武術界の嫌な悪癖
最近、相撲が人気だそうですね。相撲女子、スージョなどと呼ばれる人たちもいるとか。この言葉に関しては、説明の必要もないですよね。
ちなみに故・阿佐田哲也先生の短編には、異様な風体で一人の力士を応援する女性が登場しています。この作品自体はフィクションのようですが、モデルになった人物はいたものと思われます。どうやら、昔から相撲女子は存在していたようですね。
とはいっても、私は相撲の知識はほとんどありませんが……かつて総合格闘技に挑戦した曙のトレーニングを手伝った人から、曙についての話を聞いたことがあります。一言で言うと「化け物」だったとか。パワーは本当に人間離れしており、あのパワーを試合でも上手く活かせれば……と嘆いていたようです。
もっとも、力士から総合格闘家に転身された戦闘竜さんは、その持ち前のパワーを維持しつつも総合格闘技のための体へと肉体改造しています。さらに、小さな団体とはいえヘビー級のチャンピオンにもなっています。向き不向きというのは、あるのかもしれませんね。
さて、相撲について色々と書いてきましたが……今回のテーマは相撲ではありません。
最近になって発見したのですが、とある武術家がこのようなことを書いていました。
「私の知り合いであるAという達人は、相撲のルールに即して対戦しても現横綱の白鵬が勝てるとは思えないくらいの人で……」
これは、二〇一三年に書かれたものです。若干オブラートに包んだ表現をしてはいますが、要は「達人のAは白鵬と相撲をしても勝てる」と言っているわけですよね。私は決して歪んだ捉え方をしているわけでありませんし、揚げ足取りをしているわけでもありません。
日本の国技である相撲、その頂点に立つ横綱に相撲のルールで闘い勝てるなどという発言……自分のことではないとはいえ、これは暴言と言われても仕方ないかと思いますね。
しかも、この発言は検証のしようが無いのです。仮に、このAさんという達人が白鵬より強いかどうか、検証を試みたとしましょう。その場合、Aさんと白鵬は相撲を取らなくてはなりません。果たして、無名のAさんと横綱の白鵬が公の場で相撲で勝負できるでしょうか。恐らくは不可能でしょう。
つまり、件の武術家は検証が不可能であるのをいいことに「Aは白鵬に勝てる」と言っているわけです。こういった発言は、本当に何とかした方がいいと思いますね。
例えば、過去の達人には信じられないようなエピソードを持つ人がいます。銃弾を躱した、十人の暴漢に襲われたが一瞬にして全員を倒した、などなど。それらのエピソードもまた、検証のしようがないのは間違いありません。
もっとも古来より伝わる鍛練法などを研究し、こうした神業とも思える逸話が現実に可能なのかどうか……それを調べて検証するのは意義のあることだと思いますし、私も否定はしません。
しかし「達人のAは白鵬と相撲のルールで闘っても勝てる」という発言は、はっきり言ってバカバカしいものです。また、卑怯だとも思います。「俺は格闘家の○○に勝てるぜ」などと言っているチンピラと、まるきり同レベルではないでしょうか。
いわゆる古武術の世界にも、真摯な態度で技を磨いている人も大勢いることでしょう。ところが「達人Aなら、白鵬を相手に相撲のルールで闘っても勝てる」という発言は、真面目に古武術を研究している人たちのイメージをも貶めるものです。
こうした発言こそ、古武術の世界を怪しげなものにしていく原因ではないでしょうか。Aさんが本当に実力者だったとしても、それは実証できる分野で証明すればいいのではないかと思います。
さらに言うと、国技である大相撲に対する侮辱にも繋がりかねない発言ですよね。もっとも、相撲界は最初から相手にしていないでしょうが。
以前、格闘家を集めて相撲をさせたテレビ番組がありました。パワー自慢のプロレスラーや格闘家がそろっていたのですが、元横綱の曙がぶっちぎりで優勝していました……まあ当然なのでしょうね。
この番組を復活させ、是非とも達人のAさんに出場していただきたい……などと思うのは、さすがに私だけでしょうね。




