その人気には理由がありました
私がウエイト・トレーニングを行なうジムには、古武術の経験があるトレーナーがいます(格闘技のジムのトレーナーとは違う人です)。忙しくない時などに、たまに話をするのですが……いろいろと面白い話が聞けますね。
先日のことです。私は、このトレーナーに聞いてみました。
「昔話や創作物では、古武道や拳法の奥義として触れただけで相手の内臓や骨まで破壊できる技が登場しますが、あれは実際に可能だと思いますか?」
すると、トレーナーはこう答えました。
「創作物に登場するものはともかく、奥義として伝わっているもの……例えば触れただけで相手にダメージを与えるような技は、理論的には可能です」
私は驚きました。触れただけで相手にダメージを与える……そんな恐ろしい技がもし使用可能であるなら、無敵ではないのだろうか、などと考えてしまいました。
すると、私の表情の変化に気づいたのでしょうか。トレーナーはこう言いました。
「あくまで理論上は、ですよ。数学の、紙一枚で月に行く方法と同レベルだと思います」
紙一枚で月に行く、というのは……紙を何十回か折れば、いつかは月に行ける厚さになるという理論があります。ただ、これはあくまで理論上は……という但し書き付きです。実際に紙で月に行くのは不可能でしょうね。
「じゃあ、無理ということですか?」
と私が聞くと、トレーナーは微妙な表情になりました。
「断言は出来ませんが、まあ実際に使うのは非常に難しいでしょうね。仮に動きそのものは出来たとしても、実際に使うとなると相手のいることですから……」
話は変わりますが、かつては極真空手こそ最強の格闘技である、といわれていた時代がありました。
ここには、宣伝の上手さがあったのは確かでしょう。故・梶原一騎先生という創作の天才が宣伝に協力していた……という事実は、本当に大きかったでしょうね。
しかし、それだけではありません。当時の極真空手が進んだ練習をしていたのも確かです。
今からは想像もつかない話ですが、当時の空手は「実際に当てたら大変なことになる」と信じられていたのです。
そのため、主な練習は実際には当てず、基本稽古や型や巻き藁突きといった伝統的な鍛錬法が主だったようです。もっとも、恐ろしく過激な鍛錬法をしている流派もあったようですが、今はそこには触れません。
そんな中で、極真空手はバシバシ殴り合う組み手を披露しました。また練習も、スパーリングをガンガンやる新しいものだったのです。
それだけではありません。極真空手は、当時としては珍しく練習にウエイトトレーニングを導入していたのです。言うまでもなく、格闘技において力は重要な役割を果たします。ウエイトトレーニングを取り入れるということは、筋力の重要性を理解していたわけですね。
昔の話ですが、私が入門した極真空手の道場では、週に一度ウエイトトレーニングの指導を行なっていました。また、道場のパンフレットにはウエイトトレーニングについて、こう書かれていました。
「一ヶ月もすると体つきが違ってきますし、何よりも突きや蹴りの威力が段違いになります。皆さん強くなるために、ぜひ参加してください」
当時の極真空手では、ウエイトトレーニングもまた練習の一環だったのです。
私が今回、言いたいのは……格闘技には、もはや神秘的な幻想というのは不要だということです。
実際、武道や武術の世界には未だに嘘やハッタリだけの人間も少なくありません。ただ、昔は今など比較にならないくらい多かったようです。
そうした人間は「実際に殴ったら大変なことになる」「触れただけで殺せる奥義がある」などという言葉で、実際の闘いを避けてきました。
そんな中、極真空手は実際に殴り合い蹴り合い、またウエイトトレーニングによる力の重要性を知らしめました。もちろん、故・梶原一騎先生という有能な宣伝家の力もありますが……スパーリングのような対人練習をやり、さらにウエイトトレーニングもやるという進んだ練習体系が、門下生たちを現実に強くしていったのは間違いないでしょうね。
結局のところ、現実に強くなれるからこそ広まっていったのです。この現実という部分……皆さんには、是非ともよく考えていただきたいですね。




