いてみると「上には上がいる」という言葉を肌身で知ることとなります。
実際、強い人間はいくらでもいますしね……例えば私の寝技の師匠は、私を簡単に絞め落としたり関節技でギブアップさせたり出来ます。その師匠ですら、徹肌ィ郎さん(プロの格闘家)の寝技には敵わないとのことです。
余談ですが、この徹さんはあまり有名な選手ではないですし体も小さいですが……寝技に関しては飛び抜けたものを持っている人です。私サイズの人間をも圧倒してしまう実力の持ち主です。
プロアマ、あるいは有名無名を問わず、強い人がいくらでもいるのが格闘技界ですね。
そんな中で、「あなたは強いですか?」と問われて「はい」と答えられるほど、私は面の皮が厚くありません。まあ、弱くないよう日頃から努力はしています、としか言い様がないですね。
ただ悲しいことに「俺は強いぞ」などと言って声高に武勇伝をアピールする面の皮の厚い人の方が、一般受けしやすいのも確かですが……。




