地味ですが重要な部位
昔、ある空手家はこう言ったそうです。
「空手家は肘から先、膝から下を徹底的に鍛えなくてはならない」
これは本当にその通りだと思いますね。自分でも格闘技をやって分かったことですが、肘から先と膝から下というのは、格闘技でも多用する部分なんですよね。ですから、きっちりと鍛えていかなくてはなりません。
アクション映画などでよく見かけるのがハイキックです。足を高く上げ、敵の顔面を打ち抜くハイキックは華麗で見映えのいい技ですね。
しかし、相手をKOできるようなハイキックを放つには、相当の鍛練が必要です。まずは、体の柔軟さが必要なのは分かりますね。ハイキックを打つには、最低条件として相手の顔に足が届かなくてはいけませんから。
しかし、体が柔らかいだけでは不十分です。ただ足が高く上がるだけでは、仮に当たっても「ペチン」という軽い蹴りになってしまいますので。
倒せるハイキックを打つには、体を回転させて体重を乗せ「振り抜く」ことも必要です。そのためには、軸足の膝から下の筋肉が大事ですね。蹴る方の足よりも、軸足がしっかりしていないといけません。
また、ハイキックに限らず回し蹴り全般に言えることですが、すねや足の甲などを鍛えておくことも大事です。前にも書きましたが、一般人にとってすねは弱い部分です。回し蹴りという技は、その本来なら弱いはずの部分を相手にぶつけていくものです。当然、鍛えていなければ自分もダメージを負うでしょう。実際、飛んできたミドルキックを膝で受け止め相手の足を壊す、というテクニックもあるくらいです。
そのため、キックボクサーや空手家は徹底的に膝から下を強くします。サンドバッグや砂の詰まった米袋などをコツコツと蹴り、すねや足の甲を強くしていきます。そうでなければ、回し蹴りを武器として使うことなど出来ません。
余談になりますが、たまに護身術で回し蹴りを使うよう指導する人がいると聞きました。私は、護身術の技として回し蹴りはオススメしません。はっきり言いますが、膝から下をきっちり鍛えていない一般人が回し蹴りを放ったところで、効果的なダメージを与えられるとは思えません。むしろ、すねや足の甲が相手の肘や膝に当たってしまったら……一発で戦意を喪失するくらいのダメージを受けることもあります。言うまでもなく、蹴った側がダメージを受けるのです。
一般人に教えるなら、むしろ前蹴りや横蹴りといった、足裏やかかとなどを相手に当てる技の方が有効かと思います。少なくとも、回し蹴りを有効に使うには……それなりの鍛練が必要ですので。
ちなみに、故ブルース・リーの創設した武術『ジークンドー』は横蹴りを多用するスタイルのようです。護身という観点から見た場合、相手を突き放せる技の方がより重要なのかもしれませんね。
逆に、相手がハイキックを打ってきたとします。その場合、首を振ったり上体後ろに反らせて躱したりします。ただ、それが間に合わない時は腕でガードしなくてはなりません。そうすれば、致命的なダメージは防ぐことが出来ます。
しかし、ただ腕で受けるだけではいけません。ミドルキックを腕でガードしたものの、腕が折れてしまった……ということもあります。そのため、蹴りのダメージを逃がすテクニックを用いたりもしますね。
ただ伝統派の空手や拳法には、前腕を木や米袋などに打ち付けて鍛えるような方法もあります。ジャッキー・チェンの映画などでは、木製の人形に向かい攻防の練習をしているシーンがありますね。あれは技の練習と同時に、前腕の鍛練にもなっているのです。木製の人形に前腕や拳などを打ち付けることにより、部位の強化をもしている訳ですね。
ちなみに私は小学生の時、ジャッキーの映画を観た翌日は木製の椅子を横向きで適当な高さに置き、椅子の足に向かい一人でそれらしい練習をしていました。「ハイッ! ハー!」などというかけ声と共に……今思うと、本当にアホでしたね。
伝統派の空手には、様々な手技があります。貫手、鉄槌、手刀、裏拳、掌底といった技はグローブ着用のルールでは使えないものばかりです。これらの技は、極めれば強烈な威力を発揮します。ただし、手や手首などをきちんと鍛えておかないと使いこなすことは出来ません。鍛えていない人では、自分の手も痛めてしまいます。
また余談になりますが、一説によると伝統派の空手の流派の中には現代のフルコンタクト空手のように、顔面への正拳による突きを禁止しているところもあったとか。代わりに、その流派は敵の顔面は手刀や掌底などの手技で攻撃することを推奨していたようです。確かに、素手の拳で顔を殴ると痛めやすいですからね。一理あると思います。
アクション映画では、俳優は華麗なハイキックで敵をKOしたり、相手の放つ技を素手でさばいたりしています。ただ現実の格闘でそれを行うには、地道な鍛練が欠かせません。肘から先、膝から下の部分の鍛練は地味ではありますが、格闘技においては必要不可欠なものです。プロ格闘家が試合で放つ、何のへんてつもない一発のローキック……しかし、その一発のローキックを打つためには、何百時間の鍛練が必要だということも知っていただけると幸いですね。




